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会社設立 節税 サラリーマン

会社設立で経費にできる範囲は本当に広がるのか。サラリーマンが誤解しやすいところ

この記事の対象

会社設立の理由として「経費にできる範囲が広がる」という説明を見て、実際どこまでなのかを知りたい会社員の方に向けた記事です。社宅、出張日当、退職金といった、法人ならではと言われる項目を扱います。

ただし先に申し上げておくと、これらはいずれも要件つきです。規程を整える、契約名義を法人にする、実態が伴っている。この三つが揃わないまま処理すると、税務調査で否認される可能性があります。節税のつもりが負担増になる形を避けるために、要件のほうを中心に書きます。

個別の経費が認められるかどうかの判断は、事実関係によります。当サイトでは一般的な考え方を示すにとどめますので、実際の処理は税理士にご確認ください。

なぜ法人のほうが経費の範囲が広いと言われるのか

なぜ法人のほうが経費の範囲が広いと言われるのかを表したイラスト

会社設立をすると経費の範囲が広がる、という説明の根拠は、突き詰めると一つです。法人は、あなたとは別の人格になるという点です。

個人事業主の場合、事業主本人は事業と一体です。自分に給与を払うことも、自分に出張手当を出すことも、自分に退職金を払うこともできません。自分から自分へお金を移しても、それは経費になりません。

法人をつくると、あなたは法人の役員という立場になります。法人から役員へ支払うものは、要件を満たせば法人の損金になります。ここが、会社設立で経費の範囲が広がると言われる仕組みです。

個人事業主と法人で扱いが変わる主な項目
項目 個人事業主の場合 法人の場合
本人への報酬 経費にできません 役員報酬として損金にできます(要件あり)
本人への退職金 経費にできません 役員退職金として損金にできます(要件あり)
本人への出張日当 経費にできません 規程があれば損金にできます(要件あり)
住まいの費用 事業使用分の按分のみ 社宅として一部を損金にできます(要件あり)

※ いずれも「要件あり」です。要件を満たさない場合は損金になりません。以下の各節で順に見ていきます。

ただし、この表を見て「法人にすれば何でも経費になる」と読まないでください。すべての項目に要件がついています。サラリーマンが副業で会社設立をする場合、この要件を満たす体制を整えるところに手間がかかります。

サラリーマンが会社設立を検討する動機は、多くの場合ここにあります。副業で使っている機材や通信費を、もっと広く経費にできるのではないか。その期待自体は間違っていません。ただ、会社設立によって広がるのは「範囲」であって「自由」ではないという点を、最初に押さえておいてください。

出典No.1350 事業所得の課税のしくみ(事業所得) (国税庁/2026年8月21日確認)

役員報酬。金額を自由に動かせるわけではない

役員報酬。金額を自由に動かせるわけではないを表したイラスト

法人の経費のうち、金額がいちばん大きくなるのが役員報酬です。ただしこれには厳格な要件があります。

国税庁の示すところによれば、役員給与のうち損金に算入できるのは、定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与のいずれかに当てはまるものです。これ以外の役員給与は、原則として損金になりません。

  • 定期同額給与支給時期が1か月以下の一定の期間ごとで、その事業年度の各支給時期における支給額が同額であるもの。
  • 事前確定届出給与所定の時期に確定額を支給する定めに基づくもので、事前に税務署へ届け出たもの。
  • 業績連動給与一定の指標に連動して支給されるもの。同族会社では適用が限られます。
「儲かったから増やす」ができません事業年度の途中で役員報酬を増額すると、増やした部分が損金にならないことがあります。会社設立をしたあと、通常は事業年度開始から3か月以内に決めた額を、その年度は同額で払い続けることになります。サラリーマンの副業は収入が読みにくいことがありますが、先に決めなければならないという制約を理解しておいてください。

会社員の場合、役員報酬を取ると本業の給与と合算されて所得税がかかり、さらに法人でも社会保険の被保険者になります。節税のつもりで報酬を増やすと、社会保険料が増えて手取りが減ることがあります。法人の損金だけを見て決めないでください。

役員報酬の設計は、会社設立後の節税の結果を最も大きく左右する部分です。会社員の場合、本業の給与にいくら上乗せするかという判断になりますから、個人事業主が法人化する場合とは考え方が変わります。ここを詰めないまま会社設立を進めると、節税どころか手取りが減ることがあります。

出典No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分) (国税庁/2026年8月21日確認)

社宅。契約と規程が整っていることが前提

社宅。契約と規程が整っていることが前提を表したイラスト

社宅は、法人ならではの項目としてよく挙げられます。仕組みとしては、法人が住居を借り上げ、役員に社宅として貸し付けます。法人が支払う賃料は損金になり、役員は一定の家賃を法人に支払います。

ただし、ここには要件があります。契約の名義が法人であること、社宅に関する規程が整備されていること、そして役員から徴収する家賃が税法上定められた金額以上であることです。

家賃を取らないと給与になります役員から適正な家賃を受け取っていない場合、その差額は役員に対する経済的利益、つまり給与として扱われます。給与とされれば所得税がかかり、定期同額給与の要件を満たさなければ法人側でも損金になりません。両方で不利になるという形です。

サラリーマンが副業のために会社設立をした場合、いま住んでいる自宅をそのまま社宅にできるかというと、簡単ではありません。個人名義の契約を法人名義に切り替える必要があり、賃貸借契約によっては貸主の承諾が要ります。持ち家の場合はさらに事情が変わります。

社宅として経費処理するために確認すべき項目のチェックリスト
この四つが揃わないまま処理すると、節税どころか負担が増えます。

持ち家の場合はどう考えるか

賃貸ではなく持ち家に住んでいる会社員が会社設立をした場合、社宅の仕組みはそのままは使えません。自宅を法人に貸し付けるという形は取れますが、そうすると個人側に不動産所得が生じ、法人から受け取る賃料に対して所得税がかかります。法人側で損金になった分だけ、個人側で課税されるという関係になり、全体として節税になるかは条件によります。

また、住宅ローン控除を受けている場合、居住用としての要件との関係が問題になることがあります。ここは判断が難しい部分ですので、持ち家の方が社宅を検討される場合は、会社設立の前に税理士へご相談ください。

出典No.5202 役員等に対する経済的利益 (国税庁/2026年8月21日確認)

出張日当。規程がなければ始まらない

出張日当。規程がなければ始まらないを表したイラスト

出張日当も、法人ならではの項目として紹介されることが多いものです。出張旅費規程に基づいて支給される日当は、通常必要と認められる範囲であれば、受け取る側に所得税がかからず、法人側では損金になります。

ここでの要点は、規程が先だということです。規程がないまま「今月は出張が多かったから日当を出す」という処理をすると、根拠のない支給として給与に該当する可能性があります。

  • 出張旅費規程を作成し、対象者・支給額・出張の定義を定める
  • 実際に出張した事実を記録として残す(日付・行き先・目的)
  • 支給額が同業・同規模の会社と比べて過大でないこと
  • 役員だけを特別に優遇する内容になっていないこと

サラリーマンの副業法人の場合、そもそも出張が発生する事業なのかという点が問われます。自宅で完結する事業で高額な日当を継続的に支給していれば、実態との整合性を説明できません。経費にできる項目があるから使う、という順番で考えないでください。

なお、出張日当を含めた旅費規程の整備は、会社設立の直後に行っておくのが自然です。あとから遡って規程を作成しても、支給した時点で根拠がなかった事実は変わりません。サラリーマンとして本業のかたわらで運営する以上、こうした書類の整備を後回しにしがちですが、節税の効果を確実にするためには先に済ませておくべき部分です。

出典No.2508 給与所得となるもの (国税庁/2026年8月21日確認)

退職金。長い目で見たときの選択肢

退職金。長い目で見たときの選択肢を表したイラスト

役員退職金は、法人を持つ利点として挙げられる項目です。個人事業主は自分に退職金を払えませんが、法人であれば役員退職金を支給でき、支給額は損金になります。受け取る側でも退職所得として扱われ、給与所得とは別の計算方法が適用されます。

ただし、これは会社設立をしてすぐに効くものではありません。役員として在任した期間が短ければ、退職金として認められる金額も限られます。不相当に高額と判断された部分は損金になりません。

時間がかかる仕組みです退職金を目的に会社設立をするのであれば、10年、20年という単位で法人を維持する前提になります。その間、毎年の均等割と税理士費用がかかり続けます。節税額と維持コストの両方を、長い期間で並べて比べてください。サラリーマンとして本業を続けながら、それだけの期間、法人を運営し続けられるかという視点も必要です。

なお、法人の資金で役員の生命保険に加入し、将来の退職金の原資にするという形が紹介されることがあります。保険の種類によって損金にできる割合が定められており、扱いは複雑です。ここは必ず税理士にご確認ください。

受け取るときの税負担も見ておく

退職金には、勤続年数に応じた退職所得控除があり、控除後の金額の2分の1が課税対象になるという計算方法が用いられます。給与として受け取る場合と比べて税負担が軽くなりやすいのは、この計算方法によるものです。会社設立から長く続けた法人ほど、控除できる額が大きくなります。

ただし、役員としての在任期間が短い場合には、この2分の1の扱いが制限される規定があります。サラリーマンが数年だけ法人を持ち、退職金を出してたたむという形は、想定どおりの節税にならない可能性があります。

出典No.1400 給与所得 (国税庁/2026年8月21日確認)

否認されるのはどういう場合か

否認されるのはどういう場合かを表したイラスト

ここまで見てきた項目には、共通する要件があります。実態が伴っていることです。規程をつくり、契約名義を整えても、実際の事業がそれを必要としていなければ、否認される可能性があります。

問題になりやすい形

  • 法人としての事業の実体がなく、経費を計上するためだけに存在している
  • 個人の生活費(家族での食事、私的な旅行)を法人の経費にしている
  • 規程を作成した日付と、実際の支給の時期が整合していない
  • 本業の業務に関する支出を、副業の法人の経費として処理している
  • 役員報酬や日当の額が、事業の規模と釣り合っていない

否認されると、本来納めるべきだった税額に加えて、加算税や延滞税がかかります。会社設立から数年分をまとめて指摘されれば、それまでの節税額を上回ることもあります。

とくにサラリーマンの副業法人では、本業の支出と法人の支出が混ざりやすいという事情があります。通信費、交通費、書籍代。どちらのためのものかを説明できるよう、記録を分けておいてください。

会社設立による節税を検索すると、踏み込んだ手法を紹介する情報に行き当たります。ただ、そうした手法の多くは要件の説明が省かれています。サラリーマンが会社設立をして節税を図る場合、実態のある事業をどう組み立てるかが出発点であり、経費の項目を増やすことが出発点ではありません。

会社員の副業法人は規模が小さいぶん、事業の実体を説明する材料も限られます。だからこそ、記録を残すことが節税を守ることにつながります。

出典No.5100 新設法人の届出書類 (国税庁/2026年8月21日確認)

会社設立をせずにできることと比べる

会社設立をせずにできることと比べるを表したイラスト

経費の範囲を広げたいという動機で会社設立を考えている場合、その前に個人のままでできることを確認しておく価値があります。

会社設立をする場合と個人のまま整える場合を比べた図
経費の計上漏れを直すだけで済むこともあります。まずそこを確認してください。

副業の利益がまだ小さい段階では、会社設立によって増える固定費のほうが、広がった経費の範囲による節税額を上回ることがあります。会社員として本業を持ちながらの運営になりますから、手間の増加も考慮に入れてください。

会社設立をするかどうかは、経費の範囲だけで決める話ではありません。節税の効果、維持コスト、手続きの手間、そして就業規則の確認。会社員が法人を持つ場合は、この四つを並べて判断してください。

個人のままでできることとして、もう一つ挙げておきます。副業の所得が事業所得として認められる規模であれば、青色申告の承認を受けることで、複式簿記による記帳を要件に特別控除が使えます。会社設立をせずに、記帳の方法を変えるだけで控除が増えるという形です。

一方で、副業の所得が雑所得にとどまる規模の場合、この特別控除は使えません。ご自身の副業がどちらに当たるかによって、会社設立を考える前の選択肢が変わります。所得区分の判定も税理士に確認しておくとよい部分です。

出典No.1410 給与所得控除 (国税庁/2026年8月21日確認)

まとめ

まとめを表したイラスト

会社設立による経費の扱いについて、この記事で整理したことをまとめます。

会社設立で経費にできる範囲が広がるのは事実ですが、それが節税につながるかどうかは別の問題です。サラリーマンとして本業を続けながら要件を満たす体制を整えられるか。そこが分かれ目になります。

  1. 法人が別人格になることで、本人への報酬・退職金・日当が損金にできるようになります
  2. 役員報酬は定期同額給与などの要件を満たす必要があり、途中で自由に変えられません
  3. 社宅は契約名義・規程・適正家賃の三つが揃ってはじめて認められます
  4. 出張日当は規程が先で、実際に出張した記録が要ります
  5. 退職金は在任期間が必要で、短期間では効果が限られます
  6. いずれも実態が伴わなければ、税務調査で否認される可能性があります

「法人にすれば経費で落とせる」という言い方は、要件の部分を省略しています。サラリーマンが副業で会社設立を考えるときは、その要件を満たす手間まで含めて、節税額と比べてください。

この記事の内容について本文は2026年8月21日時点で国税庁などの一次情報を確認して書いています。個別の支出が経費として認められるかどうかは、事実関係によって判断が分かれます。当サイトは一般的な解説であり、個別の税務相談ではありません。実際の処理は必ず税理士にご確認ください。

出典No.5759 法人税の税率 (国税庁/2026年8月21日確認)

経費は「増やすもの」ではなく「正しく計上するもの」です

会社設立で経費の範囲が広がるのは事実です。ただしそれは、法人という別人格が事業のために支出したものを、正しく計上できるようになるという意味であって、個人の生活費を経費に変えられるという意味ではありません。

サラリーマンが副業の延長で法人を持つ場合、本業の給与という安定した収入があるぶん、法人の支出が事業に必要だったのかを説明しにくい場面が出てきます。規程を整え、記録を残し、説明できる状態にしておいてください。

判断に迷う支出が出てきたら、その都度、税理士に確認するのがいちばん確実です。あとからまとめて直すより、手間も費用も小さく済みます。

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