サラリーマンの会社設立は節税になるのか。得になる条件と、ならない条件を数字で確かめる
この記事は、こういう方に向けて書いています
副業や不動産、投資の収入が育ってきて、会社設立をすれば節税になるのではないかと考えはじめた会社員の方に向けた記事です。勤め先の給与はそのまま受け取りながら、法人を持つかどうかを迷っている段階を想定しています。
この記事は、会社設立をすすめるためのものではありません。サラリーマンが法人を持つと、節税になる場面と、かえって手取りが減る場面の両方があります。その線引きがどこにあるのかを、国税庁・総務省・日本年金機構などの一次情報にあたって整理します。数字はすべて確認した日付と出典を添えています。
なお当サイトは一般的な制度の解説であり、個別の税務相談ではありません。実際に会社設立を判断されるときは、必ず税理士などの専門家にご確認ください。
サラリーマンが会社設立を考えはじめるのは、どのあたりからか

会社員が会社設立を意識しはじめるきっかけは、たいてい同じところにあります。副業や不動産、投資の収入が増えて、確定申告で納める税額を見たときです。給与から源泉徴収されている分に加えて、まとまった額を納めることになる。そこで「法人にすれば節税できるらしい」という話が視界に入ってきます。
ただ、ここで押さえておきたいことがあります。サラリーマンの場合、本業の給与所得がすでに土台としてあるという点です。副業の所得は、その土台の上に積み上がります。所得税は所得が増えるほど税率が上がる累進の仕組みですから、同じ100万円の利益でも、給与が400万円の人と900万円の人とでは、上乗せされる税率が違います。
つまり、会社設立が節税になるかどうかの出発点は、副業の利益額だけでは決まりません。本業の給与がいくらかが、同じくらい効いてきます。
| 本業の給与収入 | 副業の所得が乗る税率帯(所得税) | 会社設立を考える意味 |
|---|---|---|
| 400万円前後 | 課税所得が195万円超330万円以下なら10%の帯 | 節税を目的にするには早い段階です |
| 600万円前後 | 330万円超695万円以下なら20%の帯 | 副業の利益しだいで検討の入口に入ります |
| 900万円前後 | 695万円超900万円以下なら23%の帯 | 維持コストと比べる価値が出てきます |
| 1200万円以上 | 900万円超1800万円以下なら33%の帯 | 法人税率との差が開いてきます |
※ 税率の区分は課税所得に対するもので、給与収入そのものではありません。給与所得控除や各種控除を引いたあとの金額で判定します。扶養の状況や住宅ローン控除の有無でも変わります。上の表は考え方を示したもので、個別の税額を示すものではありません。
会社設立を検討する土台として、まずご自身の課税所得がどの帯にあるかを、源泉徴収票と確定申告書で確かめておいてください。ここが分からないまま節税の話に進むと、判断のしようがありません。
出典No.2260 所得税の税率 (国税庁/2026年8月21日確認)
なぜ会社設立が節税になると言われるのか。累進と比例の構造

会社設立が節税につながると言われる理由は、突き詰めるとひとつです。所得税は所得が増えるほど税率が上がるのに対し、法人税はそこまで上がらないという構造の違いです。
個人の所得税は、課税所得が4000万円を超える部分に45%の税率がかかります。これに住民税がおよそ10%加わりますから、高い帯では合わせて55%程度になります。一方、法人税は資本金1億円以下の普通法人であれば、年800万円以下の所得に軽減された税率が、それを超える部分に一定の税率が適用される形です。所得が伸びても、個人のように青天井では上がりません。

図の左側で法人の線が上にあるのは、利益が小さくても法人には固定的な費用がかかるからです。ここが、会社設立の話でいちばん見落とされるところです。節税額だけを見ると法人が有利に見えますが、固定費を足すと逆転している範囲があります。
もうひとつ、サラリーマンが会社設立をする場合に特有の事情があります。役員報酬として法人からお金を受け取ると、それは給与所得として本業の給与と合算されます。法人に利益を残せば法人税、報酬として受け取れば所得税というように、どちらかに寄せれば済む話ではないという点は先に理解しておいてください。
- 法人に利益を残す:法人税がかかる。個人の手元には出てこない
- 役員報酬として受け取る:本業の給与と合算されて所得税がかかる
- 役員報酬を取らない:社会保険の扱いが変わり、法人に利益が残る
出典No.5759 法人税の税率 (国税庁/2026年8月21日確認)
会社設立のときに一度だけかかる費用

節税の話に入る前に、会社設立そのものにかかる費用を押さえます。ここは見積もりやすい部分です。

設立費用は、節税を考えるうえでは一度きりの支出です。毎年かかるものではありませんから、これだけを見て会社設立の可否を決める必要はありません。判断に効いてくるのは、次に見る毎年の費用のほうです。
出典商業・法人登記申請手続 (法務局/2026年8月21日確認)
毎年かかる維持コスト。赤字でも法人住民税の均等割はかかる

サラリーマンの会社設立で、いちばん多い誤算がここです。法人は、利益が出ていなくても毎年かかる税金があります。法人住民税の均等割です。
総務省の資料で標準税率を確認すると、資本金等の額が1千万円以下で従業者数が50人以下の法人の場合、都道府県民税の均等割が2万円、市町村民税の均等割が5万円で、合わせて年7万円です。これは所得がゼロでも、赤字でもかかります。よく「均等割は最低でも年7万円程度」と言われるのは、この標準税率のことです。
| 資本金等の額 | 都道府県民税の均等割 | 市町村民税の均等割(従業者50人以下) | 合計 |
|---|---|---|---|
| 1千万円以下 | 2万円 | 5万円 | 7万円 |
| 1千万円超1億円以下 | 5万円 | 13万円 | 18万円 |
| 1億円超10億円以下 | 13万円 | 16万円 | 29万円 |
※ 標準税率です。自治体によっては超過課税を採っているところがあり、金額が異なる場合があります。お住まいの、また本店を置く自治体の税率を必ずご確認ください。
均等割に加えて、税理士に依頼する場合の費用がかかります。会社設立をすると決算と法人税の申告が必要になり、これは個人の確定申告とは手間が違います。サラリーマンが本業のかたわらで自力で行うのは、現実には負担が大きい部分です。

出典地方税制度|法人住民税 (総務省/2026年8月21日確認)
社会保険の重なり。サラリーマンだからこそ確認が要るところ

会社設立を考える会社員が、税金の次に確認しなければならないのが社会保険です。ここはサラリーマン特有の論点で、個人事業主が法人化する場合とは事情が違います。
法人は、社長が一人だけであっても社会保険の適用事業所になります。そのうえで、法人から役員報酬を受け取ると、その法人でも被保険者になります。本業ですでに厚生年金と健康保険に加入している方が法人からも報酬を受け取ると、二つの事業所で同時に被保険者になるという状態が生じます。
この場合、日本年金機構への届出が必要です。「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を提出し、主たる事業所を選びます。保険料は、両方の報酬を合算した標準報酬月額をもとに決まり、それぞれの事業所の報酬額に応じて按分されます。

なお、役員報酬をゼロにすれば法人側で被保険者にはなりませんが、そうすると法人に残った利益を個人が受け取る手段が限られます。会社設立の目的が節税なのであれば、役員報酬をどう設計するかが結論を左右します。
出典複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き (日本年金機構/2026年8月21日確認)
就業規則の確認が、実は最初にやること

ここまで税と社会保険を見てきましたが、サラリーマンにとって実際に最初の関門になるのは就業規則です。会社設立そのものを禁じる規定は多くありませんが、役員への就任や、営利企業の経営への関与を制限していることは珍しくありません。
厚生労働省は副業・兼業の促進に関するガイドラインを示しており、企業側にも副業・兼業を認める方向での対応を求めています。ただしこれは、すべての企業が無条件に認めるという意味ではありません。届出制にしている、競業にあたる場合は認めない、といった条件が付いていることが一般的です。
- まず読む条文副業・兼業に関する規定、および役員兼務や競業避止に関する規定です。
- 届出が要るか許可制か届出制か。会社設立の前に出す必要があるかを確認します。
- 競業にあたらないか本業と同じ分野で法人を持つと、競業避止の問題になり得ます。
- 公務員の方は別国家公務員法・地方公務員法で営利企業の役員兼業は原則として禁止されています。
就業規則の確認を後回しにして会社設立を進めてしまうと、あとから取り消すことは容易ではありません。節税の計算をする前に、まずここを読んでください。
出典副業・兼業と労働条件 (厚生労働省/2026年8月21日確認)
実体のない法人は否認されうる。ここは正面から書きます

会社設立による節税を検索すると、かなり踏み込んだやり方を紹介する情報が出てきます。ここは正面から書きます。実体のない法人や、不自然な所得の移転は、税務調査で否認されることがあります。
否認とは、その処理が税務上認められないと判断されることです。認められなければ、本来納めるべきだった税額に加えて、加算税や延滞税がかかります。節税のつもりで行ったことが、結果として負担を増やすことになります。
よく問題になる形
- 法人としての事業の実体がなく、所得を移すためだけに存在している
- 役員報酬の額が、実際の職務内容や法人の規模と釣り合っていない
- 個人の生活費を法人の経費として処理している
- 個人事業と法人の事業内容が実質的に同じで、分ける必然性が説明できない
役員報酬については、国税庁が損金に算入できる要件を示しています。定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与のいずれかに当てはまらない役員給与は、原則として損金になりません。会社設立をしたあとに「利益が出たから報酬を増やす」といった調整が自由にできるわけではない、という点は押さえておいてください。
節税と租税回避の境目は、条文で明快に線が引かれているわけではなく、事実関係の積み重ねで判断されます。だからこそ、判断の難しい部分は税理士に確認してください。
出典No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分) (国税庁/2026年8月21日確認)
会社設立が向く場合と、急がなくてよい場合

ここまでの内容を、判断できる形にまとめます。会社設立が節税として意味を持つかどうかは、利益の大きさと本業の給与の状況の組み合わせで、おおまかに分かれます。


- 確かめる数字
- 年間の利益見込み、本業の課税所得、本店を置く自治体の均等割
- 確かめる書類
- 就業規則、源泉徴収票、直近の確定申告書
- 確かめる制度
- 法人住民税の均等割、社会保険の二以上事業所勤務、役員報酬の損金算入要件
- 相談する相手
- 税理士(税額と可否)、社会保険労務士や年金事務所(保険の手続き)
出典No.1410 給与所得控除 (国税庁/2026年8月21日確認)
まとめ

サラリーマンの会社設立が節税になるかどうかは、次の三つを差し引いたあとに残る金額で決まります。
- 赤字でもかかる法人住民税の均等割(標準税率で年7万円から。自治体により異なります)
- 決算と申告にかかる税理士費用、および事務の手間
- 役員報酬を取る場合の社会保険料と、二以上事業所勤務の届出
この三つを引いてもなお節税額が残るのであれば、会社設立は選択肢になります。残らないのであれば、いま急ぐ理由はありません。個人のまま経費と控除を見直すほうが、手間もリスクも小さく済みます。
そして、順番があります。就業規則の確認が先、社会保険の確認がその次、税額の比較はそのあとです。会社員が法人を持つ場合、税の計算だけが正しくても、就業規則や社会保険でつまずけば意味がありません。
出典No.5100 新設法人の届出書類 (国税庁/2026年8月21日確認)
最後に、順番だけ間違えないでください
サラリーマンの会社設立で結果が分かれるのは、節税の知識の量ではありません。確かめる順番です。就業規則を読む、本業の社会保険を確認する、年間の利益見込みから維持コストを引く。この三つを先に済ませてから、会社設立をするかどうかを考えてください。
順番を逆にして、先に法人をつくってしまうと、あとから戻すのに手間と費用がかかります。会社設立そのものは書類を出せば終わりますが、たたむのは同じようにはいきません。
この記事で挙げた数字は、いずれも確認した日のものです。制度は変わります。実際に動かれるときは、出典としてリンクした一次情報を、その時点でもう一度ご確認ください。そのうえで、ご自身の所得の内訳を持って税理士にご相談いただくのが、いちばん確かな進め方です。
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