会社員のまま会社設立をして、続けられるのか。本業と法人の両立に必要なもの
この記事の問い
「会社員のまま会社設立ができるか」という問いには、すでに答えが出ています。法律は禁じていません。この記事が扱うのは、その次の問いです。続けられるのか。
会社設立の手続きは数週間で終わります。しかし、法人がある限り毎年の決算と申告は続きます。本業を持ちながら、何年もこれを回していけるのか。時間と費用の両面から、必要なものを具体的に並べます。
節税を目的に法人を持つのであれば、続けられなければ意味がありません。固定費だけが残るからです。判断の材料としてお読みください。個別の相談は税理士などの専門家へお願いします。
会社員のまま法人を持つ、という形

会社員が勤務を続けたまま会社設立をして、その法人の代表者になる。この形は法律上できます。会社法には、発起人や役員について職業による制限が設けられていません。
法務省と法務局が案内する商業・法人登記の手続きでも、申請者が会社員であるかどうかは要件になっていません。登記の場面で勤務先の許可書を求められることもありません。
ただし、前提として就業規則の確認が必要です。副業・兼業の規定と、役員兼務の規定。この二つを読んで、会社設立をして代表者になれる立場かを確かめてください。ここが通らなければ、以下の話は意味がありません。
公務員の方は、国家公務員法および地方公務員法により営利企業の役員兼業が原則として禁止されています。民間企業の会社員とは前提が異なりますので、所属先の規程をご確認ください。
確認が済んで、会社設立が可能だと分かったとします。ここから先が、この記事の本題です。
節税を目的に会社設立をする場合、効果が固定費を上回るには複数年かかることが一般的です。つまり、続けることが前提の話になります。
退職せずに持つことの意味
会社員のまま法人を持つ形には、独立して起業する場合にはない利点があります。本業の給与という安定した収入があるため、法人の売上が不安定でも生活が脅かされません。事業が育つまで時間をかけられるということです。
一方で、制約もあります。平日の日中に動きにくいこと、本業の繁忙期に法人の作業を回せないこと、そして就業規則の範囲内でしか活動できないこと。サラリーマンとして会社設立をするなら、この制約を前提に設計する必要があります。
出典登記-商業・法人登記- (法務省/2026年8月21日確認)
毎月やること。記帳と、報酬を払うなら源泉徴収

会社設立をすると、まず毎月の作業が発生します。
中心になるのは記帳です。法人の取引を帳簿につけます。個人事業主の記帳と考え方は似ていますが、法人と個人は別人格ですので、お金の出入りをはっきり分ける必要があります。
会計ソフトを使えば、銀行口座やクレジットカードの明細を取り込んで仕訳を作れます。取引が少ないうちは、月に1〜2時間程度で済むことも多いはずです。ためなければ、それほど重い作業ではありません。
役員報酬を支払っている場合は、源泉徴収と納付が加わります。報酬から所得税を差し引いて預かり、これを国に納めます。納付は原則として支払った月の翌月10日までです。
ただし、給与の支給人員が常時10人未満である場合、納期の特例を申請することで年2回にまとめることが認められます。会社設立の届出と一緒に申請しておくと、毎月の作業が減ります。サラリーマンとして本業を持つ方には、この特例の意味は小さくありません。

会社設立の前に、月にどれくらいの時間を確保できるかを考えてみてください。本業の繁忙期でも月に数時間を確保できるかどうかが、一つの目安になります。
記帳を続けることは、節税の面でも意味があります。経費の計上漏れがあれば、その分だけ法人の利益が過大に計算され、税額が増えます。会社設立をして節税を図るなら、日々の記録が土台になります。
出典No.2508 給与所得となるもの (国税庁/2026年8月21日確認)
年に一度の決算と申告。ここがいちばん重い

会社設立後の作業で、もっとも負担が大きいのが決算と法人税の申告です。
事業年度が終わると、帳簿を締めて決算書を作成し、そこから法人税額を計算して申告します。申告期限は原則として事業年度の終了の日の翌日から2か月以内です。
個人の確定申告を経験していても、法人税の申告は性質が違います。別表と呼ばれる書類が複数あり、会計上の利益から税務上の所得を計算する調整が必要です。サラリーマンが本業のかたわらで独学で行うには、負担が大きい部分です。
申告先も一つではありません。税務署に法人税を、都道府県と市区町村に法人住民税と法人事業税を申告します。ここで、赤字であっても均等割が発生します。
総務省の資料で標準税率を確認すると、資本金等の額が1千万円以下で従業者数が50人以下の場合、都道府県民税2万円と市町村民税5万円で年7万円です。自治体によっては超過課税により異なる場合があります。
この作業を税理士に依頼するのが一般的です。会社設立をするサラリーマンの多くが、記帳は自分で行い、決算と申告を依頼するという形を取ります。
出典No.5759 法人税の税率 (国税庁/2026年8月21日確認)
社会保険の手続きと、個人の確定申告

決算と申告のほかにも、年に一度発生する手続きがあります。
役員報酬を支払っている場合、社会保険の算定基礎届があります。標準報酬月額を見直すために、毎年決まった時期に提出します。
そして、サラリーマンが会社設立をした場合に特有の手続きとして、二以上事業所勤務届があります。本業ですでに社会保険に加入している方が法人からも役員報酬を受け取ると、二つの事業所で被保険者になるためです。
日本年金機構の案内によれば、この届出は事実発生から10日以内に被保険者本人が提出することとされています。保険料は両方の報酬を合算した標準報酬月額により決定され、それぞれの報酬に基づいて按分されます。
さらに、個人としての確定申告が必要になります。法人から役員報酬を受け取れば二か所からの給与になりますので、本業の年末調整だけでは完結しません。
会社員として年末調整で済ませてきた方にとって、ここは新しい作業になります。医療費控除やふるさと納税もまとめて処理できるという利点はありますが、手続きが増えることは確かです。
節税を目的に会社設立をするのであれば、こうした手続きの増加も含めて判断してください。時間の負担は、費用と同じように実質的なコストです。
サラリーマンにとって、確定申告が必要になることは負担ですが、節税の観点では機会でもあります。年末調整では申告できない控除をまとめて処理できるためです。会社設立をきっかけに、ご自身の税の全体像を把握することにつながります。
出典複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き (日本年金機構/2026年8月21日確認)
時間と費用を、具体的に並べてみる

では、会社員のまま法人を持つと、年間でどれくらいの時間と費用がかかるのか。目安を並べます。

| 作業 | 頻度 | 自分でやる場合の目安 |
|---|---|---|
| 記帳 | 毎月 | 月1〜3時間程度(取引の件数による) |
| 源泉徴収と納付 | 毎月または年2回 | 1回あたり30分程度 |
| 決算と法人税の申告 | 年1回 | 独学なら数十時間。依頼すれば資料の準備のみ |
| 社会保険の手続き | 年1回+随時 | 1回あたり1〜2時間程度 |
| 個人の確定申告 | 年1回 | 2〜4時間程度 |
※ 事業の規模と経験によって大きく変わります。目安としてご覧ください。
この表を見て、ご自身の生活のなかで確保できるかを考えてみてください。本業が忙しい時期でも、最低限の記帳は続ける必要があります。
節税額がこれらの費用を上回るかどうかに加えて、時間を確保できるかどうかも判断材料になります。
節税額の見積もりと、この費用の見積もりを並べてください。会社設立が金銭的に見合うかどうかは、その差で決まります。サラリーマンの場合、時間の制約から依頼する範囲が広くなりやすく、そのぶん費用も上がる傾向があります。
なお、初年度は決算の作業に不慣れなこともあり、想定より時間がかかることが多いようです。会社設立の一年目は、節税の効果より運用の習熟に重点を置くくらいでちょうどよいかもしれません。
出典地方税制度|法人住民税 (総務省/2026年8月21日確認)
続けられなくなったときに何が起きるか

本業が忙しくなった、転職した、体調を崩した。そうした理由で法人の運営が難しくなることがあります。そのときに何が起きるかを見ておきます。
まず、法人を放置することはできません。決算と申告の義務は残り続けます。申告をしなければ加算税などの対象になり得ますし、登記についても一定期間放置すると過料が課される可能性があります。
休眠という選択もありますが、決算と申告の義務は原則として残ります。均等割が免除されるかどうかは自治体の取り扱いによります。
たたむ場合は、解散と清算の登記が必要です。官報への公告も求められ、清算が結了するまで数か月から一年程度かかることが一般的とされています。その間も固定費は発生します。
費用としては、自分で手続きをしても登記と公告で8万円ほど、専門家に依頼すれば20万円を超えることがあります。つくるときと同じくらいの費用が、もう一度かかるという見方ができます。
サラリーマンの場合、本業の状況が変わる可能性は常にあります。転職や異動があっても続けられる形かどうかを、設立の前に考えておいてください。
出典商業・法人登記申請手続 (法務局/2026年8月21日確認)
回る体制をつくるための選択肢

では、続けられる体制をどうつくるか。選択肢を整理します。
第一に、記帳の負担を減らすことです。会計ソフトを使い、法人の口座とカードを連携させれば、明細が自動で取り込まれます。取引をその口座とカードに集約すれば、手入力はほとんど不要になります。
第二に、決算と申告を依頼することです。ここは費用がかかりますが、時間の負担がもっとも大きい部分ですので、依頼する価値があります。年間の費用を節税額から差し引いて、なお残るかで判断してください。
第三に、事業年度を本業の閑散期に合わせることです。会社設立のときに決められますので、最初に設計しておいてください。
第四に、聞ける相手を確保することです。判断に迷ったときにすぐ相談できるかどうかで、続けやすさが変わります。とくに会社員の場合、役員報酬と社会保険の設計は一般的な解説がそのまま当てはまらないことがあります。

節税の効果を確実にするには、この体制が前提になります。手続きが滞れば、青色申告の要件を満たせなくなるなど、節税そのものに影響することもあります。
サラリーマンが会社設立をして節税を続けるには、この体制が支えになります。手続きが滞れば、青色申告の承認が取り消されるなど、節税そのものに影響が及ぶこともあります。
出典No.5100 新設法人の届出書類 (国税庁/2026年8月21日確認)
まとめ

会社員のまま会社設立をして続けられるかについて、この記事で整理したことをまとめます。
- 法律は会社員の会社設立を禁じていません。ただし就業規則の確認が先です
- 毎月:記帳と、役員報酬を払う場合の源泉徴収・納付(納期の特例で年2回にできます)
- 年1回:決算と法人税・法人住民税・法人事業税の申告。終了後2か月以内が原則です
- 年1回:社会保険の算定基礎届。会社員は二以上事業所勤務の届出も必要です
- 年1回:本業の年末調整とは別に、自分の確定申告
- 続けられなくなっても放置はできません。たたむにも手間と費用がかかります
会社設立の可否を考える前に、この運用を何年続けられるかを考えてみてください。節税額が固定費を上回るには複数年かかることが一般的です。
そして、体制は設立前に決められます。口座を分ける、会計ソフトを選ぶ、決算の依頼先を決める、事業年度を設計する、相談相手を確保する。この五つを済ませてから会社設立をすれば、あとが楽になります。
出典No.1400 給与所得 (国税庁/2026年8月21日確認)
回る体制をつくってから、設立してください
会社設立をしてから体制を考えるのではなく、体制を決めてから設立するという順番をおすすめします。記帳を誰がやるのか、決算を誰に頼むのか、費用はいくらか。これらが決まっていれば、設立後に慌てることはありません。
サラリーマンとして本業がある以上、法人に割ける時間には限りがあります。その制約のなかで回る形を先に設計してください。無理な体制で始めると、決算期に本業と重なって身動きが取れなくなります。
節税額から、税理士費用と均等割を引いた残りで判断する。この計算に、ご自身の時間の価値も加えてみてください。判断に迷う部分は、設立前の段階で税理士にご相談いただくのが確実です。
この記事のタグ
この記事は判断の材料になりましたか?