会社員のまま会社設立をしたあと、転職や退職をしたらどうなるか
この記事が想定する場面
会社員のまま会社設立をした方が、その後に転職や退職を考える場面を扱います。あるいは、これから会社設立をする方が、将来の変化に耐えられる形かどうかを確かめるための記事でもあります。
サラリーマンとして働きながら法人を持つ以上、本業の状況が変わる可能性は常にあります。転職、異動、退職。そのときに法人をどうするのか、社会保険はどう切り替わるのか。先に知っておくと、慌てずに済みます。
手続きの内容は状況によって変わります。当サイトは一般的な整理にとどめますので、実際の手続きは年金事務所・社会保険労務士・税理士にご確認ください。
転職した場合。社会保険の切り替えが起きる

まず、転職した場合を見ます。法人はそのまま維持し、本業の勤務先だけが変わるという場面です。
会社員が転職すると、前の勤務先で被保険者資格を喪失し、新しい勤務先で資格を取得します。ここで、法人との関係で二以上事業所勤務の状態が続くことになります。
日本年金機構の案内によれば、二以上事業所勤務の場合は「被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を提出し、主たる事業所を選ぶこととされています。転職によって事業所の組み合わせが変わりますので、あらためて届出が必要になります。
期限は事実発生から10日以内で、提出するのは被保険者本人です。転職は本業の手続きだけでも慌ただしい時期ですが、法人に関する届出も忘れないでください。
また、新しい勤務先の健康保険が協会けんぽか健康保険組合かによって、手続きが変わることがあります。健康保険組合を選択事業所とする場合は、その組合にも手続きが必要です。
節税の面でも、転職によって前提が変わります。新しい勤務先の給与水準が変われば、課税所得の帯も標準報酬月額の等級も変わります。役員報酬の設計を見直す機会になります。
サラリーマンが会社設立をしたあとに転職すると、節税の前提も動きます。新しい勤務先の給与水準によって課税所得の帯が変わり、標準報酬月額の等級も変わるためです。役員報酬をそのままにしておくと、想定していた節税額と実際が食い違うことになります。
会社設立をした法人は、本業の勤務先とは無関係に存続します。転職しても法人はそのまま残りますので、手続きが必要になるのは社会保険と、新しい勤務先の就業規則の確認です。
出典複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き (日本年金機構/2026年8月21日確認)
転職の前に確認しておくこと

すでに法人を持っている状態で転職活動をする場合、いつ、どう伝えるかという問題があります。
結論から言えば、入社前に確認しておくほうが安全です。入社してから「副業は禁止です」と言われても、法人をたたむには手間と費用がかかります。
求人情報や採用ページで副業の可否が示されていることがあります。厚生労働省は、副業・兼業を認めているかどうかや、認める場合の条件を企業が公表することが望ましいとしています。まずそこを確認してください。
記載がない場合、選考の過程で確認することになります。伝え方としては、「個人で事業を行っており、法人形態にしている」という事実を述べ、本業に支障がないこと、競業しないことを説明できる状態にしておくのが一般的です。
この確認を避けて入社すると、あとから発覚したときに問題になります。社会保険の届出が必要になる以上、伝わらないという想定は成り立ちません。

会社設立をして節税を図っている場合、転職によってその設計が崩れることもあります。年間の途中で本業の給与が変わると、役員報酬との合計が想定と変わるためです。
サラリーマンとして転職活動をする際、法人を持っていることをどう扱うかは悩ましい部分です。ただ、社会保険の届出が必要になる以上、入社後に伝わることは避けられません。節税のために設立した法人が、転職の障害になってしまわないよう、先に確認しておいてください。
出典副業・兼業と労働条件 (厚生労働省/2026年8月21日確認)
退職して独立する場合

次に、本業を退職して法人に専念する場合です。
退職すると、本業での被保険者資格を失います。このとき、法人で役員報酬を受け取っていれば、法人の被保険者としてそのまま続きます。二以上事業所勤務の状態ではなくなりますので、届出の内容も変わります。
問題になるのは、役員報酬をゼロにしていた場合です。法人で被保険者になっていない状態で本業を退職すると、健康保険と厚生年金のどちらにも加入していない状態になります。
この場合、法人で役員報酬を設定して被保険者になるか、国民健康保険と国民年金に切り替えるかの選択になります。ただし、役員報酬は事業年度の開始から一定期間内に決めるものですので、年度の途中で自由に設定できるとは限りません。
節税の観点でも、退職によって前提が大きく変わります。本業の給与所得がなくなれば、役員報酬に適用される税率帯が変わります。給与所得控除も、法人からの報酬だけで計算されることになります。
会社員のまま会社設立をしたときに有利だった設計が、退職後も有利とは限りません。そのつど見直すという前提で運営してください。
サラリーマンを辞めて法人に専念する場合、節税の設計は根本から組み直すことになります。本業の給与がなくなれば、役員報酬が主たる所得になり、給与所得控除も法人からの報酬だけで計算されます。会社員のときに最適だった報酬額は、退職後には最適でなくなります。
会社設立の段階で退職の予定がある方は、報酬をゼロにする設計を選ぶ前に、切り替えの時期を確認しておいてください。
出典新規適用の手続き (日本年金機構/2026年8月21日確認)
本業が忙しくなった場合

転職や退職ではなく、本業の異動や昇進によって忙しくなるということもあります。
この場合、法人をたたむほどではないが、決算の作業に時間を割けないという状況が生じます。会社員のまま法人を持つ方が直面しやすい場面です。
対応としては、まず依頼する範囲を広げることが考えられます。記帳を自分で行っていたなら、それも税理士に任せる。費用は上がりますが、時間の負担は下がります。
次に、事業年度を変更するという方法があります。法人の事業年度は定款を変更することで変えられます。手続きと届出が必要ですが、毎年の負担が続くことを考えれば検討する価値があります。
三つめに、役員報酬を見直すことです。本業が忙しくなって法人の活動が減っているなら、報酬の水準もそれに応じたものにする必要があります。事業の実態と報酬が乖離すると、損金算入の面で問題になり得ます。
節税の効果より運営の負担が上回るようであれば、たたむことも選択肢に入ります。ただし、たたむにも手間と費用がかかりますので、その比較になります。
サラリーマンの本業が忙しくなると、節税のために設立した法人が負担になることがあります。節税額と、割いている時間を並べて考えてみてください。
出典No.5100 新設法人の届出書類 (国税庁/2026年8月21日確認)
法人をたたむ場合の手順と費用

続けられないと判断した場合、法人をたたむことになります。手順と費用を確認しておきます。
まず解散を決議し、解散と清算人選任の登記を行います。次に清算の手続きに入り、債権者に対する公告を行い、財産と債務を整理します。最後に清算結了の決議と登記をして、法人が消滅します。
公告には一定の期間を設けることが求められますので、清算が結了するまで数か月から一年程度かかることが一般的とされています。その間も決算と申告は続き、均等割も原則としてかかります。
費用としては、登記の登録免許税、官報への公告料、専門家に依頼する場合の報酬がかかります。自分で手続きをしても8万円ほど、依頼すれば20万円を超えることがあります。
放置という選択はおすすめしません。申告をしなければ加算税などの対象になり得ますし、登記を長期間放置すると過料が課される可能性があります。たたむと決めたら手続きを進めるのが、結局いちばん負担が小さくなります。
会社設立をする段階で、この出口の費用も見込んでおいてください。節税額が固定費を上回っても、たたむ費用を差し引くと残らないということがあり得ます。
会社設立から日が浅いうちにたたむことになると、設立費用と解散費用の両方を負担することになります。サラリーマンが会社設立を検討する際は、最低でも数年は続けられる見通しがあるかを確かめてください。
出典商業・法人登記申請手続 (法務局/2026年8月21日確認)
変化に耐えられる設計

転職も退職も起こり得るという前提で、会社設立の時点でできる備えを整理します。
第一に、合同会社を選ぶことです。役員の任期がないため重任の登記が不要で、決算公告の義務もありません。設立費用も抑えられます。運営を続けるうえでの手間が軽くなります。
第二に、資本金を1千万円以下に収めることです。法人住民税の均等割の区分を低く保てます。総務省の資料で標準税率を確認すると、1千万円以下で従業者数50人以下なら都道府県民税2万円と市町村民税5万円で年7万円です。
第三に、法人と個人のお金を分けることです。役員貸付金が積み上がっていると、清算のときにその処理が必要になります。設立の段階から口座を分けておけば、たたむときの整理が簡単です。
第四に、記帳を毎月続けることです。帳簿が整っていれば、状況が変わったときの判断が早くなります。ためてしまうと、たたむと決めてから過去の整理に時間がかかります。

サラリーマンが会社設立をする段階では、数年後の状況まで見通すことは難しいものです。だからこそ、身軽な形で始めておくことに意味があります。節税の効果は続けるほど積み上がりますが、続けられなくなったときの負担も考えておいてください。
会社設立のときに合同会社を選んでおけば、役員の任期に伴う登記が発生しません。転職や異動で忙しい時期に登記の期限が来る、という事態を避けられます。
出典株式会社設立登記申請書(取締役会を設置しない会社の発起設立) (法務局/2026年8月21日確認)
見直しの機会は年に一度ある

状況が変わったときに設計を見直す機会は、年に一度あります。事業年度の切り替えです。
役員報酬は、事業年度の開始から一定期間内に決めることになります。定期同額給与などの要件を満たさなければ損金になりませんので、年度の途中では動かせません。裏を返せば、年度の切り替え時が見直しの機会です。
このタイミングで確認したいのは次の点です。本業の給与水準は変わったか。標準報酬月額の等級は変わったか。法人の利益の見込みはどうか。そして、運営を続けられる体制になっているか。
会社員のまま法人を持つ場合、本業の状況は毎年変わり得ます。昇給、異動、転職。そのつど最適な役員報酬の水準も変わります。一度決めた設計を何年も使い回さないほうが、節税の効果を保てます。
この見直しを自分で行うのは負担が大きいので、税理士に継続して見てもらう体制があると楽になります。顧問契約を結んでいれば、年度の切り替え時に相談する形が取れます。
会社設立の際に依頼先を決めておけば、こうした見直しも含めて任せられます。設立の手続きだけを依頼して終わりにするより、長い目で見て負担が小さくなります。
サラリーマンの場合、昇給や異動が毎年のように起こります。節税の設計を毎年見直す前提で運営すると、効果を保ちやすくなります。
会社設立の翌年以降、事業年度ごとに見直す習慣をつけておくと、本業の変化に追随できます。
出典No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分) (国税庁/2026年8月21日確認)
まとめ

会社設立のあとに転職や退職をした場合について、この記事で整理したことをまとめます。
- 転職:二以上事業所勤務届をあらためて提出します。転職先の就業規則の確認も必要です
- 退職:本業の被保険者資格を失います。役員報酬をゼロにしていた場合は切り替えの段取りが要ります
- 本業が忙しくなった場合:依頼範囲を広げる、事業年度を変更する、報酬を見直すという対応があります
- たたむ場合:解散と清算の二段階で、数か月から一年程度かかります。費用も相応にかかります
- 設立時にできる備えは、合同会社を選ぶ・資本金を1千万円以下にする・口座を分ける・記帳を続ける、の四つです
会社設立は一度で終わりますが、その後の運営は本業の状況とともに変わり続けます。サラリーマンとして法人を持つなら、この前提を受け入れておいてください。
会社員のまま会社設立をする以上、本業の状況が変わることは前提です。変化に耐えられる形にしておくことが、長く続けるための条件になります。
そして、本業が変われば節税の前提も変わります。役員報酬と社会保険の設計は、年度の切り替え時に見直してください。判断に迷う部分は、税理士や社会保険労務士にご相談ください。
出典2-4:被保険者が複数の適用事業所に使用されることになったとき (日本年金機構/2026年8月21日確認)
変化に耐えられる形かを、先に考えてください
会社設立をする時点で、何年も同じ勤務先にいるとは限りません。転職も、退職も、起こり得ます。そのときに法人が足かせにならない形にしておくことが、会社員が法人を持つうえでの現実的な備えになります。
具体的には、合同会社を選んで手続きを軽くしておく、資本金を抑えて均等割の区分を低く保つ、法人と個人のお金を分けておく。いずれも設立時に決められることです。
そして、本業が変わったら役員報酬と社会保険を見直してください。前提が変われば、最適な設計も変わります。節税の効果を保つには、そのつどの調整が必要です。税理士に継続して見てもらえる体制があると、この調整が楽になります。
この記事のタグ
この記事は判断の材料になりましたか?