報酬ゼロで法人に残すか。会社設立後の資金の出し方を比べる
この記事で比べること
会社設立をした会社員に向けて、法人に貯まった資金をどう扱うかを整理する記事です。
報酬をゼロにすれば社会保険の負担が生じません。ただし、法人に残した資金は個人のものではありません。使うには出す必要があります。
報酬、配当、退職金。出し方によって課税が違います。それぞれを並べて比べます。個別の判断は税理士にご相談ください。
なぜ報酬をゼロにするのか

会社員が法人を持つ場合、報酬をゼロにする設計がよく取られます。理由を確認します。
法人は役員一人でも適用事業所になります。日本年金機構の案内によれば、法人の事業所は常時従業員を使用するものとして適用事業所になるとされています。
役員報酬を受け取れば被保険者になり、本業ですでに加入している方は二つの事業所で被保険者となります。
この場合、届出が必要で、保険料は各事業所の報酬月額を合算して決定した標準報酬月額にもとづき按分されます。法人にも保険料の負担が生じます。
報酬をゼロにすれば、これらは生じません。
そして、会社員は本業の給与で生活が成り立っていることが多いため、法人の資金に手をつけずに済む場合があります。
独立して法人を作った人には、この選択肢がありません。生活費を法人から出す必要があるためです。
つまり、報酬ゼロという設計は、会社員に特有の選択肢だということになります。
サラリーマンとして本業の収入がある方にとって、節税と手続きの両面で合理性があります。
節税の観点から見ても、この設計はサラリーマンに向いています。会社設立をした直後から選べる選択肢です。
会社設立の相談では、役員報酬をいくらにするかという話から入ることが多くなります。ただし会社員の場合、ゼロという答えも十分に成り立ちます。会社設立の目的が資産の管理にあるなら、なおさらです。
会社設立の直後は、節税の効果を早く出したくなるものです。それでも報酬の設計は慎重に進めてください。
出典適用事業所と被保険者 (日本年金機構/2026年8月22日確認)
法人に残るとどうなるか

報酬を出さなければ、法人に利益が残ります。その扱いを確認します。
法人の所得には法人税が課されます。国税庁が示すところによれば、税率は所得の金額に応じて区分されており、中小法人については一定額以下の部分に軽減された税率が適用されます。
これに地方法人税、法人住民税、法人事業税が加わります。
税を払ったあとの資金が、法人に残ります。
この資金は法人のものであって、個人のものではありません。
個人が私的に使うことはできません。使えば、役員への貸付けか、報酬として処理することになります。
役員貸付金として処理する場合、利息の計上が必要になる場合があります。国税庁が示すところによれば、役員に対する経済的な利益の供与は給与として扱われることがあります。
つまり、法人に貯めた資金を自由に使えるわけではありません。
会社員が資産管理を目的とする法人を持つ場合、この点を理解しておいてください。
節税のつもりで貯めても、使えなければ意味がないという場面もあります。
節税のつもりで法人に貯めた資金が、サラリーマンの生活には使えないという状況が生じます。
会社設立をして法人の口座に資金が貯まっていくと、それを自分の資産のように感じてしまいがちです。会計上も税務上も、法人と個人は別の主体です。この区別を保ってください。
会社設立をした以上、法人の資金は法人の目的のために使うことになります。節税の効果と資金の使い勝手は、別の軸です。
出典No.5759 法人税の税率 (国税庁/2026年8月22日確認)
報酬として出す場合

法人の資金を出す方法の一つめが、役員報酬です。
法人の側では、要件を満たせば損金になります。
受け取る側では給与所得となり、給与所得控除が適用されます。
ただし、会社員の場合は本業の給与と合算して計算されます。国税庁が示すところによれば、給与所得控除には上限が定められています。
本業の給与だけで上限に近い方は、報酬を増やしても控除は増えません。
そして、社会保険の被保険者になります。二以上事業所勤務の届出が必要で、保険料は合算した標準報酬月額により決定され、按分されます。
つまり、報酬として出す場合、法人では損金になるものの、個人では税と保険料の負担が生じます。
毎月同額という制約もあります。必要なときに必要な額を出す、という使い方はできません。
サラリーマンとして本業がある方にとって、報酬として出す効率は高くありません。
それでも、定期的に資金が必要であれば、この方法になります。
節税額を測るときは、この控除の制約を前提に計算してください。サラリーマンの方は本業の給与を先に確認することになります。
会社設立をした年から報酬を出すか、数年たってから出すかでも状況が変わります。法人の所得が安定してから決めるほうが、判断の精度が上がります。
会社設立をして報酬を出すなら、節税額と手取りの両方を確認してください。
出典No.1410 給与所得控除 (国税庁/2026年8月22日確認)
配当として出す場合

二つめの方法が、配当です。
法人が株主に対して支払う配当は、損金になりません。法人税を払ったあとの利益から支払うことになります。
受け取る側では配当所得となります。
国税庁が示すところによれば、配当所得については総合課税と申告分離課税を選択できる場合があり、総合課税を選べば配当控除の適用を受けられる場合があります。
ただし、法人の側で損金にならないため、法人税と所得税の両方がかかることになります。
この点で、報酬より不利になる場面が多くなります。
一方で、社会保険料の対象にはなりません。この点は報酬と違います。

どちらが有利かは、法人の所得水準と個人の他の所得によって変わります。
会社員が判断する場合、本業の給与を含めた計算が必要です。税理士に試算を依頼してください。
節税の効果は、法人と個人の合計で見てください。
会社設立をして株式会社を選んだ場合、配当の手続きは株主総会の決議によります。合同会社の場合は利益の配当について定款の定めによる部分がありますので、会社設立の際にどちらを選んだかで手続きが変わります。
会社設立の形態によって配当の手続きが変わる点も、節税の設計に影響します。
出典No.1463 株式等を譲渡したときの課税(申告分離課税) (国税庁/2026年8月22日確認)
退職金として出す場合

三つめの方法が、退職金です。
法人が役員に支払う退職金は、要件を満たせば損金になります。
受け取る側では退職所得として扱われます。国税庁が示すところによれば、退職所得は他の所得と分離して計算され、勤続年数に応じた控除が設けられています。
このため、給与として受け取る場合と比べて税負担が軽くなる場合があります。
そして、社会保険料の対象にもなりません。
ただし、条件があります。
一つめは、実際に退職したという事実が必要なことです。形式だけの退職では認められません。
二つめは、金額の妥当性です。不相当に高額な部分は損金にならないとされており、在職年数、退職の事情、同業種の法人の支給状況などが考慮されます。
三つめは、長期にわたって役員を務める必要があることです。勤続年数に応じた控除ですので、期間が短ければ効果も小さくなります。
サラリーマンとして本業の定年後に、この法人から退職金を受け取るという設計も考えられます。会社設立の時点から数十年の話になります。
節税の観点では効率のよい方法ですが、サラリーマンとして定年まで法人を維持することが前提になります。
会社設立から退職金の支給までが数十年に及ぶ場合、その間の制度改正も想定しておく必要があります。いまの計算がそのまま将来も通用するとは限りません。
会社設立から長く続けるほど、退職金の節税効果は大きくなります。
出典No.2508 給与所得となるもの (国税庁/2026年8月22日確認)
三つを並べて比べる

三つの方法を並べます。
| 項目 | 役員報酬 | 配当 | 退職金 |
|---|---|---|---|
| 法人側の扱い | 要件を満たせば損金 | 損金になりません | 要件を満たせば損金 |
| 個人側の区分 | 給与所得 | 配当所得 | 退職所得 |
| 社会保険料 | 対象になります | 対象になりません | 対象になりません |
| 支給の自由度 | 毎月同額が原則 | 時期を選べます | 退職の事実が必要 |
| 会社員への向き | 本業と合算され効率は低い | 法人税との二重の負担 | 定年後の受け取りに向きます |
※ 2026年8月22日に国税庁のページで確認した内容にもとづく整理です。適用の可否は事実関係により異なります。
表の五行目が、会社員にとっての評価です。
報酬は、本業と合算されるため効率が高くありません。ただし定期的に資金が必要であれば、この方法になります。
配当は、法人税を払ったあとの利益から出すため、負担が重くなりがちです。
退職金は、長期にわたって法人を維持したうえで、定年後などに受け取る形であれば効率的です。
つまり、会社員が法人を持つ場合、「貯めておいて、あとで退職金として受け取る」という設計に一定の合理性があります。
ただし、数十年にわたって法人を維持する必要があります。その間の維持費も計算に入れてください。
サラリーマンとして本業を続けながら、その期間を維持できるかが判断になります。
節税額だけでなく、資金がいつ必要かという観点でも選んでください。サラリーマンの方は、教育費や住宅の資金など、時期の決まった支出があるはずです。
会社設立の目的によって、この三つのどれを主に使うかが変わります。資産を運用して次の世代に渡すのか、自分の老後の資金にするのか。目的を先に決めてください。
節税額の比較は、会社設立の目的が決まってからのほうが早く済みます。
出典No.2260 所得税の税率 (国税庁/2026年8月22日確認)
貯めすぎることの問題

法人に資金を貯め続けることの問題にも触れておきます。
法人に純資産が積み上がれば、その法人の株式や持分の評価も上がります。
国税庁が示すところによれば、取引相場のない株式の評価は、会社の規模や資産の内容に応じて方法が定められています。
純資産にもとづく評価が用いられる場合、貯めた資金がそのまま評価に反映されやすくなります。
つまり、相続の場面で評価が高くなるということです。
節税のつもりで法人に貯めた結果、相続税の対象が増えるという結果になりえます。
したがって、貯めるだけでなく、出す計画も必要です。
役員報酬として少しずつ出す、家族を役員にして分散する、退職金として一度に出す。いずれも設計として考えられます。
会社員が長期にわたって法人を持つ場合、この点を定期的に確認してください。
サラリーマンとして本業がある方は、法人の資金を使わずに済むため、気づかないうちに積み上がることがあります。

節税のつもりが逆に働く場面ですので、サラリーマンとして長く法人を持つ方は定期的に確認してください。
会社設立から十年、二十年とたつうちに、当初は想定していなかった規模の資金が法人に残っていることがあります。定期的な確認が必要なのはこのためです。
会社設立をして節税を続けるなら、貯まった資金の出口も毎年見てください。
出典No.4638 取引相場のない株式の評価 (国税庁/2026年8月22日確認)
まとめ

法人の資金の扱いについて、この記事で整理したことをまとめます。
- 報酬をゼロにすれば社会保険の負担が生じません。会社員に特有の合理的な選択です
- ただし法人に残った資金は個人のものではありません。私的に使えば貸付けか給与として処理されます
- 報酬として出せば法人では損金になりますが、本業と合算され社会保険料もかかります
- 配当は法人で損金にならないため、法人税と所得税の両方の負担が生じます
- 退職金は分離して計算され、社会保険料の対象になりません。ただし実際の退職と長期の在職が必要です
- 貯めすぎれば株式の評価が上がります。相続の場面で影響します
報酬をゼロにする設計は、会社員にとって合理性があります。ただし、貯めるだけでは終わりません。
いつ、どの方法で出すのか。そこまで含めて設計してください。出し方によって課税が違います。
サラリーマンとして本業がある方は、法人の資金を使わずに済むため積み上がりやすくなります。定期的に確認してください。
節税は貯める段階だけの話ではありません。
会社設立をする前に、出すときのことまで一度考えておいてください。
出典No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分) (国税庁/2026年8月22日確認)
出すときのことまで含めて設計してください
報酬をゼロにする設計は、会社員にとって合理性があります。ただし、法人に残した資金は、いずれ出すときに課税されます。
報酬として出すか、配当として出すか、退職金として出すか。それぞれ課税の仕組みが違います。
貯めるときだけでなく、出すときまで含めて設計してください。判断に迷う部分は税理士にご相談ください。
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