その費用に見返りはあるか。資産管理会社の会社設立を数字で検算
この記事でやること
資産管理を目的とした会社設立を検討している会社員に向けて、費用と見返りを同じ表に並べるための記事です。
設立費用も維持費も分かった。では、その費用に見合う見返りがあるのか。ここを計算します。
節税額の見積もり方、回収年数の出し方、そして途中でやめる場合の費用。判断できる形にします。個別の試算は税理士にご依頼ください。
見返りをどう見積もるか

費用に対する見返り、つまり節税額の見積もり方から始めます。
節税額は、個人で受けた場合と法人で受けた場合の税負担の差です。
会社員の場合、資産からの収益は本業の給与所得と合算されるものがあります。不動産の賃料が典型です。
したがって、本業の給与を含めた課税所得がどの税率帯にあるかが起点になります。国税庁の速算表で確認できます。
源泉徴収票の課税所得の欄を見てください。そこに、資産からの所得が上乗せされます。
上乗せされた部分に適用される税率と、法人での負担を比べる。その差が節税額です。
注意すべきは、資産の種類によって扱いが違うことです。上場株式の譲渡益は分離課税ですので、給与の影響を受けません。
この場合、個人の側もはじめから低い税率で課税されているため、法人化の効果は小さくなります。
サラリーマンとして複数の資産を持っている方は、資産の種類ごとに分けて見積もってください。
会社設立をすると節税になるという説明の中身は、この差額のことを指しています。差額がなければ、会社設立の意味もありません。
会社設立の相談で示される試算は、その時点の前提にもとづくものです。前提が何かを確かめずに数字だけを受け取ると、あとで食い違いが生じます。給与の水準、資産からの収益、想定している役員報酬。この三つを確認してください。
収益の見積もりでは、経費を差し引いたあとの金額を使ってください。賃料の総額をそのまま所得として計算すると、節税額を大きく見積もることになります。
出典No.2260 所得税の税率 (国税庁/2026年8月22日確認)
費用と見返りを並べる

見返りが見積もれたら、費用と並べます。
一度きりの費用は、続ける年数で割って年あたりに換算します。
| 項目 | 区分 | 年あたりの金額 |
|---|---|---|
| 設立費用 | 一度きり | 設立費用 ÷ 続ける年数 |
| 資産の移転費用 | 一度きり | 移転費用 ÷ 続ける年数 |
| 法人住民税の均等割 | 毎年 | 7万円 |
| 決算・申告の費用 | 毎年 | 20万円前後 |
| 社会保険料(法人負担) | 毎年 | 報酬を出す場合のみ |
| 節税額 | 毎年 | 見積もった金額 |
| 差し引き | — | 節税額 − 上記の合計 |
※ 実際の金額はご自身の状況により変わります。個別の試算は税理士にご依頼ください。
この表の一番下がプラスなら、会社設立に数字の根拠があります。マイナスなら、根拠がありません。
注意すべきは、一行目と二行目の「続ける年数」です。何年続けるかによって、年あたりの金額が変わります。
5年で解散する前提と、30年続ける前提では、まったく違う数字になります。
会社員が判断する場合、転職や転勤で状況が変わる可能性を考えてください。長期を前提にした計算はリスクを伴います。
サラリーマンとして本業がある以上、確実に続けられる期間で計算するほうが安全です。
会社設立の判断は、この表の一番下の数字で決まります。サラリーマンの方は、本業の給与も含めて記入してください。
会社設立をした初年度は、設立費用と移転費用が重なるため、差し引きが大きくマイナスになるのが普通です。初年度の数字だけを見て失敗と判断しないでください。数年分を並べて見ることが必要です。
表を作るときは、収益が高い年と低い年の二通りを用意してください。どちらの場合でも成り立つなら、判断に自信が持てます。
年数を変えて二通り作るという方法もあります。五年で終える前提と、二十年続ける前提。この二つを並べると、一度きりの費用がどれだけ重いかが見えてきます。
出典地方税制度|法人住民税 (総務省/2026年8月22日確認)
回収年数を出す

回収年数の計算方法を示します。
一度きりの費用を、毎年の差し引き効果で割る。これが回収年数です。
毎年の差し引き効果は、節税額から毎年の維持費を引いた金額です。
計算の例を示します。

この例では、回収に15年かかることになります。
15年続けられるか。これが判断になります。
移転費用がなければ、話はまったく変わります。設立費用15万円だけなら、回収は1年以内です。
したがって、これから取得する資産を法人名義にする設計であれば、回収の心配はほとんどありません。
会社員が資産管理会社を検討する場合、この違いが最も大きな分かれ目になります。
会社設立をする前に、この回収年数を出しておいてください。数字が出れば、迷いは小さくなります。
回収年数が出たら、その年数のあいだに起こりうる変化を書き出してみてください。転職、転勤、家族の状況、資産の入れ替え。どれかが起きても続けられる形かを確かめます。
会社設立を検討する段階で、続けられる期間の見通しを立ててください。回収年数がその期間を超えるなら、設立の根拠は弱くなります。逆に、回収が数年以内であれば、判断は容易になります。
出典No.5759 法人税の税率 (国税庁/2026年8月22日確認)
やめる場合の費用も入れる

計算に入れ忘れやすいのが、やめる場合の費用です。
解散して法人をなくすには、複数回の登記が必要です。解散および清算人の登記、清算結了の登記。それぞれに登録免許税がかかります。
債権者に対する手続きには一定の期間を置く必要があります。決めてすぐに終わるものではありません。
そして、解散の事業年度と清算中の事業年度について、それぞれ申告が必要です。税理士に依頼すればその費用も生じます。
資産を法人から個人に戻せば、そこでも課税が生じます。法人側の譲渡益と、個人側の分配に対する課税です。
つまり、入れるときと出すときの二回、課税の機会があります。
したがって、短期間で出入りさせると、節税額より移転にともなう課税のほうが大きくなることがあります。
この出口の費用も、計算に入れてください。回収年数が伸びる要因になります。
サラリーマンとして本業がある方は、状況が変わってやめる可能性も現実的です。その費用を織り込んでおいてください。
会社設立をする時点で、やめるときのことまで見積もっておいてください。あとから気づくと、判断のやり直しになります。
出口の費用は、いま持っている資産の含み益の大きさによって変わります。含み益が大きいほど、戻すときの課税も大きくなります。長く保有するほどこの金額は膨らみますので、出口の想定は早めに立てておいてください。
法人を解散せず、休眠という形で残す方法もあります。ただし、休眠中の均等割の扱いは自治体によって異なり、届出の要否も変わります。休眠にすれば費用がかからなくなると決めつけず、本店の所在地の自治体に確認してください。
出典商業・法人登記申請手続 (法務局/2026年8月22日確認)
数字以外の要素

表に書きにくい要素も確認します。
一つめが時間です。登記、口座開設、届出、毎年の記帳と決算。いずれも時間がかかります。
平日の日中に動く場面もあります。有給休暇を使うのであれば、それも費用として計算できます。
二つめが手続きの負担です。期限の管理、書類の保管、変更があったときの登記。忘れれば過料の対象になりえます。
三つめが社会保険です。役員報酬を受け取れば法人でも被保険者になります。日本年金機構の案内によれば、被保険者が複数の適用事業所に使用されることになったときは届出が必要とされ、保険料は各事業所の報酬月額を合算して決定した標準報酬月額にもとづき按分されます。
四つめが就業規則です。役員兼務の可否を確認してください。公務員の方は、国家公務員法および地方公務員法により営利企業の役員兼業が原則として禁止されています。
この四つめが通らなければ、数字の計算に意味がありません。
サラリーマンとして本業を続けながら法人を持つ以上、これらの制約は避けて通れません。
なお、当サイトでは勤務先に知られない方法は扱いません。就業規則を確認し、必要なら勤務先に相談してください。
会社設立ができる立場かどうかは、数字より先に確認します。サラリーマンとして本業がある以上、ここが最初の関門です。
これらの数字に表れない負担は、続けているうちに効いてきます。設立の直後は勢いで乗り切れても、数年たてば負担として意識されるようになります。
会社設立をして代表者になれば、登記事項証明書は誰でも取得できる状態になります。これは制度上そうなっているという事実です。役員兼務の規定を確認したうえで、必要なら勤務先に相談してください。
出典2-4:被保険者が複数の適用事業所に使用されることになったとき (日本年金機構/2026年8月22日確認)
判断がつかない場合

計算しても判断がつかない場合の考え方です。
差し引きがわずかにプラス、という結果になることがあります。この場合、会社設立を急ぐ理由は薄いと考えられます。
理由は三つあります。
一つめは、見積もりに幅があるからです。節税額も維持費も、想定どおりにはなりません。わずかなプラスは、簡単にマイナスに転じます。
二つめは、資産が育てば判断が変わるからです。収益が増えれば、差し引きの効果も大きくなります。
三つめは、会社設立の手続きが数週間で終わるからです。急いで決める理由がありません。
したがって、いまは見送るという判断も合理的です。条件が揃ってから動いても間に合います。
その間、個人のままでできることを使い切ってください。経費の計上漏れの見直し、青色申告の承認、個人だけが使える非課税の制度。
これらは固定費がかかりません。効果が小さくても、確実に手元に残ります。
会社員が資産を育てている段階では、この順序のほうが無駄がありません。
会社設立を急がないという判断も、サラリーマンにとっては現実的です。
個人のままでできることを先に使い切っておけば、あとで法人にしたときの効果も正確に測れます。比較の土台が整うためです。
会社設立の手続きは、条件が揃ってから始めても間に合います。書類の準備から登記の完了まで、数週間で済むためです。焦って設立して、あとから見合わないと分かるほうが損失は大きくなります。
出典No.5762 青色申告書を提出した事業年度の欠損金の繰越控除 (国税庁/2026年8月22日確認)
検算の手順

ここまでの内容を、検算の手順としてまとめます。

一つめから五つめまでを埋めれば、六つめは自動的に出ます。
難しいのは四つめの見積もりです。資産の種類によって扱いが違いますので、税理士に確認してください。
そして、三つめの変動の幅を必ず見てください。好調な年の数字で判断すると、平年には見合いません。
会社員が判断する場合、この六項目を埋めたうえで相談に行くと話が早く進みます。
サラリーマンとして限られた時間で判断するなら、準備してから相談するほうが効率的です。
会社設立の可否は、この六項目で判断できます。
相談に行く前にこの表を埋めておくと、税理士の側も具体的な助言がしやすくなります。資料としては、源泉徴収票、資産の一覧、直近の確定申告書があれば足ります。
六項目を埋める作業自体が、資産の状況を整理する機会になります。会社設立をするかどうかに関わらず、一度やっておく価値があります。
出典No.5100 新設法人の届出書類 (国税庁/2026年8月22日確認)
まとめ

資産管理会社の費用と見返りについて、この記事で整理したことをまとめます。
- 節税額は、本業の給与を含めた税率帯と法人の負担の差から出します
- 資産の種類によって扱いが違います。分離課税の対象なら効果は小さくなります
- 一度きりの費用は、続ける年数で割って年あたりに換算します
- 移転費用があるかないかで、回収年数が桁違いに変わります
- やめる場合の費用も計算に入れてください。入口と出口の二回、課税の機会があります
- 差し引きがわずかなプラスなら、急がないという判断も合理的です
資産管理会社の会社設立は、費用と見返りを同じ表に並べれば判断できます。
最も大きな分かれ目は、すでに持つ資産を移すか、これから取得する分を法人で持つかです。ここで桁が変わります。
サラリーマンとして本業がある方は、続けられる期間で計算してください。転職や転勤で状況が変わる可能性を織り込んだうえで判断することになります。
会社設立をしない場合にできることも、あわせて確認しておいてください。サラリーマンとして資産を育てる段階では、そのほうが効率的です。
出典No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得) (国税庁/2026年8月22日確認)
表を埋めてから決めてください
資産管理会社の会社設立は、費用と見返りを並べれば判断できます。難しいのは、見返りを正しく見積もることです。
本業の給与水準、資産からの収益、その変動の幅。この三つが分かれば、節税額は概算できます。
そして、やめる場合の費用も忘れないでください。判断に迷う部分は、この記事の表を埋めたうえで税理士にご相談ください。
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