会社設立の節税メリットを、自分の数字で見積もる手順
この記事でやること
会社設立の節税メリットを、ご自身の数字で見積もる手順を示す記事です。記事に載っている試算例をそのまま使うのではなく、自分の状況に置き換える方法を扱います。
正確な計算は税理士に依頼するとしても、方向性を掴んでおくと相談が早くなります。「報酬を月◯万円にすると手取りがどうなるか」という具体的な問いが立てられるからです。
手順は五つに分けます。書類を揃える、現状を把握する、法人化後を想定する、固定費を引く、比べる。順に進めてください。個別の判断は税理士にご相談ください。
手順その一:書類を揃える

最初にやることは、書類を揃えることです。特別なものは要りません。
必要なのは次の三つです。いずれも手元にあるはずのものです。
- 本業の源泉徴収票:給与収入と課税所得が分かります
- 本業の給与明細:標準報酬月額の等級が分かります
- 副業の収支の記録:利益がいくらかが分かります
三つめについて、記録をつけていない場合はここから始めることになります。会計ソフトを使えば、口座やカードの明細を取り込んで整理できます。
利益がいくらか分からなければ、節税メリットも見積もれません。まずここを確定させてください。
源泉徴収票は毎年12月から1月に受け取ります。給与明細は毎月手元に届きます。どちらも保管しておいてください。
会社設立を考えているサラリーマンにとって、この三つは判断の土台になります。捨てずに取っておくだけで、必要なときに使えます。
なお、副業の収支については、経費の計上漏れがないかも確認してください。漏れていれば利益が過大に見え、節税メリットの見積もりも変わります。
三つが揃ったら、次の手順に進みます。
節税メリットの見積もりは、書類を揃えるところから始まります。
副業の収支の記録がない場合、まずここから始めることになります。過去の入金履歴と、事業に使った支出の領収書を集めて、直近一年分だけでも整理してみてください。完璧でなくても、おおよその利益が分かれば見積もりは始められます。会社設立を考える段階では、この概算があるかないかで話の進み方が変わります。
出典No.1400 給与所得 (国税庁/2026年8月22日確認)
手順その二:現状を把握する

次に、いまの状態を把握します。確認するのは二つです。
一つめが、課税所得がどの税率帯にあるかです。源泉徴収票から、給与収入と給与所得控除後の金額、所得控除の額が分かります。ここから課税所得を計算できます。
国税庁のページで所得税の税率を確認すると、課税所得の金額に応じて段階的に税率が定められています。ご自身の課税所得がどの区分に入るかを見てください。
副業の所得は、この課税所得に上乗せされます。したがって、副業の所得に適用される税率は、いまの税率帯かその一つ上ということになります。
二つめが、標準報酬月額の等級です。給与明細の社会保険料の控除額と、加入先が公表している保険料額表を照らし合わせれば分かります。
ここで重要なのが、上限に達しているかどうかです。達していれば、役員報酬を受け取っても社会保険料は増えません。達していなければ増えます。
あわせて、給与所得控除の状況も確認してください。国税庁のページで確認すると、給与等の収入金額が850万円を超える場合の控除額は195万円が上限です。
本業の給与収入が850万円を超えていれば、役員報酬を受け取っても給与所得控除は増えません。この項目を節税メリットに含めないでください。
この二つ、あるいは三つの確認で、会社設立が効きやすい状況かどうかの見当がつきます。
サラリーマンの場合、本業の課税所得がこの試算の出発点になります。副業の利益だけを見ても、適用される税率が分かりません。
課税所得の計算は、源泉徴収票の「給与所得控除後の金額」から「所得控除の額の合計額」を引くことで求められます。この金額が、所得税の税率を決める基礎になります。副業の所得はこの上に積み上がりますので、いまの位置を知っておくことが出発点になります。
出典No.2260 所得税の税率 (国税庁/2026年8月22日確認)
手順その三:法人化後を想定する

三つめの手順が、法人化後の状態を想定することです。
ここで決めるのは、役員報酬をいくらにするかです。この金額によって、法人と個人の税負担も、社会保険料も変わります。
一度で決めようとせず、候補を三通りほど立てて比べるのが実務的です。たとえば、月ゼロ、月5万円、月15万円といった形です。
それぞれについて、次を確認します。
- 法人に残る利益(副業の利益から報酬を引いた額)
- 個人の給与所得の増加分(本業と合算した額)
- 合算後の標準報酬月額の等級(保険料額表で確認)
- 増える社会保険料(労使折半の両方を足します)
法人に残る利益には法人税がかかります。個人の給与所得の増加分には所得税と住民税がかかります。社会保険料は、合算した等級から計算されます。
報酬を増やせば法人税が減り、所得税と社会保険料が増えます。逆も同じです。三通りを並べると、どちらに動かすとどうなるかが見えてきます。
なお、役員報酬は事業年度の開始から一定期間内に決めるもので、途中で自由に変えられません。国税庁が示すところによれば、損金に算入できる役員給与は定期同額給与などに該当するものです。
一年動かせない数字ですので、この段階で候補を立てて比べておく意味があります。
サラリーマンの場合、本業の給与は年間を通じてほぼ確定していますので、試算の前提が立てやすいという利点があります。
節税の効果は報酬額によって変わりますので、候補を並べて比べることに意味があります。
報酬額の候補を立てるときは、極端な三つを選ぶと違いが見えやすくなります。ゼロ、少額、それなりの額。この三つで税と保険料の合計を出せば、どちらの方向に動かすべきかが分かります。中間の細かい調整は、方向が決まってからで構いません。
出典No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分) (国税庁/2026年8月22日確認)
手順その四:固定費を引く

四つめの手順が、固定費を差し引くことです。ここを飛ばすと結論が変わります。
会社設立をすると、法人住民税の均等割が毎年かかります。総務省の資料で標準税率を確認すると、資本金等の額が1千万円以下で従業者数が50人以下の場合、都道府県民税2万円と市町村民税5万円で年7万円です。
これは所得がゼロでも、赤字でもかかります。自治体によっては超過課税により異なる場合がありますので、本店を置く自治体の税率をご確認ください。
次に、税理士費用です。決算と法人税の申告は、サラリーマンが本業のかたわらで独学で行うには負担が大きい部分ですので、依頼することが多くなります。年間で十数万円からが目安です。

さらに、入口と出口の費用があります。会社設立の費用と、たたむときの費用。これらを続ける年数で割って年あたりに換算すると、より正確になります。
短期間でたたむ前提なら、年あたりの負担が重くなります。複数年にわたって続ける見込みがあるかを確認してください。
これらをすべて差し引いた残りが、会社設立による実質的なメリットになります。
会社員が会社設立を考えるとき、この固定費を吸収できてしまうことが判断を鈍らせます。本業の給与があるためです。意識的に差し引いてください。
固定費のうち税理士費用は、依頼する範囲によって大きく変わります。記帳を自分で行い決算と申告だけを依頼する形なら抑えられますし、通年で見てもらう顧問契約なら上がります。見積もりを取ったうえで、この項目に入れる金額を決めてください。
出典地方税制度|法人住民税 (総務省/2026年8月22日確認)
手順その五:比べて判断する

最後の手順が、比べることです。
比べるのは、個人のまま続けた場合の負担と、会社設立をした場合の負担(固定費を含む)です。この差額が、会社設立による実質的なメリットになります。
| 比べる項目 | 個人のまま | 会社設立をした場合 |
|---|---|---|
| 所得税・住民税 | 副業の所得を含めて計算 | 役員報酬の分だけ計算 |
| 法人税など | なし | 法人に残った利益に対して |
| 社会保険料 | 本業のみ | 合算して等級を決め按分 |
| 均等割 | なし | 年7万円から(赤字でもかかります) |
| 税理士費用 | 確定申告の依頼分 | 決算と申告の依頼分 |
※ 一般的な整理です。具体的な金額は個別の状況によって変わります。実際の試算は税理士にご依頼ください。
この表を、ご自身の数字で埋めてみてください。埋まらない部分があれば、そこが専門家に聞くべき点です。
差額がプラスであれば、会社設立は選択肢になります。マイナスなら、いまは急ぐ理由がありません。
なお、差額が小さい場合も注意が必要です。数万円のプラスであれば、手続きの手間を考えると見合わないこともあります。時間には価値があります。
サラリーマンとして本業を持ちながら、毎年の決算と申告を続けることになります。その手間に見合う差額かという視点も持ってください。
見積もった結果、まだ会社設立の段階でないと分かれば、それは有益な結論です。固定費を払わずに済んだということですから。
サラリーマンとして本業を持ちながら、毎年の決算と申告を続けることになります。差額がその手間に見合うかを考えてください。
差額を見るときは、初年度だけでなく数年分で考えてください。会社設立の初年度は費用が先行し、節税の効果が出るのは決算を迎えてからです。二年目以降の姿で判断するほうが実態に近くなります。
出典No.5759 法人税の税率 (国税庁/2026年8月22日確認)
見積もりでよくある間違い

見積もりの際によくある間違いを挙げます。いずれも節税メリットを過大に見積もる原因になります。
一つめ:給与所得控除を二重に数える。本業で上限に達していれば増えません。独立した個人事業主を前提とした記事の説明を、そのまま当てはめないでください。
二つめ:社会保険料を計算に入れない。税額だけを比べて有利に見えても、保険料を足すと逆転することがあります。とくに本業の等級が上限に達していない方は影響が大きくなります。
三つめ:固定費を差し引かない。均等割は赤字でもかかります。節税額から必ず引いてください。
四つめ:法人に残した利益を手取りとして数える。法人の資金は個人が自由に使えません。納める税額が減ることと、使える現金が増えることは別です。
この四つを避けるだけで、見積もりの精度がかなり上がります。
とくに一つめと二つめは、会社員に特有の論点です。会社設立の解説記事の多くは独立や起業を想定していますので、そのまま読むと当てはまらない部分があります。
サラリーマンが会社設立を検討するときは、本業の源泉徴収票と給与明細を手元に置いて読むことをおすすめします。数字を確認しながら読めば、当てはまるかどうかが判断できます。
節税メリットを保守的に見積もることが、判断を誤らないための基本です。
これらの間違いは、いずれも会社設立を実際より有利に見せる方向に働きます。判断を誤らないためには、疑わしい項目は数えないという姿勢が有効です。
出典No.1410 給与所得控除 (国税庁/2026年8月22日確認)
相談するときに伝えること

見積もりができたら、税理士に相談する段階です。何を伝えるかを整理します。

そして、社会保険料を含めた計算を明示的に依頼してください。税額の計算だけでは、会社設立が見合うかどうかの判断材料として不十分です。
依頼するときに、複数のパターンで試算してもらうよう伝えると、比較がしやすくなります。報酬額を三通り、といった形です。
会社設立の前に依頼しておけば、役員報酬を決める期限に追われずに済みます。設立してから相談すると、限られた時間で判断することになります。
なお、税理士に依頼する費用は、会社設立による節税額から差し引かれる固定費です。試算の段階から相談するのであれば、その費用も見込んでおいてください。
サラリーマンとして限られた時間で進める以上、資料を揃えて一度で相談するのが効率的です。
会社員の法人化を扱った経験のある税理士であれば、本業との合算という論点も踏まえて試算してもらえます。
相談の際には、いつごろ会社設立をする予定かも伝えてください。時期によって、適用される制度や手続きの段取りが変わることがあります。
出典No.5100 新設法人の届出書類 (国税庁/2026年8月22日確認)
まとめ

会社設立の節税メリットを見積もる手順について、この記事で整理したことをまとめます。
- 手順1:書類を揃える。源泉徴収票、給与明細、副業の収支の記録
- 手順2:現状を把握する。課税所得の税率帯と、標準報酬月額の等級
- 手順3:法人化後を想定する。役員報酬の候補を三通りほど立てます
- 手順4:固定費を引く。均等割・税理士費用・社会保険料の増加分
- 手順5:比べる。個人のままの場合との差額で判断します
よくある間違いは四つです。給与所得控除の二重計上、社会保険料の未計上、固定費の未控除、そして法人に残した利益を手取りとして数えること。
節税メリットは保守的に見積もってください。過大に見積もると、実際には得られない効果を前提に判断することになります。
見積もった結果を持って税理士に相談すれば、精度の高い試算が得られます。サラリーマンとして本業がある以上、急いで結論を出す必要はありません。
出典複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き (日本年金機構/2026年8月22日確認)
見積もってから、相談してください
この手順で見積もっておけば、税理士に相談するときに話が早くなります。前提を伝えたうえで、精度の高い試算を依頼できます。
そして、依頼するときは社会保険料を含めた計算を明示的に求めてください。税額だけの試算では、会社設立が見合うかどうかの判断材料として不十分です。
見積もった結果、固定費を上回らないと分かることもあります。それは有益な結論です。固定費を払わずに済んだということですから、いまは個人のまま続けてください。
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