相続対策の会社設立が裏目に出るとき。数字が合わなくなる場面
この記事が扱うこと
相続対策で会社設立を検討している、あるいはすでに法人を持っている会社員に向けて、効果が出なくなる場面を整理する記事です。
相続対策は数十年先を見据えた話です。その間に、資産の構成も、家族の状況も、制度も変わります。設立時の前提が崩れることがあります。
どういう場面で数字が合わなくなるのか。先に知っておけば、備えられます。個別の判断は必ず税理士にご相談ください。
資産の構成が変わったとき

一つめの場面が、法人が持つ資産の構成が変わったときです。
国税庁が示すところによれば、取引相場のない株式の評価は、会社の規模や資産の内容に応じて方法が定められています。
資産のうち、株式や土地が占める割合が一定の水準を超える会社については、別の取扱いが定められています。
つまり、資産の構成が変われば、適用される評価の方法も変わりうるということです。
会社設立の時点で試算した評価額が、数年後にはまったく違う数字になることがあります。
たとえば、不動産を売却して現金や有価証券に置き換えた場合。資産の内訳が変われば、評価の方法も変わります。
この変化は、意図せずに起きます。物件の売却、新規の取得、借入金の返済。通常の運営のなかで資産の構成は動きます。
したがって、定期的に評価を確認することが必要になります。設立時の試算を放置しないでください。
会社員が本業のかたわらで運営する場合、この確認を忘れがちです。税理士に定期的に見てもらう体制を作ってください。
サラリーマンの方は、資産を売却したり買い替えたりするたびに、節税の前提が動いていると考えてください。
会社設立の時点で保有していた資産と、十年後に保有している資産が同じとは限りません。物件の入れ替え、借入金の返済、新規の取得。通常の運営を続けるだけで、資産の内訳は動いていきます。評価の前提もそれに合わせて動きます。
出典No.4638 取引相場のない株式の評価 (国税庁/2026年8月22日確認)
承継する人がいないとき

二つめの場面が、法人を承継する人がいないときです。
相続対策で会社設立をする以上、その法人は次の世代に引き継がれることが前提になっています。
ところが、引き継ぐ側にも意思と能力が必要です。法人を持てば、毎年の決算と申告が続きます。
子が遠方に住んでいる、本業が忙しい、資産の運営に関心がない。こうした事情があれば、引き継いだあとに困ることになります。
引き継いだ人が運営できなければ、結局は解散することになります。そして解散には費用と時間がかかります。
資産を法人から個人に戻せば、そこで課税も生じます。法人側の譲渡益と、個人側の分配に対する課税です。
つまり、対策のつもりで作った法人が、負担として残ることになります。
したがって、会社設立の前に、承継する側の意思を確認してください。本人に話をせずに設計を進めるのは避けてください。
サラリーマンとして本業を持つ方が、その子も同じように本業を持つのであれば、運営の負担が現実的かを確かめる必要があります。
節税額よりも、引き継げる形かどうかのほうが重要な場合があります。
サラリーマンとして本業を持つ子であれば、なおさら運営の負担が現実的かを確かめる必要があります。節税額よりも引き継げるかが先です。
会社設立の話を進める前に、引き継ぐ予定の人と一度話をしてください。本人が知らないところで設計が固まっていると、相続の場面で戸惑うことになります。運営の内容と、毎年何をする必要があるかを具体的に伝えてください。
会社設立を提案する側は、設立の是非までは踏み込まないことがあります。引き継ぐ人がいるかどうかは、家庭の事情に関わる部分だからです。ここは自分で確かめるしかありません。
出典No.4132 相続人の範囲と法定相続分 (国税庁/2026年8月22日確認)
維持費が積み上がったとき

三つめの場面が、維持費の積み上がりです。
法人住民税の均等割が毎年かかります。総務省の資料で標準税率を確認すると、資本金等の額が1千万円以下で従業者数が50人以下の場合、都道府県民税2万円と市町村民税5万円で年7万円です。
これに決算と申告の費用が加わり、合計で年30万円前後になります。
相続は数十年先かもしれません。その間、この負担が毎年続きます。

この図が示すのは、維持する期間が長いほど、費用が効果を侵食していくということです。
節税額が500万円と見込まれても、維持費が累計で500万円を超えれば、差し引きでゼロになります。
しかも、維持費は確実に出ていく一方、節税額は将来の見込みです。制度が変われば、効果も変わります。
会社員が本業の給与から維持費を払っていると、この積み上がりに気づきにくくなります。累計で見てください。
相続まで長い期間があるなら、いま会社設立をする必要があるかを考え直すという判断もあります。
サラリーマンの方は、本業の給与から支払っているうちは負担を実感しにくくなります。節税額と並べて累計を記録してください。
会社設立の初期費用も、この累計に加えてください。合同会社であれば数万円から十数万円、株式会社であれば定款認証の費用が加わります。加えて、資産を法人に移した場合はその移転コストも一度きりで発生しています。
出典地方税制度|法人住民税 (総務省/2026年8月22日確認)
実体を示せなくなったとき

四つめの場面が、法人の実体を示せなくなったときです。
資産管理を目的とする法人は、活動が外から見えにくいという特徴があります。取引の件数も少なく、成果物も残りにくくなります。
設立の直後は記録を残していても、数年たつと止まることがあります。とくに、本業が忙しくなった時期に途切れがちです。
記録がなければ、その法人が何をしていたかを説明できません。所得を移すためだけに存在していると見られる可能性があります。
国税庁は役員給与について、不相当に高額な部分は損金にならないとしています。職務の内容、法人の収益の状況などが考慮されるという考え方は、資産管理を目的とする法人にも及びます。
家族を役員にして報酬を払っている場合、その実態も問われます。何年も業務の記録がなければ、根拠を示せません。
したがって、記録は続けることに意味があります。設立時だけ整えても足りません。
会社員が本業のかたわらで運営する場合、簡素な形で続けられる仕組みにしてください。月に一度、数行のメモでも構いません。
サラリーマンとして忙しい時期があるのは当然です。その前提で、続く形を作ってください。
節税の根拠は、記録がなければ示せません。サラリーマンとして忙しい時期でも続く形にしてください。
会社設立の直後は意識して記録を残していても、数年たつと形骸化しがちです。決算のタイミングで一年分の記録を見返し、抜けている期間がないかを確認する習慣をつけてください。
実体の有無は、あとから遡って作れるものではありません。日々の判断を短く書き残すだけで足りますので、続けられる形を最初に決めてください。
出典No.5202 役員等に対する経済的利益 (国税庁/2026年8月22日確認)
家族の状況が変わったとき

五つめの場面が、家族の状況が変わったときです。
役員にしていた家族が就職すれば、社会保険の扱いが変わります。日本年金機構の案内によれば、複数の適用事業所で被保険者となる場合には届出が必要とされ、保険料は合算した標準報酬月額により決定されます。
扶養の範囲で設計していた場合、その前提が崩れます。
転居して遠方に住むようになれば、業務の実態も維持しにくくなります。物件の見回りや管理の業務を担当していたなら、続けられなくなります。
結婚や離婚によって、持分の構成が想定と変わることもあります。
これらはいずれも、会社設立の時点では見通せません。
したがって、状況が変わったときに見直す前提で設計してください。役員の変更も、報酬の見直しも、手続きとしては可能です。
放置するのが最も危険です。実態のない役員に報酬を払い続ければ、否認の対象になります。
会社員として本業を持つ方も、転職や転勤で状況が変わります。そのときに法人をどうするかを決めておいてください。
節税の設計は、家族の状況を前提にしています。前提が動けば設計も動かしてください。
会社設立の際に決めた役員の構成は、変更登記によって変えられます。費用はかかりますが、実態に合わない状態を続けるよりは確実です。状況が変わったら、放置せずに手続きしてください。
出典複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き (日本年金機構/2026年8月22日確認)
制度が変わったとき

六つめの場面が、制度が変わったときです。
相続税の制度は、これまでも改正されてきました。基礎控除の水準、特例の要件、評価の方法。いずれも変わりうるものです。
国税庁が示す小規模宅地等の特例についても、対象となる宅地の要件や面積の上限が定められています。これらが改正されれば、法人化の有利不利が入れ替わることもあります。
個人で持つほうが有利になる方向に改正されれば、法人化した意味が薄れます。
逆に、法人に有利な改正が行われる可能性もあります。どちらに動くかは分かりません。
分からないものを前提に数十年の設計をするということですので、この不確実性は織り込んでおいてください。
そして、制度が変わったときに動けるようにしておくことが備えになります。持分の構成を複雑にしすぎない、資産を移しすぎない、といった判断です。
会社設立の時点で、あとから変えられる部分と変えられない部分を確認しておいてください。
サラリーマンとして数十年先を見据える以上、柔軟性を残す設計に意味があります。
制度改正で節税の効果が失われる可能性は、常にあります。サラリーマンとして数十年先を見据えるなら、この不確実性を前提にしてください。
会社設立の際に、持分の構成をあまり複雑にしないことも備えになります。人数が増えるほど、あとから変更するときの合意が難しくなります。
改正の方向が読めない以上、いま有利だという理由だけで大きく動かすのは避けたほうが無難です。資産の一部を法人に移し、残りを個人で持つという分散も、備えの一つになります。
出典No.4124 相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例) (国税庁/2026年8月22日確認)
裏目に出ないための備え

ここまでの内容から、備えを整理します。

六つめのやめる選択肢が、最も重要です。前提が崩れたときに、続けるしかない状態になっていると身動きが取れません。
一つめの定期的な確認も欠かせません。数年に一度は、評価と効果を見直してください。
そして、節税額と維持費を毎年記録しておくと、判断の材料になります。累計で見れば、続ける意味があるかが分かります。
会社員が本業のかたわらで運営する場合、この見直しの機会を決めておくことをおすすめします。決算のタイミングに合わせるのが自然です。
サラリーマンとして忙しくても、年に一度なら確保できるはずです。
節税額と維持費を並べた記録が、見直しの材料になります。サラリーマンの方は年に一度の確認で足ります。
会社設立をした以上、法人は毎年動き続けます。年に一度の見直しを決算に合わせて組み込めば、忘れずに続けられます。
出典No.5100 新設法人の届出書類 (国税庁/2026年8月22日確認)
まとめ

相続対策の会社設立が裏目に出る場面について、この記事で整理したことをまとめます。
- 資産の構成が変われば、評価の方法も変わります。設立時の試算が通用しなくなることがあります
- 承継する人に意思と能力がなければ、法人が負担として残ります
- 維持費は年30万円前後。数十年続けば節税額を侵食します
- 記録が途切れれば、実体を示せなくなります。続けられる形にしてください
- 家族の就職や転居で、社会保険の前提と業務の実態が変わります
- 制度も改正されます。有利不利が入れ替わる可能性を織り込んでください
相続対策の会社設立は、数十年にわたって前提が維持されることを想定しています。現実には、前提は変わります。
定期的に見直す前提で設計し、やめる選択肢を残しておいてください。これが最も現実的な備えです。
サラリーマンとして本業がある方は、年に一度の見直しの機会を決めておいてください。決算のタイミングが自然です。
会社設立をやめるという判断も、選択肢として持ち続けてください。
出典No.4155 相続税の税率 (国税庁/2026年8月22日確認)
前提が崩れる可能性を織り込んでください
相続対策の会社設立は、数十年にわたって前提が維持されることを想定しています。その間に前提が変われば、効果も変わります。
資産の構成、家族の状況、制度。いずれも変わりうるものです。定期的に見直す前提で設計してください。
そして、見直した結果として法人をやめるなら、その費用もかかります。判断に迷う部分は税理士にご相談ください。
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