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会社設立 相続税対策

役員報酬で資産を移す。会社設立を使った相続対策の実際と限界

この記事が扱う方法

会社設立による相続対策のうち、役員報酬を使って資産を移す方法を扱う記事です。

資産を法人に入れ、家族を役員にして報酬を払う。毎年少しずつ移していくという考え方です。仕組みとしては成り立ちます。

ただし、職務の実態、社会保険、受け取る側の税負担という三つの条件があります。この三つを確かめずに始めると、期待した効果になりません。個別の判断は税理士にご相談ください。

どういう仕組みなのか

どういう仕組みなのかを表したイラスト

まず、この方法の仕組みを確認します。

資産を法人に入れ、そこから生じる収益を、家族に役員報酬として支払う。これが基本の形です。

法人の側では、要件を満たせば損金になります。国税庁が示すところによれば、定期同額給与などに該当する必要があります。

受け取る側では給与所得となり、給与所得控除が適用されます。

そして、資産が毎年少しずつ家族に移っていくことになります。相続の時点で本人が持つ資産が減りますので、相続税の対象も減ります。

贈与と比べた場合の違いは、法人側で損金になることです。贈与では、渡す側の所得は減りません。

会社設立をして資産管理の法人を作る際に、この設計があわせて語られるのはこのためです。

サラリーマンとして本業を持ちながら資産を持つ方にとって、節税と資産移転を同時に扱える形に見えます。

ただし、条件があります。次の節から順に見ていきます。

贈与の仕組みと比べてください資産を移す方法としては、贈与という選択肢もあります。年間の基礎控除の範囲内であれば贈与税がかからない仕組みや、相続時に精算する仕組みが定められています。役員報酬による方法と、どちらが有利かは状況によって変わります。両方を並べて検討してください。

サラリーマンとして本業の給与がある方の場合、法人の収益に手をつけずに済むことが多いため、この設計が取りやすい面もあります。節税と資産移転を同時に進められるように見えるのは、そのためです。

会社設立をして資産を法人に入れる段階では、移転にともなう費用も生じます。不動産であれば登録免許税と不動産取得税、有価証券であれば譲渡益への課税です。資産を移すこの入口の費用も、資産移転の効果と並べて計算してください。

会社設立の目的が資産移転にあるなら、法人の運営そのものが数十年続くことを前提に設計することになります。

出典No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分) (国税庁/2026年8月22日確認)

条件その一・職務の実態

条件その一・職務の実態を表したイラスト

一つめの条件が、職務の実態です。

役員にして報酬を払う以上、その人が実際に職務を行っている必要があります。

国税庁は役員給与について、不相当に高額な部分は損金にならないとしています。判断にあたっては、その役員の職務の内容、法人の収益の状況、使用人に対する給与の支給状況などが考慮されます。

つまり、名前だけの役員に報酬を払っても、損金として認められない可能性があります。

資産管理を目的とする法人では、業務が外から見えにくいという事情があります。だからこそ、記録が重要になります。

残すべき記録を整理します。

  • 誰がどんな業務を担当しているか
  • その業務をいつ、どれだけ行ったか
  • 重要な判断について、誰が関与したか
  • 報酬の額をどのように決めたか
  • 業務の内容に見合った水準であることの根拠

形式は問いません。日付と内容が分かるメモで構いません。ただし、あとからまとめて作るのでは意味がありません。

会社員が本業のかたわらで運営する場合、家族の業務量も限られることが多いはずです。その範囲に見合った報酬にしてください。

節税額を大きくしようとして報酬を上げれば、実態との乖離が生じます。そこが否認の入口になります。

節税額を優先して実態を軽視すると、あとで全額が否認されます。サラリーマンの家庭では、家族が担える業務の量に限りがあることが多いはずです。

会社設立の直後から記録を残してください。何年かたってから遡って作成した記録は、根拠として弱くなります。日々の業務のなかで自然に残る形にしておくのが確実です。

会社設立をした法人の業務内容は、その法人が何を保有しているかによって決まります。不動産であれば入居や修繕に関する判断、有価証券であれば銘柄や配分の判断です。家族がどの部分を担うのかを、会社設立の段階で決めておいてください。

出典No.5202 役員等に対する経済的利益 (国税庁/2026年8月22日確認)

条件その二・社会保険

条件その二・社会保険を表したイラスト

二つめの条件が、社会保険です。

法人は役員一人でも適用事業所になります。日本年金機構の案内によれば、法人の事業所は常時従業員を使用するものとして適用事業所になるとされています。

役員報酬を受け取れば、その人は被保険者になります。

したがって、配偶者を役員にして報酬を払えば、扶養の範囲から外れる可能性があります。保険料の負担が新たに生じます。

法人の側も、保険料を負担します。役員報酬の額に応じた保険料が、法人の費用として発生します。

役員報酬を支払った場合に生じる税と社会保険料の負担を示した横棒グラフ
三つめの法人負担分が見落とされやすい項目です。

この図が示すのは、報酬として支払った金額の一部が、税と保険料で失われるということです。

すでに本業を持つ家族を役員にする場合は、さらに複雑になります。日本年金機構の案内によれば、複数の適用事業所で被保険者となる場合には届出が必要とされ、保険料は合算した標準報酬月額により決定されます。

会社員が自分自身に報酬を払う場合も同じです。本業ですでに加入している方は、二つの事業所で被保険者になります。

サラリーマンとして本業がある方は、この負担増を計算に入れてから設計してください。

節税の計算では、この保険料の負担を必ず差し引いてください。サラリーマンの方は、本業の保険料との関係も確認が必要です。

会社設立をして役員を複数にすると、その人数分の保険料が生じます。家族全員を役員にする設計を勧められることがありますが、保険料の総額を計算してから決めてください。

出典適用事業所と被保険者 (日本年金機構/2026年8月22日確認)

条件その三・受け取る側の税負担

条件その三・受け取る側の税負担を表したイラスト

三つめの条件が、受け取る側の税負担です。

役員報酬は給与所得となり、所得税と住民税の対象になります。

給与所得控除が適用されますが、控除後の金額には累進の税率が適用されます。他に所得があれば合算されます。

つまり、法人から出した金額がそのまま家族に残るわけではありません。

そして、社会保険料も差し引かれます。手元に残るのは、報酬額から税と保険料を引いた金額です。

贈与と比べる場合、この点が判断の分かれ目になります。贈与であれば、基礎控除の範囲内なら贈与税がかからない仕組みが定められています。

一方、役員報酬には法人側で損金になるという利点があります。法人の所得が減れば、法人税の負担も減ります。

どちらが有利かは、法人の所得の水準、受け取る側の他の所得、社会保険の状況によって変わります。

会社員が判断する場合、世帯全体の手取りで比べてください。法人の節税額だけを見ると、判断を誤ります。

この比較は税理士に試算を依頼するのが確実です。

節税額を測るときは、法人と個人の両方を通した手取りで見てください。

会社設立をした法人から報酬を出す場合と、個人の資産から贈与する場合とでは、手続きの重さも違います。報酬であれば毎月の支給と源泉徴収の事務が発生し、年末調整または確定申告も必要になります。

会社設立をして法人に利益を残す設計と、報酬として出す設計とでは、最終的に世帯に残る金額が変わります。どちらが有利かは、法人の所得水準と家族の所得によって入れ替わりますので、両方を試算してください。

出典No.2260 所得税の税率 (国税庁/2026年8月22日確認)

退職金という選択肢

退職金という選択肢を表したイラスト

役員報酬とは別に、退職金という手段があります。

法人が役員に支払う退職金は、要件を満たせば損金になります。そして、受け取る側では退職所得として扱われます。

退職所得には、勤続年数に応じた控除が設けられており、他の所得と分離して計算されます。給与として受け取る場合と比べて、税負担が軽くなる場合があります。

ただし、不相当に高額な部分は損金にならないとされています。在職年数、退職の事情、同業種の法人の支給状況などが考慮されます。

そして、実際に退職したという事実が必要です。形式だけの退職では認められません。

長期にわたって役員を務めたうえで退職するという前提での手段だということになります。

会社設立の時点で退職金を目的とするなら、数十年先を見据えた設計になります。その間、法人を維持し続けることになります。

サラリーマンとして本業がある方が、本業の定年後にこの法人から退職金を受け取るという設計も考えられます。

いずれにせよ、要件と水準の判断は複雑です。税理士に確認しながら進めてください。

退職金は、節税の観点から見れば効率のよい手段です。サラリーマンとして定年を迎える方にとって、選択肢の一つになります。

会社設立から退職金の支給までの期間が短ければ、勤続年数に応じた控除も小さくなります。数年で退職金を出す設計は、効果が限られます。

会社設立の時期が、退職金の水準にも影響します。

出典No.2508 給与所得となるもの (国税庁/2026年8月22日確認)

この方法が向かない場合

この方法が向かない場合を表したイラスト

この方法が向かない場合を整理します。

一つめが、資産の規模が小さい場合です。法人の維持費が年30万円前後かかりますので、移せる金額がそれを大きく上回らなければ意味がありません。

二つめが、業務の実態を作れない場合です。家族が遠方に住んでいる、本業が忙しく関与できない。こうした事情があれば、実態のある役員にはなりません。

三つめが、家族に他の所得がある場合です。すでに高い税率帯にいる家族に報酬を払えば、そこにさらに税率が乗ります。

四つめが、扶養の範囲を維持したい場合です。報酬を払えば扶養から外れ、保険料の負担が生じます。

これらに当てはまるなら、贈与の仕組みを使うほうが単純です。手続きも軽く、維持費もかかりません。

会社設立をせずに資産を移す方法も検討してください。法人を持つこと自体が目的ではないはずです。

そして、この方法は数十年にわたって続けることが前提です。途中でやめれば、解散の費用が生じます。

会社員が本業のかたわらで数十年維持できるか。そこも判断の要素になります。

節税を目的とするなら、法人を持たない方法も比べてください。サラリーマンにとっては、そのほうが手間が少なく済みます。

会社設立をせずに資産を移す方法のほうが、結果として世帯に残る金額が大きい場合があります。法人を持つこと自体が目的ではないはずですので、先入観なく比べてください。

出典地方税制度|法人住民税 (総務省/2026年8月22日確認)

確認の手順

確認の手順を表したイラスト

ここまでの内容を、確認の手順としてまとめます。

役員報酬で資産を移す前に確認する六項目のチェックリスト
一つめが満たせないなら、この方法は使えません。

一つめが出発点です。実態のない役員に報酬を払う形は、そもそも成り立ちません。

六つめの比較も必ず行ってください。贈与のほうが単純で有利な場合があります。

そして、世帯全体の手取りで比べることを忘れないでください。法人の節税額だけでは判断できません。

サラリーマンとして本業がある方は、本業の給与も含めた税率帯で計算することになります。

この試算は税理士に依頼するのが確実です。会社設立の前に相談してください。

節税額の試算は、この六項目を埋めてから行ってください。

会社設立の前にこの六項目を埋めておけば、税理士との相談も具体的に進みます。

会社設立をするかどうかは、この確認を終えてから決めてください。順序を逆にすると、設立してから使えないと分かることになります。

出典No.5100 新設法人の届出書類 (国税庁/2026年8月22日確認)

まとめ

まとめを表したイラスト

役員報酬による資産移転について、この記事で整理したことをまとめます。

  1. 法人から家族に役員報酬を払い、毎年少しずつ資産を移すという仕組みです
  2. 職務の実態が前提です。名前だけの役員に払う形は、損金として認められない可能性があります
  3. 報酬を払えば社会保険の被保険者になります。扶養から外れ、法人側にも保険料負担が生じます
  4. 受け取る側にも所得税と住民税がかかります。移した金額がそのまま残るわけではありません
  5. 退職金という手段もありますが、実際に退職したという事実と、水準の妥当性が必要です
  6. 資産の規模が小さい、実態を作れない場合は、贈与の仕組みのほうが単純です

この方法は、実態があってはじめて成り立ちます。節税額を大きくしようとして報酬を上げれば、実態との乖離が生じます。

そして、世帯全体の手取りで比べてください。法人の損金になることばかりを見ると、受け取る側の負担を見落とします。

サラリーマンとして本業がある方は、本業の給与も含めた計算が必要です。会社設立の前に税理士に相談してください。

この記事の内容について制度の内容は2026年8月22日に国税庁・総務省・日本年金機構のページで確認したものです。制度は改正されます。役員給与や退職金が損金として認められるかは事実関係によって判断が分かれ、贈与に関する制度にも細かな要件があります。実際の判断にあたっては必ず税理士にご相談ください。当サイトは一般的な制度の解説であり、個別の税務相談ではありません。

会社設立の判断は、実態を作れるかどうかで大きく変わります。

出典No.4638 取引相場のない株式の評価 (国税庁/2026年8月22日確認)

三つの条件を先に確かめてください

役員報酬で資産を移す方法は、職務の実態があることが大前提です。実際に何もしていなければ、否認されます。

そして、受け取る側にも所得税と社会保険料がかかります。移した金額がそのまま残るわけではありません。

この三つを確かめたうえで、贈与の仕組みと比べてください。判断は必ず税理士にご相談ください。

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