会社設立が節税にならない場合。効かない条件を先に確かめる
この記事の考え方
会社設立が節税になる条件を探すのではなく、ならない条件を先に確かめるという記事です。効かない条件のほうが、はっきりしていて判断しやすいためです。
ここに挙げる条件のいずれかに当てはまる場合、会社設立を急ぐ理由はありません。個人のままでできることを整えるほうが確実です。
当てはまらなければ、会社設立が選択肢に入ります。そのうえで具体的な試算に進んでください。個別の判断は税理士にご相談ください。
効かない条件から確かめる理由

会社設立が節税になるかどうかを調べると、多くの記事は「こういう条件なら効きます」という形で書かれています。
ただ、効く条件は前提の組み合わせで動くため、はっきりした線が引きにくいものです。本業の給与、副業の利益、家族の状況、自治体。どれか一つが変われば結論も変わります。
一方、効かない条件のほうは、比較的はっきりしています。利益が固定費に届かない、給与所得控除がすでに上限に達している、実体を説明できない。こうした条件は判定しやすいのです。
したがって、まず効かない条件に当てはまらないかを確かめ、当てはまらなければ具体的な試算に進む。この順番のほうが、判断が早くなります。
この記事では、六つの条件を挙げます。いずれか一つでも当てはまれば、いまは会社設立を急ぐ理由がありません。
サラリーマンとして本業がある以上、急いで法人を持つ必要はありません。条件が整うのを待つという選択も十分に合理的です。
なお、条件は変わります。副業の利益が育てば一つめの条件から外れますし、就業規則が改定されれば別の条件も変わります。定期的に確かめてください。
サラリーマンとして本業がある方の場合、この六つの条件のうち二つめと三つめが特に効いてきます。いずれも本業の給与水準によって判定が変わりますので、源泉徴収票と給与明細を手元に置いて確かめてください。独立して事業を行う方にはない制約ですので、一般的な解説を読むときは注意が必要です。
出典No.5759 法人税の税率 (国税庁/2026年8月22日確認)
条件その一:利益が固定費に届かない

最初の条件が、もっとも分かりやすいものです。節税額が固定費に届かない場合です。
会社設立をすると、法人住民税の均等割が毎年かかります。総務省の資料で標準税率を確認すると、資本金等の額が1千万円以下で従業者数が50人以下の場合、都道府県民税2万円と市町村民税5万円で年7万円です。
これは所得がゼロでも、赤字でもかかります。自治体によっては超過課税により異なる場合があります。
これに税理士費用が加わります。決算と法人税の申告は、サラリーマンが本業のかたわらで独学で行うには負担が大きい部分ですので、依頼することが多くなります。年間で十数万円からが目安です。
合計すると、年30万円前後になります。節税額がこの額を上回らなければ、手取りは増えません。
税率の差が10%程度だとすると、節税額が30万円に達するには法人に移す所得が300万円必要という計算になります。ここに社会保険料の変動が加わるため、実際にはもう少し必要になることが多いです。
副業の利益がこの水準に届いていない段階では、会社設立は節税になりません。固定費だけが増えることになります。
この条件に当てはまる場合、まず副業を育てることが先です。あるいは、個人のままでできる節税を整えてください。
サラリーマンの場合、本業の給与があるため固定費を吸収できてしまいます。それ自体は助かることですが、見合っているかの検証が甘くなる原因にもなります。
副業の利益がまだ小さい段階では、記帳を整えて青色申告の承認を受けるほうが確実です。会社設立と違って固定費がかからず、控除の効果がそのまま手元に残ります。サラリーマンが節税を考えるとき、この順番を飛ばさないでください。
出典地方税制度|法人住民税 (総務省/2026年8月22日確認)
条件その二:給与所得控除が上限に達している

二つめが、会社員に特有の条件です。
会社設立の節税として語られる項目のひとつに、役員報酬を受け取ることで給与所得控除が使えるというものがあります。ただし、この控除には上限があります。
国税庁のページで確認すると、給与等の収入金額が850万円を超える場合の給与所得控除額は195万円が上限です。
会社員は本業の給与ですでにこの控除を使っています。そして、役員報酬は本業の給与と合算されます。したがって、本業の給与収入が850万円を超えていれば、役員報酬を受け取っても給与所得控除は増えません。
この場合、所得の付け替えによる節税という経路は効きません。多くの解説が挙げているメリットの一つが、そのまま消えることになります。
この条件は、節税額の見積もりを大きく変えます。効かない項目を期待に含めたまま計算すると、実際には得られない節税を数えることになります。
ただし、この条件に当てはまっても他の経路は残ります。税率構造の差や、経費の範囲の拡大は依然として効きます。したがって、この条件だけで会社設立を諦める必要はありません。
重要なのは、この項目を節税額に含めないということです。含めずに計算して、なお固定費を上回るのであれば、会社設立は選択肢になります。
確認は簡単です。本業の源泉徴収票で給与収入を見るだけです。会社設立を考えるサラリーマンは、まずここを確かめてください。
この条件に当てはまるかどうかは、源泉徴収票の給与収入の欄を見るだけで判定できます。数分で済む確認ですので、会社設立を考え始めた段階で済ませておいてください。
出典No.1410 給与所得控除 (国税庁/2026年8月22日確認)
条件その三:社会保険料の増加が節税額を上回る

三つめが、社会保険料です。ここは見落とされやすい条件です。
役員報酬を受け取ると、その法人でも社会保険の被保険者になります。本業ですでに加入している会社員は二つの事業所で被保険者となり、二以上事業所勤務の届出が必要になります。
日本年金機構の案内によれば、保険料は両方の報酬を合算した標準報酬月額により決定され、それぞれの報酬に基づいて按分されます。
合算により標準報酬月額の等級が上がれば、保険料の総額が増えます。しかも社会保険料は労使折半ですので、一人法人では個人負担分と法人負担分の両方が実質的な自己負担です。
この増加額が節税額を上回れば、会社設立をしても手取りは減ります。税額だけを比べて有利に見えても、保険料を足すと逆転するという形です。
ただし、標準報酬月額には上限があります。本業の給与だけですでに上限付近にいる方の場合、役員報酬を加えても保険料がほとんど変わらないことがあります。
逆に、上限に達していない方が報酬を加えると、等級が上がって保険料が増えます。ご自身がどちらに当たるかで、結論が変わります。
確認は、給与明細と保険料額表を照らし合わせれば可能です。会社設立を考える段階で、一度確かめておいてください。
なお、役員報酬をゼロにすればこの条件は生じませんが、法人に残った利益を個人が使えないという制約が生じます。次の条件につながります。
標準報酬月額の等級は、給与明細の社会保険料の控除額から逆算できます。加入先が公表している保険料額表と照らし合わせれば分かります。会社設立の判断材料として、一度確認しておく価値があります。
出典複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き (日本年金機構/2026年8月22日確認)
条件その四:手元の現金を増やしたいのに報酬を取れない

四つめが、目的と設計が合わない場合です。
会社設立による節税の設計として、役員報酬をゼロまたは低く設定して法人に利益を残すという形があります。個人の所得が増えないため所得税がかからず、社会保険料も抑えられます。
ただし、法人に残った利益は法人のものです。個人が生活費として使うことはできません。使えば役員貸付金という扱いになり、返済が必要になります。
したがって、会社設立の目的が「手元の現金を増やすこと」であれば、この設計では目的を達成できません。
一方、報酬を取れば個人が受け取れますが、本業の給与と合算されて所得税がかかり、社会保険料も発生します。前の二つの条件が効いてきます。
つまり、手元の現金を増やしたいという目的と、節税の設計が両立しにくい場面があります。とくに本業の給与が高い会社員では、この傾向が強くなります。
この条件に当てはまる場合、会社設立は目的に合いません。法人に資金を蓄積して事業を育てる、あるいは将来の退職金として受け取るという目的であれば合理的です。
会社設立の目的をはっきりさせることが、この条件を判定する前提になります。何のために法人を持つのかを、先に決めてください。

会社設立の目的が定まっていないまま設立してしまうと、報酬をいくらにするかの判断もぶれます。役員報酬は事業年度の開始から一定期間内に決めたら一年は動かせませんので、目的を先に決めておいてください。
出典No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分) (国税庁/2026年8月22日確認)
条件その五:事業の実体を説明できない

五つめが、事業の実体に関する条件です。
実体のない法人や、不自然な所得の移転は、税務調査で否認されることがあります。否認されれば、本来納めるべきだった税額に加えて加算税や延滞税がかかり、節税どころか負担が増えます。
国税庁は役員給与の損金算入について要件を示しており、不相当に高額な部分は損金にならないとされています。職務の内容、法人の収益の状況、同業他社の状況などが考慮されます。
会社員が本業を持ちながら運営する法人の場合、事業に割ける時間が限られます。そのなかで法人としてどのような事業を行っているのかを説明できなければ、この条件に当てはまります。
具体的には、次のような状態が問題になります。
- 法人としての事業の実体がなく、所得を移すためだけに存在している
- 役員報酬の額が、実際の職務内容や法人の規模と釣り合っていない
- 個人の生活費を法人の経費として処理している
- 取引の記録や成果物が残っておらず、活動を示せない
節税を目的に会社設立をする場合、実体を伴わせることが前提条件です。形だけを整えることはできません。
記録を残す体制が組めるかどうかを、会社設立の前に考えてください。本業が忙しくて記録も残せない状態であれば、この条件に当てはまります。
サラリーマンの副業法人は規模が小さいぶん、事業の実体を示す材料も限られます。だからこそ、記録の重みが増します。
記録を残す作業は、慣れれば負担が減ります。ただし最初の一年は分からないことが続きますので、その時期に本業が忙しいと続かなくなります。会社設立の時期を決めるときは、この点も考慮してください。
出典No.5202 役員等に対する経済的利益 (国税庁/2026年8月22日確認)
条件その六:続けられる見込みがない

六つめが、続けられる見込みに関する条件です。
会社設立には入口の費用がかかり、たたむときにも費用がかかります。解散と清算の手続きには数か月から一年程度かかり、自分で手続きをしても8万円ほど、依頼すれば20万円を超えることがあります。
この入口と出口の費用を、続ける年数で割って考えると、判断が具体的になります。
| 続ける年数 | 入口と出口の費用(年あたり) | 毎年の固定費 | 合計(年あたり) |
|---|---|---|---|
| 3年 | 約13万円 | 約30万円 | 約43万円 |
| 5年 | 約8万円 | 約30万円 | 約38万円 |
| 10年 | 約4万円 | 約30万円 | 約34万円 |
※ 入口20万円・出口20万円・毎年の固定費30万円という前提を置いた概算です。実際の額は形態・自治体・依頼範囲によって変わります。条件が変われば結果も変わります。
短期間でたたむ前提なら、年あたりの負担が重くなります。今年たまたま利益が大きかったという理由で会社設立をすると、翌年以降に固定費だけが残ることになりかねません。
また、サラリーマンの場合、本業の状況が変わる可能性もあります。転職、異動、本業の繁忙。そうしたときに法人の運営が難しくなることがあります。
複数年にわたって安定した利益が見込めるか。そして、その間ずっと決算と申告を続けられるか。この二つが確認できなければ、この条件に当てはまります。
会社設立を判断するときは、続ける年数の見通しを持ってください。見通しがないまま設立すると、たたむ費用まで含めて損になることがあります。
サラリーマンとして働きながら法人を維持するには、決算と申告を毎年こなす体制が要ります。依頼するなら費用、自分でやるなら時間。どちらを払うかを先に決めておいてください。
出典商業・法人登記申請手続 (法務局/2026年8月22日確認)
まとめ

会社設立が節税にならない条件について、この記事で整理したことをまとめます。

六つのうち、二つめは会社員に特有の条件です。給与所得控除の上限は、独立した個人事業主には生じない制約です。
そして、当てはまる条件があっても、それは永久ではありません。副業の利益が育つ、本業の給与が変わる、事業の体制が整う。条件が変われば結論も変わります。
当てはまらないと確認できたなら、次は具体的な試算です。ご自身の数字を持って税理士にご相談ください。サラリーマンとして本業がある以上、急いで結論を出す必要はありません。
出典No.5100 新設法人の届出書類 (国税庁/2026年8月22日確認)
当てはまらないことを確かめてから進んでください
六つの条件のいずれかに当てはまるなら、いまは会社設立を急ぐ段階ではありません。待つという判断も、立派な選択です。
条件が変われば結論も変わります。副業の利益が育つ、本業の給与が変わる、就業規則が改定される。そうしたときに、あらためて確かめてください。
そして、当てはまらないと確認できたなら、次は具体的な試算です。ご自身の数字を持って税理士にご相談ください。
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