副業を合同会社設立で法人化するとき、個人の資産や契約はどう引き継ぐか
この記事が扱う場面
すでに個人事業主として副業を行っている会社員が、合同会社を設立して事業を法人に移す場面を扱います。いわゆる法人成りと呼ばれる形です。
会社設立の手続きそのものは、書類を出せば終わります。難しいのはそれまで個人で持っていたものをどう移すかです。パソコンなどの機材、事務所の賃貸借契約、取引先との契約、屋号の付いた口座。一つずつ判断が必要になります。
処理の仕方によって税務上の扱いが変わり、節税の結果にも影響します。サラリーマンとして本業を持ちながら進める場合、判断を後回しにしがちな部分ですので、会社設立の前に整理しておいてください。個別の判断は税理士にご相談ください。
法人成りで生じる「移す」という作業

個人事業主として行っていた副業を、合同会社を設立して法人に移す。この場合に生じるのが「移す」という作業です。
個人と法人は別人格です。会社設立をしても、個人が持っていた資産や契約が自動的に法人のものになるわけではありません。一つずつ手当てが必要になります。
会社設立の解説記事の多くは、手続きの流れまでを扱って終わります。しかし実務でつまずきやすいのは、この引き継ぎの部分です。サラリーマンが本業のかたわらで進める場合、判断を後回しにしがちなところでもあります。
移すものとして典型的なのは、次のようなものです。
- パソコン、カメラ、工具などの事業用の機材
- 在庫として持っている商品
- 事務所や倉庫の賃貸借契約
- 取引先との業務委託契約
- 屋号の付いた銀行口座
- ソフトウェアやサービスの契約
それぞれについて、法人に譲るのか、個人が法人に貸すのか、あるいは個人に残したまま法人が新たに用意するのかを決めることになります。
会社設立による節税を狙う場合、この処理の仕方が結果に影響します。法人の経費にできるかどうかが変わるためです。
サラリーマンの副業であれば、移すものの数はそれほど多くないかもしれません。それでも、一つずつ確認しておくほうが安全です。
会社設立による節税を狙う場合、この引き継ぎの処理が効果を左右します。法人の経費にできるはずのものを個人に残したままだと、節税の機会を逃すことになります。
出典No.1350 事業所得の課税のしくみ(事業所得) (国税庁/2026年8月21日確認)
機材や設備をどう扱うか

個人で使っていた機材を法人でも使う場合、二つの方法があります。
一つめが、法人に譲る方法です。個人から法人へ売却する形になります。法人はその資産を取得したことになり、金額によっては減価償却の対象になります。個人の側では譲渡による収入が生じます。
二つめが、個人が法人に貸す方法です。法人は賃料を支払い、それが法人の経費になります。個人の側では、受け取った賃料が所得になります。
どちらを選ぶかで、税務上の扱いが変わります。譲る場合は個人の側で譲渡の処理が必要になり、貸す場合は毎年の賃料の授受が発生します。
金額が適正であることが前提です。時価から大きく離れた金額で譲渡したり、相場から離れた賃料を設定したりすると、その差額が問題になることがあります。
サラリーマンが副業で使っていた機材であれば、金額はそれほど大きくないことが多いはずです。その場合、譲る形にして一度で済ませるほうが手間は少なくなります。
会社設立の際に、どの機材をいくらで移すのかを一覧にしておくと、記帳の際に迷いません。購入時の領収書が残っていれば、それも保管しておいてください。
節税の観点では、法人に移した資産の減価償却費が法人の経費になります。ただし少額のものは一括で経費にできる取り扱いもありますので、金額によって処理が変わります。
この判断は税理士に確認しながら進めるほうが確実です。会社設立の相談をする際に、あわせて聞いておいてください。

出典No.5202 役員等に対する経済的利益 (国税庁/2026年8月21日確認)
在庫がある場合

物販などで在庫を持っている場合、その扱いも決める必要があります。
在庫を法人に移す場合、個人から法人への譲渡になります。個人の側では売上として計上し、法人の側では仕入れとして計上することになります。
金額は、原則として時価によることになります。仕入れた価格をそのまま使えるとは限りませんので、この点は確認が必要です。
また、個人が消費税の課税事業者である場合、この譲渡についても消費税の課税対象になります。会社設立のタイミングと消費税の課税期間の関係もありますので、判断が複雑になる部分です。
サラリーマンの副業で在庫を持つ形であれば、金額によっては個人に残したまま売り切るという選択もあります。法人は新たに仕入れを始めるという形です。
この場合、個人の事業は在庫がなくなるまで続くことになりますので、その間は個人と法人の両方で申告が必要になります。手間は増えますが、処理は単純です。
会社設立の時期を、在庫が少ない時期に合わせるという考え方もあります。期末に在庫を減らしてから法人に移すという段取りです。
節税の観点だけでなく、手続きの簡便さも含めて判断してください。サラリーマンとして時間が限られている以上、複雑な処理は避けるほうが現実的です。
在庫の処理は、節税というより正確な申告のための作業です。ただし処理を誤ると、あとで修正が必要になり余計な手間がかかります。
出典No.1350 事業所得の課税のしくみ(事業所得) (国税庁/2026年8月21日確認)
契約の名義をどうするか

契約の引き継ぎは、資産の移転より時間がかかることがあります。相手方の承諾が必要になる場合があるためです。
事務所や倉庫の賃貸借契約を法人名義に変える場合、貸主の承諾が要ります。契約書に無断譲渡を禁じる条項があるのが一般的で、承諾なく変更することはできません。
取引先との業務委託契約も同様です。契約上の地位を法人に移すには、相手方の同意が必要になることが多くなります。実務上は、法人名義で新たに契約を結び直すという形を取ることもあります。
会社設立をしてから動くと、この手続きの間に空白が生じます。登記が完了して法人が成立していても、契約が個人名義のままであれば、その取引の売上は個人のものになります。
したがって、会社設立の準備段階で、どの契約をいつ切り替えるかを整理しておくことになります。相手方に事前に相談しておければ、切り替えがスムーズに進みます。
サラリーマンの副業の場合、取引先に法人化を伝えることに抵抗があるかもしれません。ただし、契約の名義を変える以上、伝わることは避けられません。
ソフトウェアやサービスの契約も確認してください。個人向けのプランと法人向けのプランで料金が違うことがあります。法人名義に変えることで費用が上がる場合もあります。
契約の名義が個人のままだと、その取引の売上は個人の所得になります。法人に移したつもりでも、節税の効果が出ないという事態が起こり得ます。
出典商業・法人登記申請手続 (法務局/2026年8月21日確認)
屋号の口座と、法人口座の開設

個人事業主として屋号の付いた口座を使っていた場合、その扱いも考える必要があります。
法人名義の口座は、登記が完了してからでないと開設できません。会社設立の登記を申請した段階では、まだ法人が成立していても登記事項証明書が取得できないためです。
さらに、法人口座の開設には審査があり、時間がかかることがあります。事業の実態について確認を求められることもあります。会社設立の直後にすぐ使えるとは限りません。
したがって、法人口座ができるまでの期間をどうするかを決めておく必要があります。個人の口座で受け取ったものを、あとから法人に振り替えるという処理をすることもあります。
ただし、この処理が続くと記帳が複雑になります。できるだけ早く法人口座を開設し、以後は法人の入出金をそこに集約するのが望ましい形です。
サラリーマンの場合、本業の給与が入る口座と副業の口座が同じということもあります。会社設立を機に、これを分けておくと記帳が格段に楽になります。
会計ソフトと法人口座を連携させれば、明細が自動で取り込まれます。会社設立の直後にこの体制を整えておくと、毎月の記帳の負担が大きく減ります。
節税の観点でも、口座を分けることには意味があります。法人の支出を法人口座から行っていれば、経費であることの説明がしやすくなります。
口座を分けることは、節税の根拠を守ることにもつながります。法人の支出であることを説明できる状態にしておいてください。
出典No.5100 新設法人の届出書類 (国税庁/2026年8月21日確認)
個人事業の廃業手続き

事業をすべて法人に移した場合、個人事業を廃業することになります。
廃業する場合、税務署に個人事業の開業・廃業等届出書を提出します。青色申告の承認を受けていた場合は、青色申告の取りやめ届出書も必要になります。
また、都道府県や市区町村にも届出が必要になることがあります。様式と提出先は自治体によって異なりますので、確認してください。
消費税の課税事業者だった場合は、その関係の届出も生じます。ここは判断が複雑になる部分ですので、税理士に確認しながら進めてください。
廃業した年についても、その年の分の確定申告は必要です。1月1日から廃業の日までの所得を計算して申告することになります。
サラリーマンの場合、この年は本業の給与、個人事業の所得、そして法人からの役員報酬(設定していれば)が混在することになります。会社設立をした年の確定申告は、最も複雑になると考えておいてください。
なお、副業の一部だけを法人に移し、個人事業も続けるという形もあり得ます。その場合は廃業の手続きは不要ですが、個人と法人の両方で申告が続きます。
どちらの形にするかは、事業の内容と手間の量を見て判断してください。
会社設立をした年は、個人と法人の両方で処理が必要になります。節税の効果を正しく計算するためにも、この年の記録は丁寧に残しておいてください。
出典No.1350 事業所得の課税のしくみ(事業所得) (国税庁/2026年8月21日確認)
会社設立の前に整理しておく順番

ここまでの内容を、会社設立の前に整理しておく順番としてまとめます。

この五つを会社設立の前に整理しておけば、設立後の手戻りがかなり減ります。とくに契約の名義変更は、相手方の都合もあって思いどおりに進まないことがあります。
サラリーマンとして本業を持ちながら進める以上、相手方とのやり取りに割ける時間も限られます。余裕を持って動いてください。
節税を目的に会社設立をするのであれば、この引き継ぎの処理を誤ると効果が薄れます。法人の経費にできるはずのものが個人に残っていたり、逆に個人の支出が法人に混ざっていたりすると、あとで整理が必要になります。
判断に迷う部分は、会社設立の相談をする段階で税理士に聞いておいてください。設立の手続きだけを依頼して、引き継ぎの相談をしないままだと、あとで困ることがあります。
節税を目的に会社設立をするのであれば、引き継ぎの方針を先に決めることが前提になります。設立してから考えると、選べる処理が限られることがあります。
出典No.5759 法人税の税率 (国税庁/2026年8月21日確認)
まとめ

副業を合同会社に移すときの引き継ぎについて、この記事で整理したことをまとめます。
- 個人と法人は別人格です。会社設立をしても資産や契約は自動的には移りません
- 機材は、法人に譲るか個人が貸すかを選びます。金額が適正であることが前提です
- 在庫は時価による譲渡が原則です。消費税の扱いにも注意が要ります
- 契約の名義変更には相手方の承諾が要るものがあります。時間がかかります
- 法人口座は登記後にしか開設できません。審査に時間がかかることもあります
- 事業をすべて移すなら、個人事業の廃業届と青色申告の取りやめ届出が必要です
会社設立の手続きは数週間で終わりますが、この引き継ぎには時間がかかります。とくに契約の名義変更は、相手方の都合に左右されます。
そして、移し方によって税務上の扱いが変わります。節税を目的に会社設立をするのであれば、この処理の方針を設立前に決めておいてください。サラリーマンとして限られた時間で進めるなら、税理士に相談しながら進めるのが確実です。
出典地方税制度|法人住民税 (総務省/2026年8月21日確認)
移し方は、会社設立の前に決めてください
資産や契約の移し方は、会社設立をしてから考えると手戻りが生じます。とくに契約の名義変更は相手方の承諾が要るものがありますので、時間がかかることを見込んでおいてください。
そして、移し方によって税務上の扱いが変わります。節税を目的に会社設立をするのであれば、この処理を誤ると効果が薄れます。会社設立の前に税理士に相談し、方針を決めてから動くほうが確実です。
サラリーマンとして限られた時間で進める以上、判断に迷う部分は専門家に任せるのが結局は早道です。設立の相談をする段階で、資産と契約の引き継ぎまで含めて相談してください。
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