本文へ移動する

サラリーマン 会社設立 社会保険

役員報酬をいくらにすると社会保険料はどう動くか。サラリーマンの会社設立で迷う設計

この記事で扱うこと

会社設立をしたサラリーマンが、役員報酬をいくらに設定するかを考えるための記事です。前の記事で二以上事業所勤務の届出を扱いましたので、今回はその先にある金額の設計に進みます。

先に構造を書いておくと、役員報酬を増やせば法人税は下がりますが、所得税と社会保険料は増えます。三つが同時に動くため、一つだけを見て判断すると結論を誤ります。会社員の場合は本業の報酬と合算されるので、さらに条件が加わります。

この記事では具体的な金額の試算も示しますが、すべて前提を明示したうえでの概算です。条件が変われば結果も変わります。実際の設計は税理士や社会保険労務士にご相談ください。

三つが同時に動くという構造

三つが同時に動くという構造を表したイラスト

役員報酬の額を変えると、三つの数字が同時に動きます。まずこの構造を押さえてください。

報酬を増やすと、法人の損金が増えるため法人税は下がります。一方、その報酬は本業の給与と合算されて課税されるため所得税と住民税は上がります。そして、報酬に応じて社会保険料も増えます。

逆に報酬を減らせば、法人に利益が残って法人税が増え、所得税と社会保険料は下がります。どちらに動かしても、片方が減れば片方が増えるという関係です。

役員報酬を増やした場合と減らした場合の違いを比べた図
四つの行がすべて連動します。一行だけを見て決めないでください。

会社設立による節税を考えるとき、この構造を理解しておかないと判断ができません。「役員報酬を増やせば法人税が減るから節税になる」という説明は、残りの二つを無視しています。

サラリーマンの場合、さらに条件が加わります。本業の給与がすでにあるため、所得税の税率も社会保険料の等級も、その土台の上で決まるからです。次の節で見ていきます。

会社設立をしたサラリーマンが節税の効果を得られるかどうかは、この三つの合計で決まります。個別の項目を最適化しても、合計が悪化しては意味がありません。

出典No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分) (国税庁/2026年8月21日確認)

会社員特有の条件その一:所得税は合算される

会社員特有の条件その一:所得税は合算されるを表したイラスト

会社員が役員報酬を受け取ると、それは給与所得として本業の給与と合算されます。

したがって、役員報酬に適用される税率は、本業の給与によってすでに決まっている税率帯の続きになります。本業で高い税率帯にいる方は、役員報酬の最初の1円から高い税率がかかることになります。

加えて、給与所得控除の問題があります。国税庁のページで確認すると、給与等の収入金額が850万円を超える場合の給与所得控除額は195万円が上限です。本業の給与収入がこの水準を超えている方は、すでに上限に達しているため、役員報酬を受け取っても控除は増えません。

本業の給与水準と、給与所得控除の増加余地(2026年8月21日に国税庁のページで確認)
本業の給与収入 給与所得控除の状況 役員報酬を受け取ると
500万円前後 上限に達していません 控除が増える余地があります
800万円前後 上限に近づいています 増える余地はわずかです
850万円超 上限の195万円に達しています 控除は増えません

※ 給与所得控除の計算は収入金額の区分によって異なります。詳細は国税庁のページでご確認ください。

個人事業主が法人化する場合、「事業所得が給与所得になり、給与所得控除が使えるようになる」という点が節税の理由に挙げられます。しかしサラリーマンの場合、この効果は小さいか、まったくないことがあります。

会社設立の節税額を見積もるときに、この項目を二重に数えないよう注意してください。本業の源泉徴収票で、給与収入がいくらかを確認するところから始めてください。

なお、給与所得控除の上限に達していない方であっても、増えるのは上限までの差額分にとどまります。会社設立によって控除枠が新たに生まれるわけではない、という点は共通しています。

会社設立による節税を検討するときは、まずこの一点を確認してください。給与所得控除が増えないのであれば、役員報酬を取る理由は控除ではなく、別のところに求めることになります。

出典No.1410 給与所得控除 (国税庁/2026年8月21日確認)

会社員特有の条件その二:保険料も合算で決まる

会社員特有の条件その二:保険料も合算で決まるを表したイラスト

社会保険についても、合算という仕組みが働きます。

日本年金機構の案内によれば、二以上事業所勤務の場合、それぞれの事業所で受ける報酬月額を合算した月額により標準報酬月額を決定し、その保険料額をそれぞれの報酬月額に基づき按分します。

つまり、役員報酬を受け取ることで、合算後の標準報酬月額の等級が上がる可能性があるということです。等級が上がれば保険料の総額が増え、その増えた分が両方の事業所で按分されます。

ここで注意したいのは、社会保険料が労使折半であることです。あなたが一人で会社設立をした場合、法人が負担する分も実質的にはご自身の負担です。個人負担分と法人負担分の合計で考える必要があります。

標準報酬月額には上限があります報酬が一定の水準を超えると、それ以上は等級が上がりません。本業の給与だけですでに上限付近にいる方の場合、役員報酬を加えても保険料がほとんど変わらないことがあります。逆に、本業の給与が上限に達していない方は、役員報酬を加えることで等級が上がり、保険料が増えることになります。ご自身がどちらに当たるかで、結論が変わります。

この点は、会社設立による節税を考えるサラリーマンにとって重要な分かれ目です。本業の給与水準によって、役員報酬を取ることの負担がまったく違ってくるためです。

具体的な等級と保険料率は、加入している健康保険や年度によって変わります。日本年金機構や健康保険組合が公表している保険料額表で、ご自身の該当する等級を確認してください。

会社設立の前にこの確認をしておくと、報酬額を決めるときの判断が早くなります。等級表は公表されていますので、ご自身で見当をつけることもできます。

会社設立の節税効果を試算するとき、社会保険料の増加を見落とすと結論が逆になることがあります。とくに本業の給与が標準報酬月額の上限に達していない方は、影響が大きくなります。

出典複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き (日本年金機構/2026年8月21日確認)

前提を置いて試算してみる

前提を置いて試算してみるを表したイラスト

具体的なイメージを持つために、前提を置いて考えてみます。前提をすべて明示しますので、そのままご自身に当てはめないでください。

本業の給与収入
700万円(会社員として勤務、協会けんぽに加入)
法人の利益
年200万円(役員報酬を差し引く前)
家族の状況
扶養親族なし
法人の形態
合同会社。役員は本人のみ
自治体
法人住民税の均等割は標準税率(年7万円)とする
検討する報酬額
年0円 / 年60万円 / 年120万円 の三通り

この前提で、報酬額を三通りに変えて考えます。

役員報酬の額と、動く項目(前提つきの概念整理)
役員報酬 法人に残る利益 個人側で増えるもの 社会保険
年0円 200万円 なし 法人では被保険者になりません
年60万円 140万円 給与所得60万円分の課税 被保険者となり届出が必要です
年120万円 80万円 給与所得120万円分の課税 被保険者となり届出が必要です

※ 具体的な税額・保険料額は示していません。等級や税率は個別の状況で変わるためです。金額の試算は税理士にご依頼ください。条件が変われば結果も変わります。

報酬をゼロにすれば社会保険の手続きは生じませんが、法人に利益が残ったままで、個人は受け取れません。報酬を取れば受け取れますが、所得税と社会保険料がかかります。

どこかに最適な点があるとしても、それは前提の組み合わせで動きます。この記事で「年◯万円が最適」と書けないのは、そのためです。ご自身の数字で試算する以外に方法がありません。

会社設立を検討している段階であれば、税理士に複数のパターンで試算を依頼するのが確実です。設立前に依頼しておけば、報酬額を決める期限に追われずに済みます。

サラリーマンの場合、本業の給与は年間を通じてほぼ確定しています。試算の前提が立てやすいという点では、独立して事業を始める方より条件は整っています。

会社設立をして節税を図る場合、報酬額の候補を三つ程度立てて比べるのが実務的です。ゼロ、少額、それなりの額。この三つで税と保険料の合計を出せば、方向性は見えてきます。

出典No.2260 所得税の税率 (国税庁/2026年8月21日確認)

報酬額は一年間動かせない

報酬額は一年間動かせないを表したイラスト

役員報酬の設計で、もう一つ押さえておくべき制約があります。一度決めたら、その事業年度は動かせないという点です。

国税庁が示すところによれば、損金に算入できる役員給与は、定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与のいずれかに該当するものです。定期同額給与とは、支給時期が1か月以下の一定の期間ごとで、各支給時期における支給額が同額であるものを指します。

したがって、事業年度の途中で「利益が出たから報酬を増やす」といった調整は原則としてできません。増額した部分が損金にならない可能性があります。

報酬額を決めるのは、通常は事業年度の開始から一定期間内です。会社設立の初年度であれば、設立から間もない時期に決めることになります。まだ売上の見通しが立たない段階で決めるという難しさがあります。

会社設立から役員報酬を決めるまでの流れを時系列で示した図
初年度は見通しが立てにくいため、保守的に置く判断もあります。

サラリーマンが副業の受け皿として会社設立をする場合、副業の売上は本業の忙しさに左右されることがあります。見込みが外れる可能性を考えると、初年度は低めに置いて、実績を見てから翌年度に調整するという進め方も現実的です。

なお、報酬をゼロから始めて、翌事業年度から支給を開始することも可能です。会社設立の初年度は事業の立ち上げに集中し、二年目以降に節税の設計を本格化させるという順番も考えられます。

出典No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分) (国税庁/2026年8月21日確認)

報酬を取らない場合との比較

報酬を取らない場合との比較を表したイラスト

役員報酬をゼロにするという選択肢についても、比較のために触れておきます。

報酬を支払わなければ、法人で被保険者になりません。二以上事業所勤務の届出も不要です。所得税も増えません。手続きの面では、もっとも軽くなります。

ただし、法人に残った利益は法人のものです。生活費に使えば役員貸付金として処理されることになります。個人が受け取るには、将来的に役員報酬・配当・退職金のいずれかの形を取ることになり、いずれも課税を伴います。

会社設立の目的が「手元の現金を増やすこと」なら、報酬ゼロでは達成できません。逆に「法人で資金を蓄積して事業を育てること」が目的なら、報酬ゼロは合理的です。

サラリーマンの場合、本業の給与で生活が成り立っていることが多いため、報酬ゼロという選択が取りやすい面があります。本業の収入があるからこそ、法人の資金に手をつけずに済むという事情です。

ただし、報酬をゼロにしても、決算と申告、法人住民税の均等割という固定費は変わりません。総務省の資料で標準税率を確認すると、資本金等の額が1千万円以下で従業者数が50人以下の場合、都道府県民税2万円と市町村民税5万円で年7万円です。節税額が出ていない状態で固定費だけがかかる形にならないよう、事業の見通しを立てておいてください。

会社設立をした以上、報酬の有無にかかわらず毎年の決算と申告は続きます。この手間を続けられるかどうかも、判断の材料に入れてください。

会社設立の目的が節税である場合、報酬ゼロという選択は目的に合わないことがあります。法人税を払ったうえで法人に資金が残るだけであれば、個人の手取りは増えないためです。

出典No.5759 法人税の税率 (国税庁/2026年8月21日確認)

決めるときに見る順番

決めるときに見る順番を表したイラスト

役員報酬を決めるときに確認する順番を整理します。

役員報酬を決めるまでに確認する項目のチェックリスト
四つめを飛ばすと結論が変わります。税だけで判断しないでください。

この五つを揃えれば、報酬額をいくらにしたときに世帯としての手取りがどうなるかを比べられます。ただし、計算は簡単ではありません。税率が段階的に変わり、社会保険料も等級で変わるためです。

会社設立をするサラリーマンにとって、ここは自力で最適解を出すのが難しい部分です。税理士に依頼する場合、社会保険料を含めた試算を依頼することを明確に伝えてください。税額の計算だけでは、判断材料として不十分です。

社会保険の部分については、社会保険労務士に相談するという選択肢もあります。税と保険の両方を見てもらえる体制があると、設計がしやすくなります。

会社設立の節税効果を最大にしたいのであれば、この試算にかける手間を惜しまないでください。一年間動かせない数字を決めるのですから、時間をかける価値があります。

会社設立の準備と並行して試算を進めておけば、設立後すぐに報酬を決められます。節税の効果は初年度から効きますので、早めに固めておく意味があります。

出典2-4:被保険者が複数の適用事業所に使用されることになったとき (日本年金機構/2026年8月21日確認)

まとめ

まとめを表したイラスト

役員報酬の設計について、この記事で整理したことをまとめます。

  1. 報酬を動かすと、法人税・所得税・社会保険料の三つが同時に動きます
  2. 会社員は本業の給与と合算されるため、所得税の税率は土台の上で決まります
  3. 給与所得控除は本業で上限(195万円)に達していると、役員報酬を受け取っても増えません
  4. 社会保険も合算して標準報酬月額を決め、報酬の割合で按分されます
  5. 社会保険料は労使折半ですが、一人法人では両方が実質的な自己負担です
  6. 役員報酬は定期同額給与などの要件があり、事業年度の途中で動かせません

会社設立による節税を確実にするには、税と社会保険料を合計して比べる必要があります。税金だけを見て有利に見えても、保険料を足すと逆転していることがあります。

そして、一度決めたら一年は動かせません。会社設立の準備段階で試算を済ませておくと、期限に追われずに決められます。サラリーマンとして本業を持ちながらの判断ですから、時間の余裕を持って進めてください。

この記事の内容について制度の内容は2026年8月21日に国税庁・日本年金機構・総務省のページで確認したものです。制度と保険料率は改正されます。具体的な金額の試算は個別の状況によって変わりますので、必ず税理士または社会保険労務士にご相談ください。当サイトは一般的な制度の解説であり、個別の税務相談ではありません。

出典地方税制度|法人住民税 (総務省/2026年8月21日確認)

一年は動かせないという前提で決めてください

役員報酬は、事業年度の開始から一定期間内に決めたら、その年度は原則として動かせません。定期同額給与などの要件を満たさなければ損金にならないためです。決めるときに時間をかける価値があるのは、この制約があるからです。

会社設立の準備段階で、本業の給与、法人の利益見込み、社会保険料の三つを並べて試算してください。設立してから考えると、決議の期限に追われることになります。

そして、一度決めた額が最適でなかったと分かっても、翌事業年度まで待つことになります。初年度は保守的に置いて、実績を見てから調整するという進め方も現実的です。判断に迷う部分は、数字を持って税理士にご相談ください。

この記事は判断の材料になりましたか?

他にもこのようなサイトで検索されていますので、ぜひ見てください

掲載順は優劣を示すものではありません。並び順にご注意ください。内容・料金・条件は各サイトの提供者が随時変更します。ご覧になる時点の最新情報は、必ずそれぞれの公式ページでご確認ください。

あわせて読みたい記事

同じテーマで、判断の材料になる記事です