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サラリーマン 会社設立 社会保険

二以上事業所勤務届とは何か。サラリーマンが会社設立をしたときの社会保険の手続き

この記事が扱う手続き

本業で厚生年金と健康保険に加入しているサラリーマンが、会社設立をして自分の法人からも役員報酬を受け取る場合に必要になる手続きの記事です。「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」という届出を扱います。

この届出は、会社設立をした会社員がほぼ必ず通る手続きでありながら、設立の解説記事ではあまり詳しく触れられていない部分です。期限があり、提出するのは会社ではなく本人です。知らないまま設立すると、期限を過ぎてしまうことがあります。

内容は2026年8月21日に日本年金機構のページで確認したものです。制度と様式は変わりますので、実際に手続きをされるときは最新の案内をご確認ください。個別の判断は年金事務所または社会保険労務士にご相談ください。

なぜこの届出が必要になるのか

なぜこの届出が必要になるのかを表したイラスト

まず、なぜこの手続きが必要になるのかを押さえます。

法人は、役員が一人だけであっても社会保険の適用事業所になります。日本年金機構の案内でも、法人の事業所は原則として強制適用事業所とされています。従業員がいなくても、代表者一人であっても同じです。

そして、その法人から役員報酬を受け取れば、あなたはその法人で被保険者になります。本業ですでに厚生年金と健康保険に加入している会社員がこの状態になると、二つの事業所で同時に被保険者となります。

同じ人が二か所で被保険者になっていると、保険料をどちらでどう計算するのかという問題が生じます。これを整理するための手続きが、二以上事業所勤務届です。

  • 法人は役員一人でも社会保険の適用事業所になります
  • 役員報酬を受け取れば、その法人で被保険者になります
  • 本業と合わせて二つの事業所で被保険者となります
  • 保険料の計算方法を決めるために届出が必要になります
役員報酬がゼロなら生じません報酬を支払っていなければ、その役員は被保険者になりません。したがって、会社設立をしても役員報酬をゼロにする場合、この届出は不要です。ただしその場合、法人に残った利益を個人が受け取る手段が限られますので、節税の設計と合わせて判断してください。

会社設立を考えているサラリーマンにとって、この手続きは避けて通れない論点です。次から具体的な内容を見ていきます。

サラリーマンが会社設立で節税を図る場合、この社会保険の扱いが結論を左右します。税率の差だけを見て有利だと判断しても、保険料が増えれば手取りは減ります。会社員が法人を持つときに、個人事業主の法人化と最も条件が違うのがこの部分です。

出典適用事業所と被保険者 (日本年金機構/2026年8月21日確認)

届出の名称・期限・提出する人

届出の名称・期限・提出する人を表したイラスト

届出の要点を整理します。日本年金機構の案内に基づく内容です。

二以上事業所勤務届の要点(2026年8月21日に日本年金機構のページで確認)
項目 内容
名称 健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届
期限 事実発生から10日以内
提出する人 被保険者(本人)
提出先 日本年金機構
前提となる届出 適用事業所の被保険者となるための資格取得届の提出が前提です
健康保険組合の場合 加入先の健康保険組合にも手続きが必要になります

※ 様式と提出方法は変わることがあります。実際の手続きの際は日本年金機構の案内でご確認ください。

押さえておきたい点が二つあります。

一つめは、期限が10日以内と短いことです。会社設立の直後は、税務署や自治体への届出も重なります。そのなかでこの手続きを忘れると、期限を過ぎてしまいます。

二つめは、提出するのが本人であることです。多くの社会保険の手続きは事業主が行いますが、この届出は被保険者本人が提出することとされています。会社設立をしたご自身が動く必要があります。

本業の勤務先が代わりに出してくれるものではありません本業の会社が手続きをしてくれると考えていると、期限を過ぎることになります。この届出は、二つの事業所のどちらかが出すものではなく、本人が日本年金機構に提出するものです。会社設立の準備段階で、この点を認識しておいてください。

また、この届出の前提として、設立した法人での資格取得届が提出されている必要があります。法人側の新規適用の手続きと合わせて進めることになります。

サラリーマンにとって、この手続きは会社設立の実務のなかでも見落とされやすいものです。税務署への届出は税理士が代行してくれることが多いのに対し、社会保険の届出は範囲外になっていることがあります。依頼する場合は、どこまでを任せるのかを契約時に確認してください。

出典複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き (日本年金機構/2026年8月21日確認)

選択事業所を決めるということ

選択事業所を決めるということを表したイラスト

この届出の名称に「被保険者所属選択」とあるとおり、二つの事業所のうちどちらを選択事業所とするかを決めます。

選択事業所を決めると、その事業所の所在地を管轄する事務センターが、あなたに関する事務を行うことになります。標準報酬月額の決定や保険料額の通知は、この事務センターから両方の事業所へ送られます。

会社員が会社設立をした場合、本業の勤務先を選択事業所とするのが一般的な形になります。本業のほうが報酬が大きいことが多く、健康保険組合に加入している場合はその関係もあるためです。

健康保険組合に加入している事業所を選択した場合は、その健康保険組合にも手続きが必要になります。組合ごとに様式や必要書類が異なることがありますので、本業の健康保険が協会けんぽなのか組合健保なのかを確認しておいてください。

二以上事業所勤務届の提出から保険料が決まるまでの流れを示した図
通知は両方の事業所に届きます。これが制度の仕組みです。

この通知が両方の事業所に届くという点は、会社設立を検討する会社員にとって重要な意味を持ちます。手続きの過程で、本業の勤務先にも情報が届くことになるためです。

出典2-4:被保険者が複数の適用事業所に使用されることになったとき (日本年金機構/2026年8月21日確認)

保険料はどう計算されるのか

保険料はどう計算されるのかを表したイラスト

保険料の計算方法を確認します。日本年金機構の案内では、次のように示されています。

まず、それぞれの事業所で受ける報酬月額を合算した月額により、標準報酬月額を決定します。次に、決定した標準報酬月額による保険料額を、それぞれの事業所で受ける報酬月額に基づき按分して決定します。

つまり、二段階です。合算して等級を決め、それから報酬の割合で分ける。この順番を理解しておくと、なぜ本業の保険料にも影響が及ぶのかが分かります。

二つの事業所の報酬を合算して標準報酬月額を決める仕組みを示した図
合算した額で等級が決まるため、本業だけのときより等級が上がることがあります。

ここが重要な点です。合算した額で等級が決まるということは、法人から役員報酬を受け取ることで、標準報酬月額の等級が上がる可能性があるということです。等級が上がれば、保険料の総額も増えます。

その増えた保険料を、二つの事業所で報酬の割合に応じて按分します。本業の側も、按分された分を負担することになります。会社設立が本業の給与計算に影響するのは、この仕組みによるものです。

なお、標準報酬月額には上限がありますので、報酬が一定の水準を超えると、それ以上は等級が上がりません。本業の給与がすでに高い方の場合、役員報酬を加えても保険料が変わらないことがあります。ここは個別の計算になりますので、試算をご依頼ください。

サラリーマンが会社設立をして節税を狙う場合、役員報酬の額をどこに置くかでこの等級が変わります。節税額を最大にする報酬額と、社会保険料を抑える報酬額は、必ずしも一致しません。

出典複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き (日本年金機構/2026年8月21日確認)

会社設立の節税を考えるとき、ここが効いてきます

会社設立の節税を考えるとき、ここが効いてきますを表したイラスト

この社会保険の仕組みは、会社設立による節税の計算に直接影響します。

役員報酬を法人の損金にすれば法人税は下がります。しかし、その報酬には所得税がかかり、さらに社会保険料が発生します。税金だけを比べて有利に見えても、保険料を足すと逆転していることがあります。

しかも、社会保険料は労使折半です。個人が負担する分と、法人が負担する分の両方が出ていきます。あなたが一人で会社設立をした場合、どちらも実質的にはご自身の負担になります。

  • 役員報酬は法人の損金になり、法人税が減ります
  • 同じ報酬に所得税と住民税がかかります
  • 社会保険料が発生し、労使折半で法人と個人の両方が負担します
  • 合算により標準報酬月額の等級が上がると、本業の保険料も増える場合があります

会社設立の節税を試算するときは、この四つをすべて含めてください。税理士に依頼する場合も、社会保険料を含めた試算を依頼することを明確に伝えたほうが確実です。

報酬を増やすほど得になるとは限りません役員報酬を増やせば法人の損金は増えますが、所得税と社会保険料も増えます。どこかに最適な水準があるとしても、それは本業の給与額と法人の利益によって変わります。サラリーマンの場合は本業の報酬が土台にあるぶん、計算が複雑になります。自力で最適解を出すのは難しい部分ですので、専門家の試算をご検討ください。

出典No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分) (国税庁/2026年8月21日確認)

届出をしなかった場合

届出をしなかった場合を表したイラスト

この届出をしないまま役員報酬を受け取り続けた場合、どうなるのか。

届出をしなければ、二つの事業所の報酬が合算されず、それぞれ別々に保険料が計算された状態が続きます。これは本来あるべき計算とは異なります。

年金事務所が把握した時点で、遡って調整が行われることがあります。その場合、不足していた保険料をまとめて納めることになります。数年分となれば、金額としては小さくありません。

また、役員報酬が極端に低い場合や、法人の売上と報酬額の関係が説明しにくい場合には、標準報酬月額について照会を受けることがあるとされています。実態に即した報酬を設定しておくことが重要です。

会社設立をしたら、税務署への届出だけでなく、年金事務所への手続きも忘れずに進めてください。期限が10日以内と短いのは、この届出です。

なお、手続きに不安がある場合は、社会保険労務士に依頼することもできます。会社設立の際に税理士へ依頼するのと同様、社会保険の手続きを専門家に任せるという選択肢があります。

会社設立をしたサラリーマンが節税の効果を確実にするには、手続きを漏らさないことが前提になります。遡って保険料を納めることになれば、その年の節税額が消えてしまうこともあります。

出典新規適用の手続き (日本年金機構/2026年8月21日確認)

会社設立の前に確認しておくこと

会社設立の前に確認しておくことを表したイラスト

会社設立の準備段階で確認しておくとよいことを挙げます。

会社設立の前に確認すべき社会保険関係の項目のチェックリスト
一つめの保険の種類で、手続きの量が変わります。

本業が健康保険組合に加入している場合、組合にも手続きが必要になります。組合によって様式や求められる書類が異なりますので、事前に確認しておくと慌てずに済みます。

また、就業規則の確認は社会保険の手続きより前に済ませておいてください。届出の過程で本業の勤務先にも通知が届きますので、会社設立が認められる立場であることを先に確かめておく必要があります。

報酬額の見込みについては、会社設立の前に試算しておくことをおすすめします。役員報酬は事業年度の開始から一定期間内に決めるもので、途中で自由に変えられません。決めてから「保険料がこんなに増えるとは思わなかった」となっても、その年度は動かせないためです。

サラリーマンとして本業を続けながら会社設立をするなら、手続きに割ける時間には限りがあります。社会保険労務士に依頼する費用も、節税額から差し引く固定費として見込んでおくと、判断がぶれません。

出典適用事業所と被保険者 (日本年金機構/2026年8月21日確認)

まとめ

まとめを表したイラスト

二以上事業所勤務届について、この記事で整理したことをまとめます。

  1. 法人は役員一人でも社会保険の適用事業所になります
  2. 役員報酬を受け取れば、本業と合わせて二つの事業所で被保険者になります
  3. 「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を、事実発生から10日以内に被保険者本人が提出します
  4. 選択事業所を決め、その管轄の事務センターが事務を行います
  5. 保険料は、両方の報酬を合算した標準報酬月額により決定し、それぞれの報酬に基づいて按分されます
  6. 合算により等級が上がると、本業側の保険料にも影響します

会社設立による節税を考えるサラリーマンにとって、この届出は入口の手続きにすぎません。ここを済ませたうえで、役員報酬をいくらにするかという設計に進むことになります。

会社設立による節税を考えるとき、この社会保険の負担を計算に入れないと、結論が変わってしまいます。税金だけを比べないでください。

そして、この手続きは会社設立をしたサラリーマンがほぼ必ず通る道です。期限が短く、提出するのは本人です。設立の準備段階で、役員報酬をどうするかとあわせて決めておいてください。

この記事の内容について手続きの内容は2026年8月21日に日本年金機構のページで確認したものです。制度と様式は変わります。実際の手続きにあたっては、日本年金機構の案内でご確認いただくか、年金事務所・社会保険労務士にご相談ください。税務に関する個別の判断は税理士にご相談ください。当サイトは一般的な制度の解説です。

出典2-4:被保険者が複数の適用事業所に使用されることになったとき (日本年金機構/2026年8月21日確認)

手続きそのものは難しくありません

二以上事業所勤務届は、書類としてはそれほど複雑なものではありません。難しいのは、この手続きが必要になることを知らないまま会社設立をしてしまうことです。期限は事実発生から10日以内と短く、あとから気づいても遡れません。

会社設立の準備を進める段階で、役員報酬を取るのか取らないのかを決めておいてください。取るのであれば、この届出が必要になります。取らないのであれば不要ですが、その場合は節税の設計が変わります。

保険料がいくらになるかは、本業の報酬と法人の報酬の合計で決まります。会社設立の前に試算しておくと、想定外の負担を避けられます。試算は税理士や社会保険労務士に依頼できますので、設立前の段階でご相談ください。

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