家族を役員にすると節税になるのか。サラリーマンの会社設立で見落とされる負担
この記事の対象と立場
会社設立にあたって、配偶者や親を役員にする形を検討しているサラリーマンの方に向けた記事です。所得を分散すれば節税になるという説明を見て、実際どうなのかを確かめたい段階を想定しています。
この記事は、その形をすすめるものでも、否定するものでもありません。税額だけを見れば減る一方で、世帯全体の手取りでは減ることがあるという構造を示します。判断に必要な材料を並べるのが目的です。
家族への役員報酬が適正かどうかは、事実関係によって判断が分かれます。当サイトは一般的な解説にとどめますので、実際の設計は必ず税理士にご相談ください。
所得分散という考え方の中身

家族を役員にして節税になるという説明は、所得税の累進の仕組みを前提にしています。
所得税は、所得が増えるほど税率が上がります。したがって、同じ総額でも一人が全部受け取るより、複数人で分けたほうが、それぞれに低い税率が適用されます。これが所得分散の考え方です。
さらに、給与所得控除がそれぞれに適用されるという点もあります。役員報酬は給与所得ですから、受け取る人ごとに給与所得控除が計算されます。人数が増えれば、控除の総額も増えることになります。
サラリーマンが会社設立をする場合、本業の給与に副業の所得が上乗せされて高い税率がかかっています。その一部を家族に移せば、低い税率で課税されることになる。理屈としてはそのとおりです。

問題は、この理屈が実際にそのまま働くかどうかです。会社員の場合、いくつかの事情が絡んできます。次の節から順に見ていきます。
サラリーマンが会社設立を考えるとき、この所得分散は魅力的に見えます。本業の給与で高い税率帯に入っている分を、税率の低い家族に移せるように思えるからです。ただし会社員の場合、本業の扶養や配偶者の勤務状況が絡むため、独立した個人事業主が法人化する場合より条件が複雑になります。
出典No.2260 所得税の税率 (国税庁/2026年8月21日確認)
落とし穴その一:社会保険料の負担

最初の落とし穴が社会保険です。
法人は社会保険の適用事業所になります。家族を役員にして役員報酬を支払えば、その家族も被保険者になる場合があります。そうすると、保険料が発生します。
しかも、社会保険料は労使で折半します。会社が半分を負担するということは、法人の側にも支出が生じるということです。個人が負担する分と合わせれば、世帯として出ていく金額はその合計になります。
所得分散によって減る所得税と住民税の額が、増える社会保険料を上回るかどうか。ここが第一の分かれ目になります。報酬の額によっては、社会保険料の増加のほうが大きくなります。
なお、報酬額が一定の基準に満たない場合は被保険者にならないこともあります。ただし、その水準に抑えると分散できる金額も小さくなり、節税額も限られます。どこかで折り合いをつける必要があります。
会社設立をすると法人が社会保険の適用事業所になる、という点は避けて通れません。サラリーマン本人については本業との二以上事業所勤務の届出が必要になり、家族については新たに被保険者となるかどうかの判定が入ります。節税の試算をするときは、この二つを分けて計算してください。
出典適用事業所と被保険者 (日本年金機構/2026年8月21日確認)
落とし穴その二:扶養から外れる

二つめが扶養の問題です。配偶者が現在あなたの扶養に入っている場合、役員報酬を支払うことで扶養から外れる可能性があります。
扶養には、税法上の扶養と社会保険上の扶養の二つがあり、それぞれ基準が異なります。役員報酬の額によっては、片方だけ外れる、あるいは両方外れるということが起こります。
- 税法上の扶養から外れると、配偶者控除や配偶者特別控除が受けられなくなります
- 社会保険上の扶養から外れると、配偶者自身が保険料を負担することになります
- 配偶者が勤務先から家族手当を受けている場合、支給されなくなることがあります
- 住民税にも影響が及びます
三つめの家族手当は、税制とは関係のない企業独自の制度ですが、金額としては小さくないことがあります。配偶者の勤務先の規程を確認してください。
会社設立による節税を目的に家族へ報酬を払った結果、これらの控除や手当を失って世帯の手取りが減る。この形は実際に起こり得ます。
サラリーマンの場合、本業で年末調整を受けており、扶養の状況が給与計算に反映されています。会社設立をして家族に報酬を払うと、その前提が変わることになります。年末調整の申告内容も見直しが必要です。
配偶者が働いている場合はどうなるか
配偶者がすでに勤務先で社会保険に加入している場合、扶養の問題は生じません。この場合に役員報酬を支払うと、二以上事業所勤務の扱いになり、配偶者についても届出が必要になります。保険料は合算した報酬をもとに按分されます。
つまり、配偶者の状況によって論点が変わります。扶養に入っているなら扶養から外れるかどうか、働いているなら二以上事業所勤務の手続きが増えるかどうか。どちらの場合も、何らかの手続きと負担が生じます。会社設立の前に、配偶者の勤務状況を踏まえて整理しておいてください。
出典No.1400 給与所得 (国税庁/2026年8月21日確認)
落とし穴その三:実態がなければ否認される

三つめが、税務上の否認リスクです。ここは正面から書きます。
役員報酬が損金として認められるためには、その支出が法人の事業にとって必要なものである必要があります。職務の実態がない家族に報酬を支払っていれば、その説明ができません。
国税庁は役員給与の損金算入について要件を示しています。定期同額給与などの形式的な要件を満たしていても、不相当に高額な部分は損金になりません。職務の内容、法人の収益の状況、同業他社の状況などが考慮されます。
会社員が副業の受け皿として会社設立をした規模の法人で、複数の役員が必要なのかという点も問われます。事業の内容から見て、その家族が担う業務が説明できるかどうかです。

否認されると、本来納めるべきだった税額に加えて加算税や延滞税がかかります。会社設立から数年分をまとめて指摘されれば、それまでの節税額を上回ることもあります。
会社設立から日が浅いうちは、法人の売上規模も限られます。その状態で家族に相応の役員報酬を払っていると、事業の規模と報酬の水準が釣り合っているかという点が問われやすくなります。節税を急ぐあまり、実態と離れた設計をしないよう注意してください。
出典No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分) (国税庁/2026年8月21日確認)
それでも成立する場合とは

ここまで負担とリスクを並べましたが、この形が成立しないと言っているわけではありません。条件が揃えば、節税として機能します。
成立しやすいのは、家族が実際に業務を担っている場合です。経理を担当する、資料を作成する、問い合わせに対応する。副業の事業であっても、分担できる業務はあります。実際に働いてもらい、その対価として報酬を払う。これであれば、実態は説明できます。
次に、報酬の額が業務内容に見合っていることです。月に数時間の作業に対して高額な報酬を払えば、過大な部分が問題になります。同種の業務を外部に依頼した場合の相場が、一つの目安になります。
そして、社会保険と扶養への影響を計算したうえで、なお世帯の手取りが増えることです。ここは事前に試算しておく必要があります。
| 確認する項目 | 確認の内容 |
|---|---|
| 業務の実態 | その家族が実際に何をするか、説明できるか |
| 報酬の水準 | 業務内容と法人の規模に見合っているか |
| 社会保険 | 被保険者になるか、保険料はいくらか |
| 扶養 | 税法上・社会保険上の扶養から外れるか |
| 家族手当 | 配偶者の勤務先から支給されているか |
| 世帯の手取り | 上記をすべて反映して増えるか |
※ すべてを確認したうえで判断してください。個別の試算は税理士にご依頼ください。
サラリーマンが会社設立をする場面では、これらを自分で計算するのは負担が大きい部分です。試算を依頼したうえで判断されることをおすすめします。
役員にするか、従業員にするか
家族に業務を担ってもらう場合、役員にするという方法のほかに、従業員として雇用するという方法もあります。従業員であれば、役員報酬のような定期同額給与の制約は受けません。業務の繁閑に応じて支払う額を調整することもできます。
一方で、従業員にすると労働保険の対象になるなど、別の手続きが発生します。また、同族会社の役員と生計を一にする親族については、使用人として支払う給与にも一定の制限がかかる場合があります。どちらの形が適しているかは、業務の内容と頻度によって変わりますので、税理士に相談して決めてください。
出典No.5202 役員等に対する経済的利益 (国税庁/2026年8月21日確認)
配偶者を代表者にするという発想について

会社設立に関する情報のなかに、「勤務先の就業規則が厳しいなら、配偶者を代表者にすればよい」という説明を見かけることがあります。この点についても書いておきます。
登記上の代表者を家族にすることは、手続きとしては可能です。しかし、実質的に事業を運営しているのが自分であれば、名義を変えても実態は変わりません。
税務上は、実質的に誰が事業を行っているかという観点で判断されます。名義だけを家族にして、実際の意思決定と業務を自分が行っていれば、その実態に即して扱われることになります。
また、就業規則との関係でも、名義を変えたことで問題がなくなるとは限りません。競業避止や職務専念の規定は、名義ではなく実際の行動に対して適用されます。
なお、家族が実際に事業を主導し、自分は出資者にとどまるという形であれば、それは別の話になります。実態がそうなっているかどうかが基準です。
会社設立の名義をどうするかという話は、節税の設計とは別の問題です。会社員としての立場に不安があるなら、まず就業規則を確認してください。順番を守れば避けられる問題を、名義の工夫で回避しようとすると、かえって説明が難しくなります。
出典商業・法人登記申請手続 (法務局/2026年8月21日確認)
会社設立をせずに検討できること

所得を分散したいという動機で会社設立を考えている場合、その前に確認しておくとよいことがあります。
個人事業主として青色申告の承認を受けている場合、生計を一にする親族に支払う給与について、届出を行うことで必要経費に算入できる制度があります。会社設立をしなくても、一定の範囲で分散が可能ということです。
ただし、この制度にも要件があります。事前の届出が必要であり、支払う金額の上限が届出の範囲に制限されます。また、支払いを受けた親族は配偶者控除などの対象から外れます。
サラリーマンの副業が事業所得として扱われる規模であれば、この制度の検討余地があります。雑所得にとどまる規模であれば適用できません。ご自身の所得区分がどちらかを確認してください。
会社設立による分散と比べると、手続きも固定費も軽く済みます。まずこちらで足りないかを確認してから、法人化を考えるという順番であれば、無駄が少なくなります。
いずれの形を取るにしても、実際に業務を担ってもらうことが前提になる点は共通しています。
会社設立をせずに済むのであれば、そのほうが固定費も手間も軽くなります。節税の手段は法人化だけではありませんので、サラリーマンとしてできる範囲を先に確認してください。
なお、青色事業専従者給与の制度を使う場合、その親族は原則としてその事業に専ら従事している必要があります。他に本業を持っている家族には適用できません。この点は、法人で役員報酬を払う場合との大きな違いです。
配偶者が別の勤務先で働いているのであれば、この制度は使えず、法人を通じて報酬を支払う形になります。ご家庭の状況によって、取り得る選択肢そのものが変わるということです。
出典No.1350 事業所得の課税のしくみ(事業所得) (国税庁/2026年8月21日確認)
まとめ

家族を役員にする形について、この記事で整理したことをまとめます。
- 所得分散の理屈自体は成り立ちます。累進の仕組みと給与所得控除が根拠です
- ただし社会保険料が発生し、労使折半のため法人側にも負担が生じます
- 扶養から外れると、配偶者控除・保険料・家族手当に影響します
- 職務の実態がなければ、役員報酬は損金として認められない可能性があります
- 名義だけを家族にする形は、実態が変わらない以上おすすめできません
- 個人事業のまま親族への給与を経費にする制度もあります
会社設立による節税を家族の分散に求める場合、成立する条件はそれほど広くありません。会社員の世帯では扶養と社会保険が絡むためです。
会社設立による節税を検討するとき、家族への分散は選択肢の一つです。ただし、税額だけを見て判断すると誤ります。社会保険料と扶養への影響を含めた、世帯全体の手取りで比べてください。
そして、実際に業務を担ってもらうことが前提です。実態のない報酬は、節税ではなく否認のリスクになります。サラリーマンとして本業を持ちながら会社設立をする場合、この設計は複雑になりますので、税理士に試算と助言を求めることをおすすめします。
出典地方税制度|法人住民税 (総務省/2026年8月21日確認)
世帯の手取りで見てください
家族を役員にする形を考えるときは、法人の税額だけを見ないでください。世帯全体の手取りで比べる必要があります。所得税と住民税が減っても、社会保険料が増え、扶養から外れれば、合計では減ることがあります。
そして、実態のない役員に報酬を払うことはできません。会社設立をしたあと、その家族が実際にどんな業務を担うのか。それを説明できる形になっているかどうかが、否認されるかどうかの分かれ目になります。
この設計は、サラリーマンがご自身だけで判断するには複雑です。扶養の状況、配偶者の勤務先の制度、社会保険の見込み。これらを合わせて計算する必要がありますので、税理士に相談しながら決めてください。
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