サラリーマンの会社設立、メリットは効くものと効かないものに分かれる
この記事の趣旨
会社設立のメリットを紹介する記事は数多くありますが、その多くは独立して事業を始める人を想定して書かれています。本業の給与があるサラリーマンが読むと、当てはまらない項目が混じっています。
この記事では、よく挙げられるメリットを一つずつ取り上げ、会社員の場合に効くのか効きにくいのかを分けます。効かないものを期待して会社設立をすると、節税額の見込みが外れます。
税率や控除額は2026年8月21日に国税庁のページで確認したものです。制度は改正されますので、実際の判断はリンク先の最新情報と、税理士への相談によって行ってください。
よく挙げられるメリットを、まず並べる

会社設立のメリットとして、一般的に次のような項目が挙げられます。まず並べてみます。
- 所得税の累進と法人税の比例という税率構造の違いを使える
- 役員報酬を受け取ることで給与所得控除が使える
- 家族を役員にして所得を分散できる
- 社宅・出張日当・退職金など経費の範囲が広がる
- 赤字を繰り越せる期間が長い
- 対外的な信用が高まる
いずれも間違いではありません。ただし、サラリーマンの場合に同じように効くとは限りません。本業の給与所得がすでにあるという前提が、いくつかの項目の前提を崩すからです。
この記事では、六つを順に検証します。結論だけ先に示すと、効きやすいのは1・4・5、条件つきなのが3・6、そして会社員にはとくに注意が必要なのが2です。

では、一つずつ見ていきます。
出典No.5759 法人税の税率 (国税庁/2026年8月21日確認)
効く:税率構造の違い。ただし本業の給与しだい

最も本質的なメリットがこれです。所得税は所得が増えるほど税率が上がる累進の仕組みですが、法人税はそこまで上がりません。この差を使うのが、会社設立による節税の基本です。
サラリーマンの場合、副業の所得は本業の給与所得と合算して課税されます。したがって、本業の給与が高い方ほど、副業の所得に高い税率が乗っています。その部分を法人に移せば、税率の差が節税額になります。
逆に言えば、本業の給与がそれほど高くない段階では、この差が小さくなります。副業の利益が同じでも、会社設立の効果は人によって変わるということです。
| 本業の給与収入 | 副業所得に乗る税率帯の例 | 税率構造の差の効き方 |
|---|---|---|
| 400万円前後 | 所得税10%程度の帯 | 差が小さく、維持コストに埋もれやすい |
| 700万円前後 | 所得税20〜23%程度の帯 | 検討の余地が出てきます |
| 1000万円前後 | 所得税33%程度の帯 | 差が開き、効きやすくなります |
※ 概算です。実際の税率は各種控除を引いたあとの課税所得で決まり、扶養や住宅ローン控除の状況で変わります。個別の判定は税理士にご確認ください。
このメリットは、会社員にも確実に効きます。ただし、効く大きさが人によって違うという点を押さえてください。会社設立を考えるときは、ご自身の課税所得がどの帯にあるかを先に確認してください。
なお、法人に利益を残した場合、そのお金は個人の手元には出てきません。納める税金の合計は減っても、使える現金が増えるとは限らない点は、別に考える必要があります。
サラリーマンが会社設立による節税を考えるとき、この税率構造の差が出発点になります。ここが小さければ、他のメリットをいくら積み上げても固定費を超えにくくなります。まずご自身の課税所得がどの帯にあるかを確認してください。
出典No.2260 所得税の税率 (国税庁/2026年8月21日確認)
注意:給与所得控除は、本業ですでに使っている

会社設立のメリットとして頻繁に挙げられるのが、この給与所得控除です。ただし、サラリーマンの場合はここに注意が必要です。
法人から役員報酬を受け取ると、それは給与所得になります。給与所得には給与所得控除があり、収入に応じた金額を差し引けます。個人事業主が法人化して役員報酬を取る場合、事業所得が給与所得に変わることで、この控除が新たに使えるようになります。これは確かに節税になります。
しかし会社員の場合、本業の給与ですでに給与所得控除を使っています。そして、この控除には上限があります。国税庁のページで確認すると、給与等の収入金額が850万円を超える場合の給与所得控除額は195万円が上限です。
本業の給与収入が850万円に達していない方であれば、役員報酬を加えることで控除が増える余地はあります。ただしその場合も、増えるのは上限までの差額分にとどまります。
この点は、独立して法人化する人と会社員とで、条件が大きく異なるところです。「法人化すれば給与所得控除が使える」という説明を、そのまま自分に当てはめないでください。
加えて、役員報酬を取ると法人でも社会保険の被保険者になります。本業と合わせて二以上事業所勤務の届出が必要になり、保険料は合算した報酬をもとに按分されます。控除の増加分より保険料の増加分のほうが大きくなることもあります。

出典No.1410 給与所得控除 (国税庁/2026年8月21日確認)
条件つき:所得の分散

家族を役員にして役員報酬を支払い、所得を分散するという形が紹介されることがあります。一人が受け取る額を抑えることで、それぞれに低い税率が適用されるという考え方です。
理屈としては成り立ちます。ただし、会社員が会社設立をする場合、いくつかの条件が付きます。
- 役員報酬の額は、実際の職務内容と釣り合っている必要があります
- 定期同額給与などの要件を満たさなければ損金になりません
- 家族が社会保険の被保険者になれば、保険料の負担が生じます
- 配偶者の扶養から外れる場合、世帯全体の手取りが減ることがあります
- 実態のない役員に報酬を払えば、税務調査で否認される可能性があります
とくに三つめと四つめが重要です。所得分散による節税額より、社会保険料の増加や扶養から外れることによる影響のほうが大きくなり、世帯全体では手取りが減るという結果になることがあります。
会社員が副業の受け皿として会社設立をする規模であれば、そもそも複数の役員が必要な事業なのかという点も問われます。事業の実態に即して考えてください。
出典No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分) (国税庁/2026年8月21日確認)
効く:経費の範囲が広がる

これは会社員にも効くメリットです。法人はあなたとは別の人格ですから、法人からあなたへ支払うものが、要件を満たせば損金になります。
個人事業主は自分に給与を払えず、自分に退職金を払えず、自分に出張日当を出せません。法人であれば、いずれも可能になります。社宅の仕組みも法人ならではです。
ただし、それぞれに要件があります。社宅であれば契約名義が法人であること、社宅規程があること、役員から適正な家賃を受け取っていること。出張日当であれば旅費規程が先にあり、実際に出張した記録があること。
会社員の副業法人の場合、本業の支出と法人の支出が混ざりやすいという事情があります。通信費、交通費、書籍代。どちらのためのものかを説明できるよう、記録を分けておいてください。
この点さえ整えば、経費の範囲が広がることは会社設立の実質的なメリットになります。節税額としても計算に入れて差し支えありません。
サラリーマンにとって、経費の範囲が広がることは実感しやすい節税の形です。ただし、要件を満たさないまま処理すれば否認され、かえって負担が増えます。節税の効果は、要件を整える手間とセットで考えてください。
出典No.5202 役員等に対する経済的利益 (国税庁/2026年8月21日確認)
効く:赤字の繰越し

法人の場合、その事業年度に生じた欠損金を、一定期間にわたって将来の所得と相殺できる仕組みがあります。個人の場合の繰越期間より長く設定されています。
会社設立の初年度は、設立費用や初期投資によって赤字になることがあります。その赤字を翌年以降の黒字と相殺できれば、将来の税負担が軽くなります。
ただし、この仕組みを使うには青色申告の承認を受けている必要があります。会社設立後に提出する青色申告の承認申請書には期限があり、これを過ぎるとその事業年度は青色申告ができません。
サラリーマンが会社設立をする場合、届出の手続きが立て込むなかでこの申請を忘れることがあります。国税庁が新設法人の届出書類を案内していますので、設立後すぐに確認してください。
このメリットは、要件さえ満たせば会社員にも同じように効きます。手続きを忘れないという一点に注意すれば済む話ですので、確実に押さえておきたい項目です。
出典No.5100 新設法人の届出書類 (国税庁/2026年8月21日確認)
条件つき:対外的な信用

法人であることで信用が高まるという説明があります。これは場面によります。
取引先が法人で、社内規程により取引相手の形態が定められている場合、法人であることが条件になることがあります。また、金融機関からの借入れを検討する場合にも、法人であることが前提となる商品があります。
一方、会社員が副業の受け皿として会社設立をする規模では、取引の相手が個人や小規模事業者であることが多く、形態が問われない場面も少なくありません。
この項目は、想定している取引先に確認するのがいちばん早い部分です。会社設立をしてから「必要なかった」と気づくより、事前に聞いておくほうが確実です。
なお、法人であることの信用は、設立しただけで得られるものではありません。事業の内容と実績が伴ってはじめて意味を持ちます。登記をした事実そのものが信用になるわけではない点は、押さえておいてください。
節税とは直接関係しない項目ですが、会社設立を決める理由としては十分にあり得ます。節税額が固定費を上回らなくても、事業の必要から法人にするという判断はあります。
サラリーマンが会社設立をする動機は、節税だけとは限りません。信用の面で必要になったという理由であれば、節税額が固定費を下回っていても設立する判断はあり得ます。目的をはっきりさせておくと、迷いが減ります。
出典登記-商業・法人登記- (法務省/2026年8月21日確認)
まとめ:効くものから固定費を引く

六つのメリットを、会社員の場合に効くかどうかで整理しました。
| メリット | 会社員にとって | 注意点 |
|---|---|---|
| 税率構造の差 | 効きます | 本業の給与が高いほど大きくなります |
| 給与所得控除 | 効きにくい場合があります | 本業で上限に達していると増えません |
| 所得の分散 | 条件つきです | 社会保険と扶養への影響を確認してください |
| 経費の範囲 | 効きます | 規程と記録の整備が要件です |
| 赤字の繰越し | 効きます | 青色申告の承認申請の期限に注意 |
| 対外的な信用 | 場面によります | 取引先に確認するのが確実です |
※ 一般的な整理です。個別の状況により結論は変わります。判断は税理士にご相談ください。
この表で「効きます」となっているものを数え、そこから固定費を引いてください。法人住民税の均等割は標準税率で年7万円から、税理士費用が年間で十数万円から。合わせて年30万円前後が目安になります。
効かないメリットを期待に含めてしまうと、この引き算が合いません。とくに給与所得控除については、本業の給与収入が850万円を超えている方は、増加分をゼロとして計算してください。
そのうえで残る額がプラスであれば、会社設立は選択肢になります。判断に迷われる場合は、ご自身の数字を持って税理士にご相談ください。
出典地方税制度|法人住民税 (総務省/2026年8月21日確認)
効くものだけを数えてください
会社設立のメリットを並べた記事を読むときは、それが自分に当てはまるかを一つずつ確かめてください。とくに給与所得控除に関する説明は、本業の給与がある方には当てはまらないことがあります。
効くものだけを数えて、そこから維持コストを引く。残った額がプラスなら、会社設立は選択肢になります。マイナスなら、いまは急がなくてよいということです。
どのメリットが自分に効くのかは、本業の給与額と副業の利益、家族の状況によって変わります。ご自身の源泉徴収票と確定申告書を持って、税理士にご相談いただくのが確実です。
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