資産管理会社の会社設立は、どれくらいの規模から考えるか
この記事の考え方
資産管理を目的とした会社設立を、どれくらいの規模から考えるべきかを扱う記事です。よく挙げられる目安の数字が、何を根拠にしているかを確かめます。
「資産1億円から」「所得900万円から」といった数字を見かけますが、判断を決めるのは資産額そのものではありません。そこから生じる収益と、個人と法人の税率の差です。
会社員の場合、本業の給与という土台があるため、一般的な目安がそのままは当てはまりません。その点も含めて整理します。個別の判断は税理士にご相談ください。
よく挙げられる目安

資産管理会社の目安として、二種類の数字が挙げられます。
一つめが資産額です。「資産1億円から」といった形で語られます。保有している資産の総額を基準にする考え方です。
二つめが所得額です。「課税所得900万円から」といった形で語られます。所得税の税率が区分される境目に由来する数字です。
この二つは、根拠が違います。資産額は保有している量、所得額は毎年生じる収益に対する課税の話です。
そして、判断を直接決めるのは所得額のほうです。資産をいくら持っていても、そこから収益が生じなければ節税の余地がありません。
たとえば、値上がりを期待して保有しているだけの資産であれば、毎年の収益はほとんどありません。この場合、会社設立をしても移せる所得がないことになります。
逆に、資産額が小さくても収益率が高ければ、移せる所得は生じます。資産額は目安として使われますが、直接の判断材料ではありません。
会社設立を検討するサラリーマンは、資産額ではなく年間の収益額を確認してください。そこから話が始まります。
サラリーマンが会社設立を検討するときも、この二つの数字を目にすることになります。
実際には、この二つの数字はどちらも「多くの場合はこのあたり」という経験則にすぎません。制度の中に、この金額を境に扱いが変わるという規定があるわけではないのです。目安として参照する分には有用ですが、その数字を超えたから会社設立をすべきだ、という読み方は避けてください。
出典No.2260 所得税の税率 (国税庁/2026年8月22日確認)
収益から節税額を出す

収益額が分かったら、そこから節税額を出します。
節税額は、個人で受けた場合と法人で受けた場合の税負担の差です。個人の所得税は累進、法人税は所得の金額に応じた区分。この差が節税の源になります。
会社員の場合、資産からの収益は本業の給与所得と合算して課税されます。本業の給与が高いほど、収益に高い税率が乗っています。
したがって、同じ収益額でも、本業の給与水準によって節税額が変わります。
| 本業の給与収入 | 収益に乗る税率帯の例 | 法人へ移した場合の節税の効きやすさ |
|---|---|---|
| 500万円前後 | 所得税20%程度 | 差が小さく、固定費に埋もれやすい |
| 800万円前後 | 所得税23%程度 | 検討の入口に入ります |
| 1100万円以上 | 所得税33%程度 | 差が開き、効きやすくなります |
※ 概算です。実際の税率は各種控除を引いたあとの課税所得で決まります。個別の判定は税理士にご確認ください。
この表から分かるのは、資産額が同じでも人によって判断が変わるということです。本業の給与が高い会社員ほど、会社設立の効果が出やすくなります。
なお、資産の種類によっても変わります。不動産の賃料収入と、上場株式の配当や譲渡益とでは、個人の側で適用される課税の仕組みが違うためです。
有価証券については、個人の分離課税と法人の総合的な扱いを比べる必要があります。一概に法人が有利とは言えません。
会社設立を検討する段階で、資産の種類ごとに確認してください。
会社設立をして法人で受けるか、個人のまま受けるか。その差が節税額です。
サラリーマンの方は、まず本業の給与を含めた課税所得を確認してください。
出典No.5759 法人税の税率 (国税庁/2026年8月22日確認)
固定費を差し引く

節税額が出たら、固定費を差し引きます。
会社設立をすると、法人住民税の均等割が毎年かかります。総務省の資料で標準税率を確認すると、資本金等の額が1千万円以下で従業者数が50人以下の場合、都道府県民税2万円と市町村民税5万円で年7万円です。
これに決算と申告の費用が加わり、合計で年30万円前後になることが多くなります。役員報酬を取れば社会保険料も増えます。
重要なのは、資産から収益が上がらない年でもこの負担が続くということです。空室が続いた年、配当がなかった年、相場が下がった年。いずれも均等割は変わりません。

したがって、節税額が年30万円前後を安定して上回るかが判断の基準になります。
収益の変動が大きい資産であれば、平均ではなく低い年を基準に考えてください。好調な年だけを見ると、平年には見合わないという結果になります。
サラリーマンとして本業の給与があれば、この固定費を吸収できてしまいます。それ自体は助かることですが、見合っているかの検証が甘くなる原因にもなります。
会社設立をした時点から、この負担が始まります。
固定費の見積もりで見落としやすいのが、法人口座の維持や振込にかかる費用と、登記事項証明書などの取得費用です。一件あたりは小さな金額ですが、年間で積み上がります。会社設立の前に、こうした細かな費用も含めて見積もってください。
出典地方税制度|法人住民税 (総務省/2026年8月22日確認)
移転コストも計算に入れる

すでに個人で資産を持っていて、それを法人に移す場合は、移転コストも計算に入れます。
不動産であれば、登録免許税、不動産取得税、譲渡による所得税が生じます。資産の価額に応じて計算されますので、規模が大きいほど金額も大きくなります。
有価証券であれば、含み益があると譲渡益に課税されます。移す時点で納税が生じることになります。
これらは一度きりの費用ですので、続ける年数で割って年あたりに換算します。
移転コストが200万円で、年あたりの節税額が固定費を差し引いて30万円だとすれば、回収に約7年かかる計算です。
回収に必要な年数が、資産を保有し続ける期間より長ければ、移す意味は薄くなります。
これに対して、これから取得する資産を法人名義にするのであれば、移転コストは生じません。会社設立を先に済ませ、その法人で取得するという順番です。
会社員が資産管理会社を検討する場合、すでに持つ資産を移すのか、これから取得する分を法人で持つのかを分けて考えてください。判断がまったく変わります。
後者であれば、資産額の目安はあまり意味を持ちません。これから取得する資産の収益見込みで判断することになります。
会社設立の順番を変えるだけで、移転コストを避けられる場合があります。
移転コストを見積もる際は、税額そのものだけでなく、司法書士や税理士に依頼する費用も含めてください。不動産の移転登記であれば、報酬が数万円から十数万円かかることがあります。
出典No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得) (国税庁/2026年8月22日確認)
会社員に特有の確認事項

会社員が資産管理会社を検討する場合、規模の話より先に確認することがあります。
一つめが就業規則です。会社設立をして代表者になることは役員兼務にあたります。資産の運用そのものは副業に該当しないと扱われることが多いのですが、法人の代表者になることは別の論点です。
公務員の方は、国家公務員法および地方公務員法により営利企業の役員兼業が原則として禁止されています。不動産の賃貸についても一定の規模を超える場合には承認が必要とされることがあります。
二つめが社会保険です。法人は役員一人でも適用事業所になります。役員報酬を受け取れば被保険者になり、本業ですでに加入している方は二つの事業所で被保険者となります。
日本年金機構の案内によれば、この場合は二以上事業所勤務の届出が必要で、保険料は両方の報酬を合算した標準報酬月額により決定され、按分されます。
役員報酬をゼロにすれば、この手続きは生じません。資産管理会社では、この設計が取られることも少なくありません。会社員は本業の給与で生活が成り立っていることが多いためです。
ただし、報酬をゼロにすれば法人に利益が残り、個人は使えません。目的によって判断が変わります。
これら二つを確認したうえで、規模の判断に進んでください。会社設立ができる立場でなければ、規模の話に意味がありません。
サラリーマンとして本業を持ちながら判断する以上、この順序を守ってください。
サラリーマンが会社設立をする場合、この二点は避けて通れません。
出典複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き (日本年金機構/2026年8月22日確認)
判断の手順をまとめる

ここまでの内容を、判断の手順としてまとめます。

一つめと二つめが、会社設立ができるかどうかの確認です。ここが通らなければ、以降の検討に意味がありません。
三つめから六つめが、数字の判定です。資産額から入らず、収益額から入ってください。
この手順で確認すれば、目安の数字に頼らずに判断できます。ご自身の状況そのもので判断するほうが正確です。
そして、判断がつかない場合は、いまは急がないという選択も合理的です。会社設立の手続き自体は数週間で終わりますので、条件が揃ってから動いても間に合います。
サラリーマンとして本業がある以上、資産が育つのを待つという判断もできます。
会社設立をするかどうかは、この六つを順に確認すれば判断できます。
出典No.5100 新設法人の届出書類 (国税庁/2026年8月22日確認)
規模が足りない場合にできること

節税額が固定費に届かない場合、個人のままでできることを整理します。
不動産であれば、経費の計上漏れと按分を見直すことです。修繕費、管理費、損害保険料、借入金の利息。計上できるものを漏らしていないかを確認してください。
事業的規模と認められる場合には、青色申告の承認を受けることで特別控除が使えます。会社設立をしなくても、記帳の方法を整えるだけで控除が増えます。
有価証券であれば、個人で使える非課税の制度を確認してください。法人ではこれらの制度は使えませんので、個人のままのほうが有利な場面もあります。
また、損失が出た場合の扱いも個人と法人で違います。個人には繰越しの仕組みがありますので、ご自身の運用方針に照らして比べてください。
これらはいずれも固定費がかかりません。効果が小さくても、確実に手元に残ります。
そして、資産が育ってから改めて会社設立を検討するという順番であれば、無駄がありません。急いで法人を持つ必要はありません。
会社員が資産を育てている段階では、まず個人のままでできることを使い切ってください。
判断に迷う部分は、資産の内訳と本業の状況を伝えたうえで、税理士にご相談ください。
会社設立をしない期間にできることは、思ったより多くあります。サラリーマンの立場でも取り組めます。
さらに、個人のままで記録の形を整えておけば、あとで会社設立をする際にそのまま使えます。収支の内訳、資産ごとの利回り、経費の区分。これらが整理されていれば、法人に移すときの判断が早くなります。
出典No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得) (国税庁/2026年8月22日確認)
まとめ

資産管理会社の規模について、この記事で整理したことをまとめます。
- 目安として資産額と所得額の二つが語られますが、判断を決めるのは収益額です
- 資産をいくら持っていても、収益が生じなければ移せる所得がありません
- 節税額は、個人と法人の税率差から生じます。会社員は本業の給与が土台になります
- 固定費は年30万円前後。収益が上がらない年でもかかります
- すでに持つ資産を移すなら、移転コストと回収年数も計算に入れてください
- 会社員は就業規則と社会保険を、規模の話より先に確認してください
資産額から入らず、収益額から入ってください。同じ資産額でも、収益率と本業の給与水準によって判断が変わります。
そして、節税額が固定費を上回らないのであれば、いまは会社設立を急ぐ理由がありません。個人のままでできることを使い切るほうが確実です。
サラリーマンとして本業がある以上、資産が育つのを待つという判断もできます。条件が揃ってから動いても間に合います。
会社設立の判断は、資産が育ってからでも遅くありません。
出典No.1410 給与所得控除 (国税庁/2026年8月22日確認)
収益から逆算してください
資産管理会社の会社設立を判断するとき、資産額ではなく収益から考えてください。同じ1億円の資産でも、そこから年500万円の収益が生じる場合と、ほとんど生じない場合とでは、判断が変わります。
そして、収益に対する税率の差が節税額になります。会社員であれば、本業の給与と合算した税率帯が出発点です。
その節税額が年30万円前後の固定費を上回るか。これが判断の基準です。判断に迷う部分は、資産の内訳を持って税理士にご相談ください。
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