会社設立して個人事業も続ける形は、会社員に成り立つのか
この記事で検証すること
会社設立をして法人を持ちながら個人事業も続ける、いわゆる二刀流と呼ばれる形を扱います。本業の給与がある会社員に成り立つのかを検証します。
この形は個人事業主を前提に語られることがほとんどです。会社員が行うと、本業・法人・個人事業の三つを並行させることになります。
税と社会保険の面だけでなく、実際に回せるのかという現実的な観点も含めて整理します。個別の判断は税理士にご相談ください。
この形が語られる背景

法人と個人事業を並行させるという形が語られる背景を、まず確認します。
個人事業主は、国民健康保険と国民年金に加入します。国民健康保険の保険料には所得に応じて計算される部分があるため、所得が増えるほど保険料も増えます。
ここで法人をつくり、その法人から役員報酬を受け取ると、健康保険と厚生年金の被保険者になります。保険料は報酬の額に応じた標準報酬月額で決まりますので、報酬を低くすれば保険料も抑えられます。
そして、個人事業のほうは続けたまま所得を得る。社会保険は法人側で加入しているため、個人事業の所得が増えても国民健康保険の保険料には影響しない。これがこの形の骨格です。
出発点は、国民健康保険と国民年金に加入している状態です。そこから健康保険と厚生年金に移ることで、保険料の計算方法が変わるという仕組みになっています。
したがって、すでに本業で厚生年金と健康保険に加入している会社員には、この出発点が当てはまりません。
会社設立をして役員報酬を受け取っても、移動ではなく重ねての適用になります。日本年金機構の案内によれば、二以上事業所勤務の場合は両方の報酬を合算して標準報酬月額を決定し、按分するとされています。
つまり、この形の中心的な効果である社会保険料の軽減は、会社員には生じません。
では、会社員がこの形を取る意味はまったくないのか。次の節から検証します。
サラリーマンがこの形を検討する場合、まず出発点が違うことを確認してください。
この形が節税として語られる中心は、社会保険料の部分です。
会社設立をして個人事業も続けるという形は、個人事業主の間で語られてきたものです。会社設立の判断をする前に、その前提を確かめてください。
出典適用事業所と被保険者 (日本年金機構/2026年8月22日確認)
会社員が三つを並行させるということ

会社員がこの形を取ると、何が起きるかを具体的に見ます。
本業の給与があり、法人があり、個人事業がある。三つを並行させることになります。それぞれについて、次のことが発生します。
| 区分 | 発生すること | 時期 |
|---|---|---|
| 本業 | 年末調整(ただし完結しません) | 年末 |
| 法人 | 決算・法人税の申告・法人住民税の申告 | 事業年度終了後2か月以内 |
| 個人事業 | 記帳・確定申告 | 翌年2月から3月 |
| 個人(本人) | 確定申告(二か所給与のため) | 翌年2月から3月 |
※ 役員報酬を受け取る場合の一般的な整理です。個別の状況により異なります。
記帳は、法人と個人事業でそれぞれ必要になります。帳簿を二つ持つということです。会計ソフトも、法人用と個人用で分けることになります。
さらに、法人と個人事業の取引を明確に分ける必要があります。どちらの事業に属する売上か、どちらのための支出か。混ざれば、あとから区別できなくなります。
サラリーマンとして本業を持ちながら、この体制を続けられるか。これが最初の現実的な問いになります。
会社設立の判断をするとき、節税額の計算に目が行きがちですが、この手間が続かなければ意味がありません。記録が残らなければ、実体の説明も難しくなります。
依頼する範囲を広げれば手間は減りますが、費用も上がります。法人の申告と個人の申告の両方を依頼すれば、その分の費用がかかります。
会社設立を検討する段階で、この体制を組めるかを確かめてください。
節税の効果を計算する前に、この体制を続けられるかを確かめてください。
会社設立をすると、法人の決算と申告が加わります。個人事業の確定申告も続きますので、二本立てになります。
会社設立の前に、記帳の体制を二つ持てるかを確かめてください。
出典No.1350 事業所得の課税のしくみ(事業所得) (国税庁/2026年8月22日確認)
事業を分ける必然性が要ります

この形を取る場合、なぜ二つに分けているのかを説明できる必要があります。
法人と個人事業で、実質的に同じ事業を行っているとします。その場合、分ける必然性が問われることになります。
「節税のために分けている」という説明では認められません。事業上の理由が必要です。
説明しやすいのは、性質の異なる事業を分けている場合です。たとえば、法人では受託業務を行い、個人事業では別の分野の活動を行う、といった形であれば、区分の根拠があります。
一方、同じ取引先に対する同じ業務を、金額で按分して法人と個人に振り分けているだけであれば、説明が難しくなります。
国税庁は役員給与について、不相当に高額な部分は損金にならないとしています。職務の内容や法人の収益の状況が考慮されるという考え方は、実態との整合を求めるものです。
同様に、法人と個人事業の区分についても、実態が伴っているかが見られます。形式的に分けただけでは、そのとおりに認められるとは限りません。
会社設立をする前に、二つの事業をどう分けるかを決めておいてください。あとから整理するのは困難です。取引先にも説明が必要になる場合があります。
サラリーマンの場合、本業に時間を取られるなかで二つの事業を運営することになります。それぞれに実体があると言えるかを、現実的に考えてください。
判断に迷う部分は、事業の内容を伝えたうえで税理士にご確認ください。
節税のために分けているという説明では認められません。事業上の理由が要ります。
会社設立をする段階で、二つの事業をどう分けるかを決めておいてください。
出典No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分) (国税庁/2026年8月22日確認)
会社員にとって残る効果

社会保険の軽減が生じないとして、会社員にとって残る効果を整理します。
一つめが、税率構造の違いです。個人の所得税は累進、法人税は所得の金額に応じた区分。この差を使うことはできます。
会社員の場合、副業の所得は本業の給与所得と合算して課税されます。本業の給与が高いほど高い税率が乗っていますので、法人に移す効果が大きくなります。
二つめが、経費として認められる範囲です。法人は別人格ですので、法人からあなたへの支払いが成立します。役員報酬、退職金、出張日当、社宅。いずれも要件を満たせば損金になります。
三つめが、所得を分散できることです。個人事業と法人の両方に所得がある状態では、それぞれの区分で税額が計算されます。ただし、会社員の場合は個人側に本業の給与所得があるため、分散の効果は限定的になります。
これら三つは、社会保険の軽減とは別の話です。マイクロ法人の説明では社会保険が中心に語られますが、会社員にとってはこちらが判断材料になります。
そして、これらの効果が固定費を上回るかを確かめることになります。法人住民税の均等割は総務省の資料で標準税率を確認すると年7万円から。これに税理士費用が加わります。
社会保険の軽減がない分、税と経費だけで年30万円を超える必要があります。個人事業主の場合より、条件は厳しくなります。
会社設立を検討するサラリーマンは、この点を踏まえて試算してください。
会社員にとっての節税の余地は、税率と経費の側にあります。
会社設立による効果は、この三つに絞られます。
会社設立の固定費は、規模にかかわらずかかります。
出典No.5759 法人税の税率 (国税庁/2026年8月22日確認)
むしろ不利になる場面もあります

会社員がこの形を取ると、不利に働く場面もあります。二つ挙げます。
一つめが社会保険です。役員報酬を受け取ると、本業の報酬と合算して標準報酬月額が決まります。合算により等級が上がれば、保険料の総額が増えます。
しかも社会保険料は労使折半ですので、一人法人では個人負担分と法人負担分の両方が実質的な自己負担になります。軽減どころか、増加する方向に働くことがあります。
本業の給与だけですでに標準報酬月額の上限に達している方であれば、報酬を加えても保険料は増えません。ご自身がどちらに当たるかを、保険料額表で確認してください。
二つめが損益通算です。個人事業で損失が生じた場合、事業所得であれば一定の範囲で他の所得と相殺できます。会社員であれば給与所得と相殺できる場面があります。
しかし、事業を法人に移した部分については、この形が使えません。法人が赤字でも、あなた個人の給与所得と相殺することはできないためです。
事業の一部を法人に移すことで、損益通算できる範囲が狭まるということです。副業が赤字になる可能性がある段階では、この点が不利に働きます。
したがって、会社設立をして二つを並行させる形は、利益が安定してから検討するほうが無理がありません。
サラリーマンとして本業がある以上、急いでこの形を取る必要はありません。

節税を期待して始めた形が、かえって負担を増やすことがあります。
会社設立をして事業の一部を移すと、その部分は損益通算の対象から外れます。
出典複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き (日本年金機構/2026年8月22日確認)
成り立つとすればどういう場合か

では、会社員にこの形が成り立つとすれば、どういう場合か。四つの条件を挙げます。

一つめが最も重要です。分ける必然性がなければ、そもそも成り立ちません。節税のために分けているという説明では認められません。
二つめは、損益通算が使えなくなることへの備えです。どちらも安定して利益が出ているなら、この点は問題になりません。
三つめは、現実的な問題です。本業・法人・個人事業の三つを回すには相応の時間が要ります。依頼する範囲を広げれば費用が上がります。
四つめは、金額の判定です。社会保険の軽減がない分、税と経費だけで固定費を上回る必要があります。
一つでも欠けていれば、この形は難しくなります。その場合は、個人事業だけに絞るか、法人だけにするかを考えることになります。
サラリーマンとして本業を持ちながら、無理なく続けられる形を選んでください。
四つが揃わなければ、節税の効果より手間が上回ります。
会社設立をするかどうかは、この四つで判断してください。
出典No.5100 新設法人の届出書類 (国税庁/2026年8月22日確認)
会社員に向く形は他にもあります

四つの条件が揃わない場合、他の形を検討することになります。
一つめが、個人事業だけに絞るという形です。会社設立をせず、個人事業として続けます。青色申告の承認を受ければ特別控除が使え、損失が出れば給与所得と相殺できる場面もあります。
固定費もかかりません。法人住民税の均等割も、法人の決算費用も生じません。手間も費用も最も小さく済みます。
二つめが、法人だけにするという形です。個人事業を廃業し、事業を法人に集約します。記帳も申告も一本になりますので、三つを並行させるより負担が軽くなります。
ただし、この場合は法人の固定費がかかります。事業の規模が固定費を上回るかを確かめる必要があります。
どちらの形も、三つを並行させるより手間が小さくなります。サラリーマンとして本業を持つ以上、この点は無視できません。
会社設立を検討するときは、並行させる形が本当に必要かを考えてください。分ける必然性がなければ、一本に絞るほうが無理がありません。
節税の効果だけを見て複雑な形を選ぶと、続かなくなることがあります。続かなければ、記録が残らず、実体の説明も難しくなります。
判断に迷う部分は、事業の内容と本業の状況を伝えたうえで、税理士にご相談ください。
節税の効果だけを見て複雑な形を選ばないでください。
会社設立をせず個人事業に絞るという選択も、十分に合理的です。
出典No.1350 事業所得の課税のしくみ(事業所得) (国税庁/2026年8月22日確認)
まとめ

法人と個人事業を並行させる形について、この記事で整理したことをまとめます。
- この形は、国民健康保険と国民年金に加入している個人事業主を前提に語られています
- 会社員は本業ですでに健康保険と厚生年金に加入しているため、社会保険料の軽減は生じません
- 会社員が行うと、本業・法人・個人事業の三つを並行させることになります
- 事業を分ける必然性が要ります。節税のためという説明では認められません
- むしろ不利になる場面もあります。保険料の増加と、損益通算が使えなくなることです
- 成り立つのは、性質の異なる事業がある・どちらも安定している・体制がある・固定費を上回る、の四つが揃う場合です
会社設立をして二つを並行させる形は、会社員にとって条件が厳しくなります。中心的な効果が生じないうえ、手間が増えるためです。
四つの条件が揃わないのであれば、個人事業だけに絞るか、法人だけにするほうが無理がありません。続けられる形を選んでください。
サラリーマンとして本業がある以上、急ぐ必要はありません。判断に迷う部分は税理士にご相談ください。
節税額と手間を並べて、続けられる形を選んでください。
会社設立の判断は、続けられるかどうかで決めてください。
出典地方税制度|法人住民税 (総務省/2026年8月22日確認)
三つを回せるかを先に考えてください
会社員がこの形を取ると、本業・法人・個人事業の三つを並行させることになります。申告も、記帳も、それぞれに必要です。
節税の効果を計算する前に、この体制を続けられるかを確かめてください。手が回らなくなれば、記録が残らず、実体の説明も難しくなります。
そして、事業を分ける必然性が説明できることが前提です。節税のために分けているという説明では認められません。判断に迷う部分は税理士にご相談ください。
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