マイクロ法人とは何か。法律用語ではないという前提から確かめる
最初に確認しておくこと
「マイクロ法人」という言葉を目にして、その中身を確かめたい方に向けた記事です。まず押さえていただきたいのは、これが法律用語ではないということです。
会社法にも法人税法にも、マイクロ法人という区分はありません。従業員を雇わず代表者一人で事業を行う法人を指す、慣習的な呼び方です。特別な制度が用意されているわけではありません。
そして、この言葉で語られる節税の話は、個人事業主を前提としていることがほとんどです。本業の給与がある会社員には当てはまらない部分が多くあります。そこを分けて整理します。個別の判断は税理士にご相談ください。
マイクロ法人という言葉の位置づけ

最初に、この言葉の位置づけを確認します。
マイクロ法人は、法律用語ではありません。会社法にも法人税法にも、この区分はありません。従業員を雇わず、代表者一人で事業を行う法人を指す慣習的な呼び方です。
したがって、マイクロ法人だから使える特別な制度というものは存在しません。登記の手続きも、法人税の計算も、社会保険の適用も、他の法人とまったく同じです。
法務局が案内する商業・法人登記の手続きにも、この区分は出てきません。設立するのは株式会社か合同会社であり、その規模が小さいというだけのことです。
この点を最初に押さえておかないと、言葉に特別な意味があるかのように受け取ってしまいます。「マイクロ法人を設立すれば」という説明は、「小さな法人を設立すれば」と読み替えてください。
同様の通称として「プライベートカンパニー」という言葉もあります。こちらも法律用語ではなく、個人の資産管理を目的とした法人を指す呼び方です。
当サイトでは、こうした通称を使う場合には法律用語ではない旨を明記するようにしています。読者が制度上の区分と混同しないためです。
会社設立を検討するサラリーマンが、この言葉を目にする機会は多いと思います。そのときに、中身は普通の法人だと理解しておいてください。
サラリーマンが節税を調べていると、この言葉によく出会います。制度の名前だと誤解しやすいので、最初に位置づけを確認してください。
会社設立を検討するなかでこの言葉に出会った方は、まず制度の名前ではないことを押さえてください。会社設立の手続きそのものは、株式会社か合同会社かを選んで登記するという通常のものです。
会社設立の相談をする際に「マイクロ法人をつくりたい」と伝えても、手続きが変わるわけではありません。規模が小さいというだけで、会社設立の流れは同じです。
出典登記-商業・法人登記- (法務省/2026年8月22日確認)
語られている内容は個人事業主向けです

次に、この言葉で語られている内容の前提を確認します。
マイクロ法人の節税として語られる中心的な話は、社会保険料の軽減です。その仕組みを確認します。
個人事業主は、国民健康保険と国民年金に加入します。国民健康保険の保険料は、所得に応じて計算される部分があるため、所得が増えるほど保険料も増えます。
ここで法人をつくり、その法人から役員報酬を受け取ると、健康保険と厚生年金の被保険者になります。日本年金機構の案内によれば、法人の事業所は原則として強制適用事業所とされています。
健康保険と厚生年金の保険料は、報酬の額に応じた標準報酬月額で決まります。役員報酬を低く設定すれば、保険料も低く抑えられます。
そして、個人事業のほうは続けたまま、社会保険は法人側で加入する。これが、いわゆる二刀流と呼ばれる形の骨格です。
この話の出発点は、国民健康保険と国民年金に加入している状態です。そこから健康保険と厚生年金に移ることで、保険料の計算方法が変わるという仕組みです。
したがって、すでに本業で厚生年金と健康保険に加入している会社員には、この前提が当てはまりません。次の節で詳しく見ます。
記事を読むときは、この前提が書かれているかを確かめてください。書かれていなければ、個人事業主を想定している可能性が高くなります。
サラリーマンにとっては、この節税の仕組みがそのまま当てはまるかどうかが最大の論点になります。
会社設立をして役員報酬を受け取ると社会保険の被保険者になる、という点はどの立場でも共通です。違うのは、その前にどの制度に加入していたかです。
会社設立の前に、ご自身がいまどの社会保険に加入しているかを確かめてください。
出典適用事業所と被保険者 (日本年金機構/2026年8月22日確認)
会社員には、この仕組みが当てはまらない理由

では、なぜ会社員には当てはまらないのか。理由をはっきりさせます。
会社員は、本業ですでに健康保険と厚生年金に加入しています。国民健康保険と国民年金には加入していません。したがって、そこから移るという話が成り立ちません。
この状態で法人をつくり、役員報酬を受け取ると、二つの事業所で同時に被保険者になります。移動ではなく、重ねての適用です。
日本年金機構の案内によれば、この場合は「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を、事実発生から10日以内に被保険者本人が提出することとされています。
そして、保険料は両方の報酬を合算した標準報酬月額により決定され、それぞれの報酬に基づいて按分されます。
ここが決定的な違いです。個人事業主であれば役員報酬を低くすることで保険料を抑えられますが、会社員は本業の給与と合算されるため、報酬を低くしても本業の分は残ります。
むしろ、合算により標準報酬月額の等級が上がれば、保険料の総額が増えることになります。軽減どころか、増加する方向に働くのです。

サラリーマンが「マイクロ法人で社会保険料が安くなる」という説明を読んだら、それが誰を想定しているかを確かめてください。
サラリーマンが節税を目的にこの形を検討する場合、社会保険の部分は期待に含めないでください。
会社設立をした会社員は、二以上事業所勤務の届出をすることになります。この手続き自体、個人事業主が会社設立をする場合には生じません。
会社設立によって社会保険料が下がると期待していると、実際には増えていたということが起こり得ます。試算の段階で確認してください。
出典複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き (日本年金機構/2026年8月22日確認)
では会社員には意味がないのか

社会保険の軽減が当てはまらないとして、会社員が小規模な法人を持つ意味はまったくないのか。そうではありません。
社会保険以外の論点は残ります。具体的には、税率構造の違いと、経費として認められる範囲です。
個人の所得税は所得が増えるほど税率が上がる累進の仕組みですが、法人税は所得の金額に応じた区分で税率が定められています。この差を使うことはできます。
会社員の場合、副業の所得は本業の給与所得と合算して課税されます。本業の給与が高いほど、副業の所得に高い税率が乗っていますので、法人に移す効果が大きくなります。
また、法人は別人格ですので、法人からあなたへの支払いが成立します。役員報酬、退職金、出張日当、社宅。いずれも要件を満たせば損金になります。
これらは、法人の規模とは関係なく成り立つ話です。小規模であっても、要件を満たせば使えます。
したがって、会社員が小規模な法人を持つ意味は、社会保険ではなく税と経費に求めることになります。マイクロ法人という言葉で語られる中心的な話とは、力点が違います。
ただし、法人住民税の均等割は赤字でもかかります。総務省の資料で標準税率を確認すると、資本金等の額が1千万円以下で従業者数が50人以下の場合、年7万円です。
これに税理士費用が加わり、年30万円前後の固定費になります。税と経費による効果が、この固定費を上回るかが判断の基準になります。
サラリーマンにとっての節税の余地は、税率と経費の側にあります。
会社設立による節税を会社員が考えるなら、税率構造の差と経費の範囲に絞って見積もることになります。
会社設立の固定費は規模に関係なくかかります。小さな法人だから安く済むということはありません。
出典No.5759 法人税の税率 (国税庁/2026年8月22日確認)
役員報酬を極端に低くする形の問題

マイクロ法人の説明でよく出てくるのが、役員報酬を極端に低く設定するという形です。ここには注意が必要です。
社会保険料を抑えるために報酬を最低水準に設定するという説明を見かけますが、報酬の額は事業の実態と釣り合っている必要があります。
国税庁は役員給与について、不相当に高額な部分は損金にならないとしています。職務の内容、法人の収益の状況などが考慮されます。高すぎる場合の規定ですが、実態との釣り合いが見られるという点は共通です。
また、役員報酬が極端に低く、勤務の実態や法人の売上と説明がつかない場合には、標準報酬月額について年金事務所から照会や確認を受けることがあるとされています。
形式的に金額を設定すれば済むという話ではありません。その報酬額が、実際の職務内容や法人の規模に照らして説明できるかが問われます。
会社員の場合、本業に多くの時間を割いているため、法人での職務時間は限られます。その意味では低い報酬にも説明の余地がありますが、法人の売上規模との関係は問われ得ます。
さらに、個人事業と法人の事業内容が実質的に同じで、分ける必然性が説明できない場合も問題になります。なぜ二つに分けているのかを説明できる状態にしておいてください。
節税を目的に形だけを整えると、税務調査で否認される可能性があります。否認されれば、本税に加えて加算税や延滞税がかかります。
判断に迷う部分は、事業の内容を伝えたうえで税理士にご確認ください。
節税を目的に報酬を極端に低くすると、実態との整合が問われます。サラリーマンの場合、本業があるぶん法人での職務時間が限られる点は説明の材料になりますが、売上との関係は別に問われます。
会社設立をしたあと、役員報酬は事業年度の開始から一定期間内に決めることになります。低く設定する場合も、その根拠を説明できるようにしておいてください。
会社設立の直後に決める報酬額が、その年の社会保険料を左右します。
出典No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分) (国税庁/2026年8月22日確認)
実体をどう示すか

小規模な法人を持つ場合、実体をどう示すかが重要になります。
法人としての事業の実体がなく、所得を移すためだけに存在していると見られれば、その存在自体が問われます。会社設立をして所得を法人に移しても、その法人が何もしていなければ根拠がありません。
実体を示す材料としては、次のようなものがあります。
- 取引先との契約書や発注書
- 実際に提供した成果物や、提供の記録
- 取引先とのやり取りの履歴
- 事業に使った設備や資材の記録
- 法人名義の口座での入出金
会社員の副業法人は規模が小さいぶん、これらの材料も限られます。だからこそ、残せるものは残しておく必要があります。
また、個人事業も並行して続ける場合、二つの事業をどう分けているかを説明できることが求められます。事業の内容が同じであれば、分ける必然性が問われます。
異なる事業を法人と個人で分けて行っているのであれば、説明はしやすくなります。同じ事業を金額で按分しているだけであれば、説明が難しくなります。
節税のために分けているという説明では、認められません。事業上の理由が必要です。
サラリーマンとして本業を持ちながら二つの事業を回すのは、時間の面でも負担になります。無理のない範囲で設計してください。
会社設立の前に、この点を税理士に確認しておくことをおすすめします。
サラリーマンが二つの事業を並行して回すのは、時間の面でも負担になります。節税額と手間を並べて考えてください。
会社設立をして個人事業も続ける場合、二つの事業の区分を最初に決めておいてください。あとから整理するのは困難です。
出典No.5202 役員等に対する経済的利益 (国税庁/2026年8月22日確認)
会社員が検討する場合の判断材料

会社員が小規模な法人を持つかどうかを判断する材料を整理します。

一つめが最も重要です。マイクロ法人の節税として語られる中心的な効果が、会社員には生じません。この点を差し引いて判断してください。
二つめと三つめで、税率構造による効果の大きさが分かります。本業の給与が高いほど効果が大きく、給与所得控除が上限に達していれば所得の付け替えによる効果は生じません。
四つめで、固定費を上回るかを判定します。社会保険の軽減がない分、税と経費だけで年30万円を超える必要があります。
五つめは、否認を避けるための条件です。実体を説明できなければ、節税どころか負担が増えます。
この五つを確認すれば、マイクロ法人という言葉に惑わされずに判断できます。呼び方ではなく、ご自身の状況で決めてください。
サラリーマンとして本業がある以上、急いで法人を持つ必要はありません。条件が揃うまで待つという選択も合理的です。
節税の判断は、この五つを確認してから行ってください。
会社設立を判断するときは、呼び方ではなく数字と実態で決めてください。
会社設立をするかどうかは、五つを確認したうえで判断してください。
出典地方税制度|法人住民税 (総務省/2026年8月22日確認)
まとめ

マイクロ法人について、この記事で整理したことをまとめます。
- マイクロ法人は法律用語ではありません。会社法にも税法にもこの区分はなく、代表者一人の小規模な法人を指す通称です
- 特別な制度が用意されているわけではなく、手続きも税の計算も他の法人と同じです
- 語られている節税の中心は社会保険料の軽減ですが、国民健康保険と国民年金に加入している方が前提です
- 会社員は本業ですでに健康保険と厚生年金に加入しているため、この効果は生じません。むしろ合算により保険料が増えることがあります
- 会社員にとって残る論点は、税率構造の違いと経費の範囲です
- 役員報酬を極端に低く設定する形は、実態との釣り合いが問われます
マイクロ法人という言葉には特別な響きがありますが、実体は代表者一人の普通の法人です。呼び方に惑わされないでください。
そして、この言葉で語られる話の多くは個人事業主を想定しています。会社員が読むときは、社会保険の部分を差し引いて読む必要があります。
判断は、ご自身の状況で行ってください。本業の給与と副業の収支を持って、税理士にご相談いただくのが確実です。
サラリーマンの節税として語られる情報ほど、前提の確認が必要になります。
会社設立が節税につながるかどうかは、規模の呼び方とは無関係です。
出典2-4:被保険者が複数の適用事業所に使用されることになったとき (日本年金機構/2026年8月22日確認)
呼び方に惑わされないでください
マイクロ法人という言葉には、何か特別な制度があるような響きがあります。しかし実体は、代表者一人の普通の法人です。設立の手続きも、税の計算も、社会保険の適用も、他の法人と同じです。
そして、この言葉で語られる社会保険料の軽減という話は、国民健康保険と国民年金に加入している方を前提としています。本業で厚生年金に加入している会社員には、そのままは当てはまりません。
呼び方ではなく、ご自身の状況で判断してください。判断に迷う部分は、本業の給与と副業の収支を持って税理士にご相談ください。
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