法人にすると経費が広がるのか。不動産投資と会社設立の実際
この記事で確かめること
不動産投資で会社設立を検討している会社員に向けて、経費の扱いが実際にどう変わるかを整理する記事です。
「法人にすると経費の範囲が広がる」という説明が広く流通しています。ただし、範囲そのものが広がるわけではありません。変わるのは別の部分です。
何が変わり、何が変わらないのか。そして、否認されないための条件を扱います。個別の判断は税理士にご相談ください。
経費の基準は変わりません

最初に、誤解されやすい点を確認します。
法人にしても、経費として認められる基準は変わりません。業務に関係する支出であること。これが条件です。
個人の不動産所得でも、賃貸業務に関係する支出は必要経費になります。修繕費、管理費、損害保険料、固定資産税、借入金の利息。法人になったから新たに認められる、という性質のものではありません。
プライベートな支出を経費にできるようになるわけではないということです。
では、なぜ「範囲が広がる」と言われるのか。理由は二つあると考えられます。
一つめは、法人では手段が増えるからです。役員報酬、退職金、社宅といった仕組みが使えるようになります。これらは個人事業では使えません。
二つめは、個人で経費の計上が不十分だった場合に、法人化を機に見直すからです。この場合、増えたのは法人だからではなく、計上の精度が上がったからです。
サラリーマンとして不動産投資をしている方は、まず個人での計上に漏れがないかを確認してください。会社設立をしなくても、そこで負担が減る可能性があります。
サラリーマンの方が節税を目的に会社設立を考えるとき、この誤解から入ることが多くなります。まず基準が同じであることを確認してください。
会社設立を勧める説明で「経費の範囲が広がる」という表現が使われるとき、その中身が何を指しているのかを確かめてください。役員報酬や退職金といった手段を指しているなら正確ですが、業務と無関係な支出まで含む意味なら誤りです。
会社設立をしなくても改善できる部分を先に片づけると、法人化で得られる効果の大きさが正確に測れます。
出典法人所得の意義と法人税の納税義務者に関する基本的な考え方(要約) (国税庁/2026年8月22日確認)
役員報酬という手段

法人で使えるようになる手段の一つが、役員報酬です。
法人が代表者に支払う報酬は、要件を満たせば損金になります。国税庁が示すところによれば、定期同額給与などに該当する必要があります。
個人の不動産所得では、自分自身に給与を払うという処理はできません。法人にすると、この経路が使えるようになります。
そして、受け取る側では給与所得となり、給与所得控除が適用されます。国税庁の案内によれば、給与所得控除には上限が設けられています。
ただし、会社員には二つの注意点があります。
一つめが社会保険です。役員報酬を受け取れば法人でも被保険者になり、本業ですでに加入している方は二つの事業所で被保険者となります。日本年金機構の案内によれば、二以上事業所勤務の届出が必要で、保険料は両方の報酬を合算した標準報酬月額により決定され、按分されます。
二つめが給与所得控除の重複です。本業の給与と法人の役員報酬は合算して給与所得を計算しますので、控除が二回適用されるわけではありません。
したがって、サラリーマンにとって役員報酬の節税効果は限定的です。個人事業主が法人化する場合とは、事情が違います。
報酬をゼロにして法人に利益を残すという設計が取られることが多いのは、この事情によります。

サラリーマンにとっての節税効果は、この二つの注意点で相殺されることがあります。
会社設立をして役員報酬を出す設計にするかどうかは、社会保険の負担増と合わせて判断してください。個人事業主が法人化する場合と、会社員が法人を持つ場合とでは、前提がまったく違います。
会社設立の目的が節税だけなら、この点で期待が外れることがあります。
出典No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分) (国税庁/2026年8月22日確認)
家族に報酬を払う場合

家族を役員や従業員にして報酬を払うという方法があります。
個人の不動産所得でも、青色事業専従者給与という仕組みがあります。ただし要件が定められています。
法人では、家族を役員にして報酬を払うことができます。個人より設計の自由度は高くなります。
ただし、職務の実態が必要です。国税庁は役員給与について、不相当に高額な部分は損金にならないとしています。職務の内容、法人の収益の状況などが考慮されます。
実際には何もしていないのに報酬だけ払う、という形は否認されます。
したがって、どんな業務を担当しているかを説明できる状態にしてください。入居者からの連絡の受付、記帳の補助、物件の見回り。実際に行っている業務を記録します。
そして、その業務量に見合った金額かどうかが問われます。月に数時間の作業に対して高額な報酬を払えば、説明が難しくなります。
家族にも社会保険の問題が生じます。報酬の水準によっては、扶養から外れることになります。世帯全体で見て有利かどうかを確認してください。
会社員が家族を巻き込む形にする場合、世帯の手取りで比べることが必要です。法人の節税額だけを見ると、判断を誤ります。
世帯全体の節税額で見ないと、判断を誤ります。サラリーマンの家庭では、扶養の範囲が影響することもあります。
会社設立をして家族を役員にする場合、その家族が本業を持っているかどうかでも扱いが変わります。すでに勤務先で被保険者になっているなら、こちらでも複数事業所の論点が生じます。
会社設立の設計は、世帯の状況によって変わります。
出典No.5202 役員等に対する経済的利益 (国税庁/2026年8月22日確認)
減価償却の扱いの違い

減価償却についても、個人と法人で扱いが違います。
国税庁が示すところによれば、減価償却資産の取得に要した金額は、使用可能期間にわたって分割して必要経費または損金に算入します。
個人の場合、償却費の計上は原則として強制とされています。計上するかどうかを選ぶことはできません。
法人の場合、損金経理した金額のうち償却限度額に達するまでの金額が損金になるという仕組みです。限度額の範囲内で計上する金額を調整できる側面があります。
この違いは、利益の出方をならす場面で意味を持ちます。
ただし、償却を先送りしても、資産の取得価額の総額は変わりません。いずれ計上することになります。税額の総額が減るわけではなく、時期がずれるだけです。
そして、償却の方法や耐用年数の判定は複雑です。建物と設備で扱いが分かれ、中古物件では別の考え方が適用されます。
会社員が独力で判断するのは現実的ではありません。税理士に確認しながら進める領域です。
節税額の計算にあたっても、償却費の見込みは大きな要素になります。設立の前に試算してもらってください。
償却費の見込みは、節税額の計算に直結します。
会社設立をして法人で物件を保有する場合、償却の方法と耐用年数の判定は最初の決算で確定させます。この判断が以後の年度に影響しますので、税理士に確認しながら決めてください。
会社設立の初年度に決めた方針が、そのあと続きます。
出典No.2100 減価償却のあらまし (国税庁/2026年8月22日確認)
否認されないための条件

経費を計上するうえで、否認されないための条件を整理します。
法人にしたから通る、ということはありません。業務との関連を説明できることが条件です。

二つめの法人口座からの支払いが、実務上は最も重要です。個人の口座から払って法人の経費にすると、資金の流れが説明しにくくなります。
五つめの按分も注意が必要です。自宅を事務所として使う場合、床面積や使用時間などの合理的な基準で分ける必要があります。
そして、実体のない法人は否認の対象になりえます。所得を移すためだけに存在していると見られれば、経費以前に法人の存在そのものが問われます。
不動産投資の法人であれば、物件の管理と判断という業務が実際に行われていることを示してください。
サラリーマンとして本業のかたわらで運営する場合、業務量は限られます。その範囲で説明できる形にしてください。
節税のために計上した支出が否認されれば、その分の税額に加えて加算税の対象になります。サラリーマンの方は、この負担も見込んでおいてください。
会社設立をした以上、法人としての活動の記録が必要になります。個人の不動産所得では求められなかった水準の記録が、法人では前提になります。
出典No.5100 新設法人の届出書類 (国税庁/2026年8月22日確認)
会社員が見落としやすい点

会社員が経費の話だけで判断すると、見落とす点があります。
個人の不動産所得で損失が出た場合、他の所得と損益通算できます。国税庁の案内によれば、一定の場合を除き通算することができるとされています。
つまり、経費を多く計上して赤字になれば、本業の給与にかかる税金が減るという効果があります。
法人化すると、この効果は失われます。法人の損失は法人の中で処理され、個人の給与とは関係がなくなります。
経費を広く計上したいという動機で法人化すると、この点で逆効果になることがあります。
減価償却が大きく赤字が出やすい時期は、個人で持っているほうが給与との通算で有利になる場合があります。
そして、土地等を取得するための借入金の利子に相当する部分など、通算の対象から除かれるものがあります。すべてが通算できるわけではありません。
サラリーマンとして給与所得が大きい方ほど、この通算の効果も大きくなります。経費の話と並べて比べてください。
会社設立の判断は、両方を計算してからです。
節税を目的とするなら、この損益通算の効果も計算に入れてください。
会社設立の判断材料として、経費の話と損益通算の話を同じ表に並べてください。片方だけを見ると結論が偏ります。
会社設立で失うものを、先に書き出してください。
出典No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算 (国税庁/2026年8月22日確認)
整理すると何が変わるのか

ここまでの内容を整理します。
| 項目 | 個人(不動産所得) | 法人 |
|---|---|---|
| 経費の基準 | 業務との関連が条件 | 同じ |
| 自分への報酬 | できません | 役員報酬として可能(要件あり) |
| 家族への報酬 | 青色事業専従者給与(要件あり) | 役員報酬・給与として可能(実態が必要) |
| 減価償却 | 原則として計上します | 限度額の範囲で調整できる側面があります |
| 損失と給与の通算 | 一定の場合に可能 | できません |
※ 2026年8月22日に国税庁のページで確認した内容にもとづく整理です。適用の可否は事実関係により異なります。
一行目のとおり、基準そのものは同じです。範囲が広がるという説明は正確ではありません。
二行目から四行目が、法人で増える手段です。ただし、いずれも要件があり、会社員には社会保険の影響も生じます。
五行目が、法人化で失うものです。ここを計算に入れずに判断する例が少なくありません。
そして、固定費は年30万円前後かかります。手段が増えても、それを上回る効果がなければ意味がありません。
サラリーマンの方は、この表の五行分をご自身の数字で埋めてから判断してください。
節税額から固定費を引いた残りで判断します。サラリーマンの方は、この計算を必ず行ってください。
会社設立をした場合としない場合の数字を並べると、手段が増えることの価値が見えてきます。
出典No.5759 法人税の税率 (国税庁/2026年8月22日確認)
まとめ

不動産投資の経費と会社設立について、この記事で整理したことをまとめます。
- 経費として認められる基準は、個人でも法人でも同じです。範囲そのものは広がりません
- 変わるのは手段です。役員報酬、家族への報酬、退職金といった仕組みが使えるようになります
- ただし会社員は、役員報酬の節税効果が限定的です。給与所得控除は合算して計算され、社会保険料も増えます
- 家族への報酬には職務の実態が必要です。実体がなければ否認されます
- 法人化すると、不動産所得の損失を給与と通算できなくなります
- 固定費は年30万円前後。手段が増えても、それを上回る効果が必要です
法人にすれば経費が広がる、という説明は正確ではありません。広がるのは手段であって、基準ではありません。
そして、失うものもあります。給与との損益通算がその代表です。両方を計算してから判断してください。
サラリーマンとして不動産投資をしている方は、まず個人での計上に漏れがないかを確認してください。会社設立をしなくても負担が減る場合があります。
節税の手段が増えることと、節税額が増えることは別です。
会社設立をするかどうかは、この計算のあとに決めてください。
出典No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分) (国税庁/2026年8月22日確認)
手段が増えるだけで、基準は同じです
法人にしても、業務に関係のない支出が経費になるわけではありません。この点は個人でも法人でも同じです。
変わるのは、役員報酬や退職金といった手段が使えるようになることです。範囲ではなく手段が増えます。
そして、いずれも要件を満たすことが前提です。判断に迷う部分は、支出の内容を具体的に伝えて税理士にご相談ください。
この記事のタグ
この記事は判断の材料になりましたか?