副業の会社設立後、社会保険の手続きを誰がいつ行うか。実務の流れ
この記事の位置づけ
副業で会社設立をした会社員が、社会保険の手続きを実際にどう進めるかを確認するための記事です。制度の説明ではなく、実務の順序に重点を置きます。
手続きのなかには、事業主が行うものと被保険者本人が行うものが混在しています。会社設立をしたサラリーマンは事業主でもあり被保険者でもありますので、どちらの立場で何を出すのかを整理しておく必要があります。
期限のあるものが複数あります。会社設立の直後は税務署や自治体への届出も重なりますので、優先順位をつけて進めてください。個別の相談は年金事務所または社会保険労務士へお願いします。
手続きの全体像

副業で会社設立をして役員報酬を受け取る場合、社会保険に関する届出は大きく三つあります。
- 新規適用届:法人が適用事業所になったことの届出。事業主として提出します
- 資格取得届:役員が被保険者になったことの届出。事業主として提出します
- 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届:二つの事業所で被保険者になったことの届出。被保険者本人として提出します
会社設立をしたサラリーマンは、法人の事業主でもあり、その法人の被保険者でもあります。したがって、両方の立場で書類を出すことになります。
このうち三つめは、日本年金機構の案内によれば事実発生から10日以内に被保険者が提出することとされています。期限が短いので注意してください。
役員報酬をゼロにする場合、二つめと三つめは生じません。一つめの新規適用に関する手続きだけになります。手続きの量という点では、報酬を取らないほうが軽くなります。
ただし、報酬をゼロにすれば法人に利益が残り、個人はそれを使えません。節税の設計と手続きの量は連動しています。
会社設立の準備段階で、役員報酬を取るかどうかを決めておけば、必要な手続きが確定します。設立してから迷うと、期限に追われることになります。

会社設立による節税を確実にするには、手続きを漏らさないことが前提になります。届出が滞れば、遡って保険料を求められることもあり、その年の節税額が消えてしまうこともあります。
出典新規適用の手続き (日本年金機構/2026年8月21日確認)
新規適用の届出

最初の手続きが、新規適用の届出です。
法人は原則として強制適用事業所になりますので、会社設立をしたら年金事務所に届け出ることになります。日本年金機構が新規適用の手続きについて案内していますので、必要書類はそちらで確認してください。
一般的には、登記事項証明書などが必要になります。したがって、登記が完了してからでないと手続きができません。会社設立の登記を申請した段階では、まだ証明書が取得できないためです。
この手続きは、事業主として行います。会社設立をしたサラリーマンご自身が、法人の代表者として提出することになります。
提出先は、法人の所在地を管轄する年金事務所です。郵送や電子申請にも対応していることがありますので、平日に動きにくい会社員にとっては確認しておく価値があります。
会社設立の直後は、税務署や自治体への届出も重なります。それぞれに登記事項証明書が必要になることがありますので、複数通を取得しておくと手続きが早く進みます。
節税を目的に会社設立をする場合でも、この届出は避けて通れません。法人である以上、適用事業所になるためです。
なお、役員報酬をゼロにする予定であっても、適用事業所になること自体は変わりません。手続きの詳細は年金事務所にご確認ください。
節税の効果は決算を迎えてから現れますが、手続きの負担は設立の直後に集中します。この時間差を知らないと、会社設立をしたこと自体が失敗だったように感じられます。順番として当然のことだと理解しておいてください。
出典新規適用の手続き (日本年金機構/2026年8月21日確認)
資格取得の届出

次が、資格取得の届出です。役員が被保険者になったことを届け出ます。
この届出には、報酬月額を記載することになります。したがって、役員報酬をいくらにするかを決めてからでないと提出できません。
役員報酬は、会社法上の手続きを経て決定します。合同会社であれば総社員の同意など、株式会社であれば株主総会の決議によります。決定の記録として書面を残しておいてください。
そして、税務上は定期同額給与などの要件を満たす必要があります。国税庁が示すところによれば、損金に算入できる役員給与は定期同額給与、事前確定届出給与、業績連動給与のいずれかに該当するものです。
会社設立の初年度は、事業年度の開始から一定期間内に報酬を決めることになります。まだ売上の見通しが立たない段階で決めるという難しさがありますが、期限があります。
報酬額を決める際には、社会保険料がいくらになるかも確認しておいてください。本業の報酬と合算して等級が決まりますので、保険料額表で見当をつけられます。
節税の観点では、報酬を高くすれば法人の損金は増えますが、所得税と社会保険料が増えます。低くすれば法人に利益が残り、法人税がかかります。この兼ね合いで決めることになります。
サラリーマンの場合、本業の給与が土台にありますので、一般的な解説がそのまま当てはまりません。税理士に試算を依頼したうえで決めることをおすすめします。
この届出も、事業主として行います。
報酬額を決めることは、節税の設計そのものです。社会保険の届出のためにも報酬を確定させる必要がありますので、会社設立の準備段階で試算を済ませておくと、両方が同時に片づきます。
出典適用事業所と被保険者 (日本年金機構/2026年8月21日確認)
二以上事業所勤務届

三つめが、この記事で最も重要な手続きです。
本業ですでに厚生年金と健康保険に加入している会社員が、副業の法人からも役員報酬を受け取ると、二つの事業所で同時に被保険者になります。
日本年金機構の案内によれば、この場合は「健康保険・厚生年金保険 被保険者所属選択・二以上事業所勤務届」を提出し、主たる事業所を選ぶこととされています。
期限は事実発生から10日以内。提出するのは被保険者本人です。多くの社会保険の手続きは事業主が行いますが、この届出は本人が提出することとされています。
この届出の前提として、適用事業所の被保険者となるための資格取得届の提出が必要とされています。つまり、前の節の手続きが済んでいることが前提になります。
選択事業所を決めると、その事業所の所在地を管轄する事務センターが、あなたに関する事務を行うことになります。会社員が会社設立をした場合、本業の勤務先を選択事業所とするのが一般的な形です。
なお、健康保険組合に加入している事業所を選択した場合は、その健康保険組合にも手続きが必要になります。本業の健康保険が協会けんぽなのか組合健保なのかを、会社設立の前に確認しておいてください。
届出をしないまま報酬を受け取り続けると、本来あるべき保険料の計算とは異なる状態が続きます。年金事務所が把握した時点で遡って調整されることがあり、その場合は不足分をまとめて納めることになります。
節税を目的に会社設立をしたのであれば、この届出はその前提を支える手続きになります。適正な保険料で運営されている状態をつくることが、後々の安心につながります。
出典2-4:被保険者が複数の適用事業所に使用されることになったとき (日本年金機構/2026年8月21日確認)
届出のあとに起きること

届出が済むと、何が起きるかを確認します。
日本年金機構の案内によれば、決定した標準報酬月額および保険料額は、選択した事業所の所在地を管轄する事務センターから、それぞれの事業所へ通知されます。
つまり、通知は両方の事業所に届きます。本業の勤務先にも、あなたが二以上事業所勤務になったことが伝わることになります。
これは制度の仕組みであり、避ける方法があるという話ではありません。保険料を按分するには、両方の事業所が関わる必要があるためです。
したがって、副業で会社設立をして役員報酬を受け取る以上、本業に伝わらないという想定は成り立ちません。就業規則を確認し、必要であれば事前に相談するという順番をおすすめします。
通知を受けた本業の勤務先は、按分された保険料額に基づいて給与から控除することになります。給与明細を見れば、控除額が変わったことが分かる形になります。
節税の試算をするときは、この本業側の負担の変化も含めて考えてください。個人負担分は本業と法人の両方で発生します。
サラリーマンにとっては、会社設立の影響が本業の給与明細に現れるという点が実感しやすい変化だと思います。
節税の試算をするときは、本業側で増える控除額も含めてください。個人負担分は本業と法人の両方で発生しますので、給与明細の変化を見れば実感として分かります。
出典複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き (日本年金機構/2026年8月21日確認)
毎年発生する手続き

会社設立の直後の手続きが済んだあとも、毎年発生する手続きがあります。
代表的なのが算定基礎届です。標準報酬月額を見直すために、毎年決まった時期に提出します。二以上事業所勤務の場合、選択した事業所を管轄する事務センターから届出用紙が送られてくることがありますので、自社の報酬のみを記載して提出することになります。
また、報酬が大きく変わった場合には、随時改定の手続きが必要になることがあります。役員報酬を変更した場合が該当し得ます。
役員報酬は事業年度の開始から一定期間内に決めるものですので、変更するとしても年に一度の機会になります。そのタイミングで社会保険の手続きも必要になると考えておいてください。
さらに、本業で昇給があった場合にも、合算後の等級が変わる可能性があります。本業側で随時改定が行われれば、それが二以上事業所勤務の計算にも影響します。
会社設立をしたサラリーマンにとって、社会保険の手続きは一度で終わるものではありません。毎年続く作業として見込んでおいてください。
節税の効果を計算するときは、この手間も負担として数えてください。時間には価値があります。
社会保険労務士に依頼すれば、こうした手続きを任せられます。費用はかかりますが、本業を持ちながら運営する会社員にとっては現実的な選択です。
毎年の手続きにかかる時間も、節税額から差し引く負担として数えてください。サラリーマンとして本業がある以上、時間の確保は費用と同じ重みを持ちます。
出典適用事業所と被保険者 (日本年金機構/2026年8月21日確認)
誰に何を頼むか

会社設立の際に専門家に依頼する場合、誰に何を頼むのかを整理しておく必要があります。
税理士は、税務に関する手続きと相談を扱います。法人の決算と申告、税務署への届出、節税の設計などです。
社会保険労務士は、社会保険と労働保険に関する手続きを扱います。年金事務所への届出、算定基礎届、就業規則に関する相談などです。
この二つは別の資格です。税理士に依頼したから社会保険の手続きも含まれる、とは限りません。会社設立の相談をする段階で、範囲を確認しておいてください。

五つめの二以上事業所勤務届は、被保険者本人が提出することとされています。したがって、専門家に依頼していても、この部分はご自身で対応することになります。
サラリーマンとして本業を持ちながら会社設立をする場合、こうした分担を明確にしておかないと、誰も手を付けていない手続きが生じます。会社設立の前に整理しておいてください。
費用は、節税額から差し引かれる固定費です。依頼する範囲を広げれば手間は減りますが、費用は上がります。この交換をどう考えるかという判断になります。
節税の相談を含めて依頼するかどうかも、契約の前に確認してください。記帳と申告だけを頼む形では、役員報酬の設計まで踏み込んでもらえないことがあります。
出典No.5100 新設法人の届出書類 (国税庁/2026年8月21日確認)
まとめ

副業の会社設立後の社会保険の手続きについて、この記事で整理したことをまとめます。
- 新規適用届:法人が適用事業所になったことの届出。事業主として提出します。登記事項証明書が必要です
- 資格取得届:役員が被保険者になったことの届出。報酬額を決めてから提出します
- 二以上事業所勤務届:本業と重なる場合の届出。事実発生から10日以内に被保険者本人が提出します
- 届出後、標準報酬月額と保険料額が両方の事業所へ通知されます。本業の給与計算にも反映されます
- 毎年、算定基礎届などの手続きが続きます
- 税理士と社会保険労務士は別の資格です。依頼の範囲を確認してください
会社設立の直後は届出が集中します。そのなかで期限が最も短いのが二以上事業所勤務届の10日以内です。役員報酬を取る場合は、これを優先してください。
そして、通知は両方の事業所に届きます。副業で会社設立をして役員報酬を受け取る以上、本業に伝わらないという想定は成り立ちません。就業規則を確認したうえで進めてください。
出典地方税制度|法人住民税 (総務省/2026年8月21日確認)
期限の短いものから片づけてください
会社設立の直後は届出が集中します。税務署、都道府県、市区町村、年金事務所。それぞれに提出物があり、期限も異なります。
そのなかで期限が最も短いのが、二以上事業所勤務届の10日以内です。役員報酬を取る場合は、これを優先して片づけてください。
手続きに不安がある場合は、社会保険労務士に依頼することもできます。会社設立にあたって税理士に依頼する方は多いのですが、社会保険が範囲外になっていることがあります。誰に何を頼むのかを、契約の前に確認しておいてください。
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