個人事業から法人へ。会社設立で引き継ぐものと、切り替わるもの
この記事が扱う実務
個人事業から法人へ切り替えようとしている会社員に向けて、移行の実務を整理する記事です。
個人事業と法人は、別の主体です。契約も資産も、自動では引き継がれません。一つずつ手当てが必要になります。
何を、どの順序で行うのか。本業のかたわらで進める前提で示します。個別の手続きは各機関にご確認ください。
別の主体だという前提

最初に、前提を確認します。
個人事業と法人は、別の主体です。
同じ人が同じ事業を続けるとしても、法律上は別の存在になります。
したがって、契約も資産も、自動では引き継がれません。
取引先との契約、賃貸借契約、各種の登録。いずれも名義の変更や再締結が必要になる場合があります。
資産についても、個人から法人へ移す手続きが必要です。移せば、そこで課税が生じる場合があります。
この点を理解しないまま会社設立をすると、あとで手続きに追われることになります。
会社設立の登記が完了しても、それは出発点にすぎません。
サラリーマンとして本業がある方は、この作業量を先に把握してください。
節税を目的として会社設立をする場合でも、この手続きは避けて通れません。サラリーマンの方は、節税額と作業量を並べて判断してください。
会社設立をしても、個人事業を廃業せずに両方を続けることもできます。ただしその場合、個人の確定申告と法人の決算の両方が毎年必要になります。節税の効果と手間を比べて決めてください。
同じ人が同じ場所で同じ仕事を続けていても、法律上は別の主体に切り替わったことになります。この感覚のずれが、手続きの見落としを生みます。取引先から見ても相手が変わったことになりますので、その説明も必要になります。
出典商業・法人登記申請手続 (法務局/2026年8月22日確認)
届出の手続き

届出について整理します。
法人の側では、会社設立にともなう届出が必要です。国税庁の案内によれば、法人を設立した場合には法人設立届出書などを提出することとされています。
都道府県と市区町村への届出も必要になります。
個人事業の側でも、廃業する場合は届出が必要です。
青色申告の承認を受けていた場合、その取りやめに関する届出も生じます。
そして、法人の側で改めて青色申告の承認を申請する必要があります。
個人で受けていた承認は、法人には引き継がれません。
これらの届出には、それぞれ期限が定められています。
期限を過ぎると、その年度に適用を受けられないことがあります。
会社員が本業のかたわらで進める場合、一覧を作って管理してください。
サラリーマンとして時間が限られる以上、抜けが生じやすい部分です。
節税の効果を得るには、青色申告の承認を法人でも受けておく必要があります。会社設立の直後に申請してください。
届出の様式と提出先は、国税庁と自治体のページで確認できます。会社設立の直後にまとめて確認し、一覧にしておくと抜けが生じません。
届出のなかには、提出しないと不利になるものと、提出しなくても直ちに影響が出ないものがあります。ただし、どれが不利になるかを自分で判断するのは難しいため、一覧に挙がっているものはすべて期限内に出すという方針で進めるのが確実です。
出典No.5100 新設法人の届出書類 (国税庁/2026年8月22日確認)
資産の引き継ぎ

資産の引き継ぎについて確認します。
個人事業で使っていた資産を法人で使う場合、いくつかの方法があります。
| 方法 | 内容 | 注意点 |
|---|---|---|
| 売買 | 個人が法人に売却します | 時価による取引として扱われます |
| 現物出資 | 資産を出資して持分を受け取ります | 評価や手続きの要件があります |
| 賃貸 | 個人が法人に貸します | 賃料が個人の所得になります |
| 移さない | 個人が保有したまま使いません | 法人で新たに取得します |
※ どの方法が適切かは資産の内容と金額によります。必ず税理士にご確認ください。
一つめの売買では、時価による取引として扱われます。含み益があれば、個人の側に課税が生じます。
二つめの現物出資は、手続きの要件が定められています。金額によっては検査役の調査が必要になる場合があります。
不動産を移す場合は、登録免許税と不動産取得税も生じます。金額が大きくなりますので、事前に見積もってください。
四つめの、移さないという選択も現実的です。
会社員が副業として営む事業であれば、資産が少ないことも多いはずです。
サラリーマンの方は、移す資産があるかどうかを先に確認してください。
資産を移せば課税が生じますので、その分だけ節税の効果が目減りします。移さない選択のほうが有利な場合もあります。
会社設立の際に資産をどう扱うかは、税理士に相談してから決めてください。方法によって課税の扱いが変わり、節税の効果も変わります。
資産を移さずに個人が保有したまま、法人に貸すという方法を選んだ場合、賃料の水準が問題になります。相場からかけ離れた金額を設定すれば、その差額について課税上の扱いが問われることがあります。近隣の相場を調べたうえで決めてください。
出典No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得) (国税庁/2026年8月22日確認)
契約の切り替え

契約の切り替えについて確認します。
取引先との契約は、個人と結んだものです。法人が引き継ぐには、名義の変更または再締結が必要になります。
相手方の同意が必要ですので、事前に相談してください。
賃貸借契約も同様です。事務所や店舗を借りている場合、名義の変更には貸主の承諾が必要になります。
借入れがある場合は、金融機関との調整が必要です。個人の借入れを法人が引き継ぐには、金融機関の承諾が要ります。
各種の登録や許認可も、法人として取り直しが必要になる場合があります。事業の内容によって扱いが変わりますので、所管の窓口に確認してください。
そして、取引先への通知も必要です。請求書の宛先、振込先の口座。これらが変わることを伝えてください。
この作業は、思ったより時間がかかります。
会社員が本業のかたわらで進める場合、相手方の都合にも左右されます。
サラリーマンとして時間が限られる以上、余裕をもって進めてください。
契約の切り替えに時間がかかると、その分だけ節税の効果を得られる期間が遅れます。会社設立の前から動いてください。
会社設立をする予定であることを取引先に伝えるのは、登記が完了する前でも構いません。むしろ早めに伝えておくほうが、切り替えがなめらかに進みます。
許認可が必要な事業を営んでいる場合、法人として取り直すまでのあいだ事業を続けられないことがあります。この期間が生じるかどうかは事業の種類によりますので、所管の窓口に必ず確認してください。空白の期間ができれば、収入も止まります。
金融機関との調整は、最も時間がかかる部分になりがちです。借入れの引き継ぎには審査が必要になることが多く、条件が変わる可能性もあります。会社設立を決める前の段階で、一度相談しておいてください。
出典株式会社設立登記申請書(取締役会を設置しない会社の発起設立) (法務局/2026年8月22日確認)
口座と決済の切り替え

口座と決済の切り替えについて確認します。
法人名義の銀行口座を新たに開設する必要があります。
金融機関によっては、事業の内容の確認を求められ、審査に時間がかかることがあります。
登記が完了してからでないと開設できません。
したがって、会社設立から取引開始まで、数週間かかることがあります。
この期間の資金の流れをどうするかを決めておいてください。
決済手段についても切り替えが必要です。法人名義のカードや、各種の決済サービスの登録。
そして、個人の口座と法人の口座を明確に分けてください。混ざると、以後の処理が難しくなります。
個人事業のときに使っていた口座を、そのまま法人の口座として使うことはできません。
会社員が本業のかたわらで進める場合、平日の日中に金融機関へ行く必要が生じることもあります。
サラリーマンの方は、オンラインで完結する範囲を確認してください。
法人の口座が使えるようになるまでの期間も、節税の効果は生じません。会社設立の時期を決める際に見込んでおいてください。
会社設立の登記が完了したら、まず登記事項証明書と印鑑証明書を複数枚取得してください。口座開設や届出で何枚も必要になります。
法人口座の開設では、事業の内容を説明する書類を求められることがあります。個人事業として実績があるなら、その資料が説明の材料になります。過去の確定申告書や取引の記録を用意しておいてください。
出典法人所得の意義と法人税の納税義務者に関する基本的な考え方(要約) (国税庁/2026年8月22日確認)
切り替えの年の申告

切り替えの年の申告について確認します。
個人事業を廃業した年は、その年の1月1日から廃業までの期間について確定申告が必要です。
法人については、設立の日から事業年度末までの期間について申告することになります。
つまり、切り替えの年は二回分の申告が生じます。
そして、個人の確定申告の期限は例年3月中旬、法人の申告期限は事業年度終了から2か月以内です。
この二つが近い時期に重なると、負担が集中します。
事業年度の設定で、この重なりを避けることができます。会社設立の際に検討してください。
会社員の場合、本業の年末調整もあります。
年末調整で処理されない控除があれば、確定申告で申告することになります。
サラリーマンとして事業所得がある方は、もともと確定申告をしているはずです。切り替えの年は、そこに法人の申告が加わります。
この年だけは、税理士に依頼することを検討してもよいと思われます。

切り替えの年は作業が重なりますので、節税の効果を実感する前に負担が来ます。サラリーマンの方は覚悟しておいてください。
切り替えの年の申告は、個人と法人で計算の方法が違います。会社設立の初年度だけは専門家に依頼するという判断も現実的です。
個人事業の最後の申告では、廃業までの期間の収支を計算します。在庫や売掛金の扱いなど、通常の年とは違う処理が必要になる場合があります。判断に迷う部分は税理士に確認してください。
出典No.2070 青色申告制度 (国税庁/2026年8月22日確認)
進める順序

ここまでの内容を、順序としてまとめます。

一つめから三つめは、登記の前に行ってください。
登記してから相手方の同意が得られないと分かれば、手戻りになります。
七つめの社会保険については、役員報酬をゼロにすれば手続きが生じません。
日本年金機構の案内によれば、報酬を受け取って複数の適用事業所で被保険者となる場合には所定の届出が必要とされ、保険料は合算した標準報酬月額により決定され、按分されます。
会社員が本業のかたわらで進める場合、この七つを数か月かけて進めることになります。
サラリーマンとして時間が限られる以上、計画を立ててから動いてください。
会社設立をして節税を実現するまでには、この七つの手順があります。サラリーマンとして本業がある方は、数か月かけて進めることになります。
会社設立の登記そのものは数週間で終わりますが、前後の手続きを含めれば数か月かかります。節税の効果が出るのはそのあとです。
七つの手順のうち、自分の裁量で進められるのは四つめと五つめだけです。それ以外は相手方の都合に左右されますので、余裕をもった計画が必要になります。
出典新規適用の手続き (日本年金機構/2026年8月22日確認)
まとめ

個人事業から法人への切り替えについて、この記事で整理したことをまとめます。
- 個人事業と法人は別の主体です。契約も資産も自動では引き継がれません
- 届出は個人側と法人側の両方に生じます。青色申告の承認も引き継がれません
- 資産を移す方法は複数あります。移さないという選択も現実的です
- 契約の切り替えには相手方の同意が必要です。登記の前に相談してください
- 法人名義の口座を新たに開設します。登記後で、数週間かかることがあります
- 切り替えの年は個人と法人の両方で申告が必要になります
会社設立の登記が完了しても、それは出発点にすぎません。手続きはそこから始まります。
登記の前に済ませておくべきこともあります。就業規則の確認、取引先や金融機関への相談。
サラリーマンとして本業がある方は、平日の時間が取りにくいという制約があります。順序を決めて、余裕をもって進めてください。
会社設立による節税は、これらの手続きを終えて初めて動き出します。サラリーマンの方は、その前提で計画を立ててください。
出典No.1410 給与所得控除 (国税庁/2026年8月22日確認)
順序を決めてから動いてください
個人事業から法人への切り替えは、手続きの積み重ねです。届出、資産の引き継ぎ、契約の名義変更、口座の開設。
自動で引き継がれるものはありません。一つずつ確認して進めることになります。
会社員の場合、平日の時間が取りにくいという制約があります。順序を決めてから動いてください。判断に迷う部分は税理士にご相談ください。
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