会社員の個人事業は、いくらから会社設立か。目安が当てはまらない理由
この記事が正すこと
副業で開業届を出している、あるいは事業所得がある会社員に向けて、会社設立の分岐点をどう計算するかを整理する記事です。
「課税所得900万円から法人化」という目安をよく見かけます。ただし、これは事業所得だけの人を前提とした数字です。
給与がある会社員には、そのまま当てはまりません。なぜ当てはまらないのか、では何を計算すればよいのか。順に確かめます。
目安の数字が前提としているもの

まず、目安の数字が何を前提としているかを確認します。
「課税所得900万円から法人化」という目安は、所得税と法人税の税率を比べたものです。
国税庁が示すところによれば、所得税の税率は課税所得の金額に応じて区分されており、一定の水準を超えると税率が上がります。
法人税の税率は所得の金額に応じて区分されており、中小法人については一定額以下の部分に軽減された税率が適用されます。
この二つを比べて、逆転する水準を目安として示しているわけです。
ただし、この計算は事業所得だけの人を前提としています。
会社員には給与所得があります。事業所得は給与と合算して課税されますので、税率帯の位置がまったく違います。
したがって、目安の数字をそのまま使うことはできません。
サラリーマンとして副業の事業所得がある方は、この点から確認してください。
会社設立による節税を調べると、この目安が最初に出てきます。ただし前提を確かめずに使うと、判断を誤ります。
会社設立の是非を検討する記事の多くは、専業の個人事業主に向けて書かれています。副業として事業を営む会社員は、想定された読み手ではないことがあります。誰に向けた説明なのかを確かめながら読んでください。
出典No.2260 所得税の税率 (国税庁/2026年8月22日確認)
給与があると分岐点が下がります

会社員の場合、分岐点がどう変わるかを見ます。
給与所得は、事業所得と合算して課税されます。
つまり、給与だけですでに一定の税率帯にいる方が事業所得を得れば、その事業所得には給与の上に積み上がった税率が適用されます。
事業所得だけの人であれば、ゼロから積み上がっていきます。この違いが分岐点の位置を変えます。
| 本業の給与収入 | 事業所得に乗る税率帯の例 | 法人化の効きやすさ |
|---|---|---|
| 500万円前後 | 所得税20%程度 | 差が小さく、固定費に埋もれやすい |
| 800万円前後 | 所得税23%程度 | 検討の入口に入ります |
| 1100万円以上 | 所得税33%程度 | 差が開き、効きやすくなります |
| 1800万円以上 | 所得税40%程度 | 差が大きくなります |
※ 概算です。実際の税率は各種控除を引いたあとの課税所得で決まります。個別の判定は税理士にご確認ください。
この表が示すのは、事業所得の金額が同じでも、給与によって結論が変わるということです。
本業の給与が高い方ほど、少ない事業所得でも法人化の効果が出ます。
したがって、目安の900万円より低い水準で分岐点に達する場合があります。
会社設立を検討するサラリーマンは、まず源泉徴収票で本業の課税所得を確認してください。
会社設立をして節税を狙う場合、この税率差が効果の源になります。給与が高いサラリーマンほど、差が大きくなります。
会社設立をした場合の負担を計算するときは、法人税だけでなく地方法人税、法人住民税、法人事業税を合わせた水準で比べてください。単体の税率で比べると、節税の効果を大きく見積もることになります。
事業所得の金額は、売上から経費を引いたあとの数字です。青色申告の承認を受けていれば、そこからさらに特別控除が引かれます。会社設立を検討する際は、この控除まで引いたあとの金額で比べてください。控除を引かずに比べると、法人化の効果を大きく見積もることになります。
出典No.1400 給与所得 (国税庁/2026年8月22日確認)
ただし控除は二重に使えません

一方で、会社員に不利な要素もあります。
法人化して役員報酬を受け取ると、それは給与所得になります。
本業の給与も給与所得ですので、合算して計算されます。
国税庁が示すところによれば、給与所得控除は収入金額に応じて計算され、上限が定められています。
つまり、給与所得控除が二回適用されるわけではありません。
事業所得だけの人が法人化する場合、給与所得控除がまるごと新たに使えます。これが法人化の効果の一部を占めています。
会社員にはこの効果がありません。本業の給与ですでに使っているためです。
したがって、法人化の効果は事業所得だけの人より小さくなります。
分岐点が下がる要素と、効果が小さくなる要素。この二つが同時に働きます。
サラリーマンとして判断する場合、両方を計算に入れる必要があります。

節税額を見積もるときは、この控除の制約を必ず織り込んでください。会社設立の効果は、事業所得だけの人より小さくなります。
事業所得だけの人が法人化する場合、それまで一つの所得だったものが法人の所得と個人の給与に分かれます。この分割そのものが節税の効果を生みます。会社員の場合は、その効果の一部が失われると考えてください。
出典No.1410 給与所得控除 (国税庁/2026年8月22日確認)
社会保険の扱いも違います

社会保険についても、前提が違います。
個人事業主が法人化する場合、国民健康保険と国民年金から厚生年金と健康保険に変わります。
保険料の負担が大きく増えると説明されるのは、この変化を指しています。
会社員は違います。すでに本業で厚生年金と健康保険に加入しています。
法人で役員報酬を受け取れば、二つの事業所で被保険者になります。
日本年金機構の案内によれば、被保険者が複数の適用事業所に使用されることになったときは所定の届出が必要とされ、保険料は各事業所の報酬月額を合算して決定した標準報酬月額にもとづき按分されます。
つまり、二重に払うわけではありません。合算して計算されます。
そして、役員報酬をゼロにすれば、法人での被保険者になりません。この選択は個人事業主が法人化する場合には取りにくいものです。
会社員は本業の給与で生活が成り立っているため、この設計が取りやすくなります。
サラリーマンとして法人を持つ場合、この点は有利に働きます。
会社設立をして節税を進めるうえで、この選択が取れることは会社員の利点です。
会社設立をして役員報酬をゼロにすれば、法人に利益が残ります。その資金を個人が使うには課税が生じますが、当面の社会保険の負担は避けられます。節税の設計として現実的な選択肢です。
役員報酬をゼロにする場合、法人に残った資金の使い道を決めておく必要があります。将来的に報酬や配当として出せば、その時点で課税が生じます。使う予定がないまま積み上げても、資金が動かせない状態が続くだけです。
出典2-4:被保険者が複数の適用事業所に使用されることになったとき (日本年金機構/2026年8月22日確認)
消費税の論点は共通です

消費税についても触れておきます。
個人事業主の法人化を勧める説明で、消費税に関する効果が挙げられることがあります。
ただし、制度は改正されており、以前とは扱いが変わっている部分があります。
取引の相手方や、登録の状況によっても判断が変わります。
この記事では詳細に踏み込みません。制度が複雑で、個別の事情によって扱いが分かれるためです。
事業の売上が一定の規模に達している方は、必ず税理士に確認してください。
そして、消費税だけを理由に法人化を判断しないでください。制度は改正されます。
会社員の副業であれば、そもそも売上がその規模に達していないことも多いはずです。
サラリーマンとして事業を営んでいる方は、まず現在の売上規模を確認してください。
消費税の扱いは、事業の内容と取引の相手によって大きく変わります。一般論では判断できません。
会社設立の判断を消費税だけで決めないでください。節税の効果は、他の要素と合わせて測るものです。
消費税に関する制度は、この数年でも改正が重ねられています。会社設立の判断材料として使うなら、最新の内容を税理士に確認してください。古い情報のまま判断すると、期待した効果が得られません。
売上の規模が小さいうちは、この論点そのものが生じないことが多くなります。副業として始めたばかりの段階であれば、まず事業を育てることに集中するほうが現実的です。規模が見えてきた時点で、あらためて確認してください。
出典No.5100 新設法人の届出書類 (国税庁/2026年8月22日確認)
固定費を引いて計算する

計算の仕方を整理します。
節税額から固定費を引きます。
法人住民税の均等割が毎年かかります。総務省の資料で標準税率を確認すると、資本金等の額が1千万円以下で従業者数が50人以下の場合、都道府県民税2万円と市町村民税5万円で年7万円です。
これに決算と申告の費用が加わり、合計で年30万円前後になることが多くなります。
個人事業であれば、赤字の年に税負担は生じません。法人化すると、赤字でも均等割はかかります。

この図の交点が、その人の分岐点です。給与の水準が違えば、交点の位置も変わります。
そして、事業所得は年によって変動します。低い年を基準に見てください。
サラリーマンとして本業の給与があると、固定費を吸収できてしまいます。検証が甘くなる原因にもなります。
会社設立をするかどうかは、節税額から固定費を引いた残りで判断します。
会社設立の初年度は、設立費用も加わります。合同会社であれば数万円から十数万円、株式会社であれば定款認証の費用が加わりますので、初年度の節税額は目減りします。
事業所得が変動する仕事であれば、良い年と悪い年の両方で試算してください。会社設立をした年の翌年に事業が縮小すれば、固定費だけが残ることになります。低い年でも成り立つかを確かめてから判断してください。
出典地方税制度|法人住民税 (総務省/2026年8月22日確認)
会社員が先に確認すること

計算の前に確認することがあります。
就業規則の役員兼務の規定です。
個人事業として副業を行うことと、法人の代表者になることは別の論点です。副業が認められていても、役員兼務は認められない場合があります。
厚生労働省は副業・兼業の促進に関するガイドラインを示していますが、実際にどう扱うかは各社の判断です。
公務員の方は、国家公務員法および地方公務員法により営利企業の役員兼業が原則として禁止されています。
この確認が通らなければ、数字の計算に意味がありません。
当サイトでは勤務先に知られない方法は扱いません。就業規則を確認し、必要なら勤務先に相談してください。
そして、登記事項証明書は誰でも取得できる状態になります。これは制度としてそうなっているという事実です。
会社設立をするかどうかは、まずこの立場の確認からです。
サラリーマンとして本業を続けながら法人を持つ以上、この順序は変えられません。
会社設立ができる立場かどうかは、節税の計算より先に確認してください。
個人事業として副業を届け出ている場合でも、法人の代表者になることは別の扱いになります。就業規則の副業に関する条項と、役員兼務に関する条項の両方を読んでください。
勤務先に相談する場合、事業の内容と、法人を持つ理由を説明できるようにしておいてください。本業と競合しないこと、業務に支障が出ないこと。この二点が説明できれば、話は進みやすくなります。
出典副業・兼業の促進に関するガイドライン (厚生労働省/2026年8月22日確認)
まとめ

会社員の個人事業と会社設立について、この記事で整理したことをまとめます。
- 「課税所得900万円から」は事業所得だけの人を前提とした目安です
- 会社員は給与と合算されるため、分岐点はもっと低い位置にあります
- 一方、給与所得控除は合算して計算されます。二重には使えません
- 社会保険はすでに本業で加入済み。二重の負担ではなく、合算して按分されます
- 役員報酬をゼロにする設計が取りやすいのは、会社員に有利な点です
- 固定費は年30万円前後。赤字の年も均等割はかかります
目安の数字は、前提が違う人が使うと合いません。
まず源泉徴収票で本業の課税所得を確認してください。計算はそこから始まります。
サラリーマンとして事業所得がある方は、目安ではなくご自身の数字で判断してください。判断に迷う部分は税理士にご相談ください。
会社設立をして節税を目指すなら、目安ではなく実際の数字で計算してください。
会社設立をしないという判断も、節税の観点から合理的な場合があります。
出典No.5759 法人税の税率 (国税庁/2026年8月22日確認)
ご自身の数字で計算してください
「課税所得900万円から」という目安は、事業所得だけの人を前提にしています。会社員には当てはまりません。
給与がすでに税率帯を押し上げているため、分岐点はもっと低い位置にあります。一方、給与所得控除を二重には使えないという制約もあります。
目安ではなく、源泉徴収票と事業の収支から計算してください。判断に迷う部分は税理士にご相談ください。
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