家族を役員にすると扶養はどうなるか。会社設立と社会保険の境目
この記事が扱う判断
会社設立をした会社員に向けて、家族に報酬を出す場合の社会保険を整理する記事です。
所得を分散できるという説明はよく見かけます。ただし、報酬を出せば扶養の前提が動きます。保険料の負担が新たに生じる場合があります。
世帯全体の手取りで見なければ判断できません。その計算の仕方を扱います。個別の判断は税理士および年金事務所にご確認ください。
所得を分散するという発想

まず、この方法の考え方を確認します。
法人が家族に役員報酬を払えば、要件を満たす限り法人の損金になります。
そして、受け取る家族の側では給与所得になります。
本業の給与が高い会社員より、所得の少ない家族のほうが低い税率になる場合があります。
この差が、所得を分散することの効果です。
さらに、会社員自身が報酬を受け取る場合と違い、本業の給与と合算されません。別人の所得だからです。
したがって、給与所得控除も家族の側で新たに適用されます。
この点だけを見れば、会社員本人が報酬を取るより効率的に見えます。
サラリーマンとして本業の給与が高い方ほど、この方法が魅力的に映ると思われます。
ただし、社会保険の問題があります。次の節から確認します。
会社設立をして節税を狙うサラリーマンにとって、この所得分散は有力な選択肢に見えます。ただし効果があるのは、家族の税率が本人より低い場合に限られます。
会社設立の相談で家族を役員にすることを勧められた場合、その提案が何を前提にしているかを確かめてください。家族の現在の所得を聞かずに勧めているのであれば、効果の見積もりが甘い可能性があります。
報酬を受け取る家族の側でも、確定申告または年末調整が必要になります。法人が源泉徴収を行い、年末調整を行うことになりますので、その事務も生じます。
出典No.5211 役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分) (国税庁/2026年8月22日確認)
扶養から外れる境目

社会保険における扶養の扱いを確認します。
健康保険には被扶養者という仕組みがあります。要件を満たせば、保険料の負担なく加入できます。
厚生年金についても、配偶者が一定の要件を満たす場合の仕組みがあります。
これらの要件には、収入に関する基準が定められています。
報酬を出せば、その基準を超える可能性があります。
基準を超えれば、扶養から外れます。その家族は自分で保険料を負担することになります。
そして、法人で被保険者になる場合は、法人も保険料を負担します。
日本年金機構の案内によれば、法人の事業所は適用事業所とされ、そこで働く人が被保険者になるかは要件によって判断されます。
役員の場合の扱いは、勤務の実態や報酬の有無によって判断されます。少額なら適用されないと決めつけないでください。
会社設立をして家族に報酬を出す前に、年金事務所に確認してください。
会社設立の前に、この扶養の要件を確認してください。節税の設計は、その確認のあとです。サラリーマンの方は、配偶者の状況から確かめることになります。
収入の基準は制度として定められていますが、報酬以外の収入がある場合の扱いなど、判断が分かれる部分があります。自己判断で進めず、年金事務所に確認したうえで報酬の額を決めてください。
会社設立をして報酬を出し始めたあとで扶養から外れると分かった場合、さかのぼって調整が必要になることもあります。手続きの負担を避けるためにも、支給を始める前の確認が確実です。
出典適用事業所と被保険者 (日本年金機構/2026年8月22日確認)
負担がどう変わるか

扶養の内と外で、負担がどう変わるかを整理します。

扶養の範囲内に収めれば、保険料の負担は生じません。ただし報酬の額に制約があります。
扶養から外れれば、報酬を大きくできます。ただし保険料の負担が生じます。
この境目の前後で、世帯の手取りが逆転する場面があります。
報酬を少し増やしたら、保険料の負担で手取りが減った。こうしたことが起こりえます。
したがって、境目の周辺では慎重に設計する必要があります。
会社員が家族を役員にする場合、この段差を意識してください。
節税額を計算するときは、保険料も含めた世帯全体の数字で見てください。
会社設立をして節税を測る際は、この段差の位置を先に把握してください。境目のすぐ上に報酬を設定すると、節税どころか世帯の手取りが減ります。
会社設立をして家族に報酬を出すなら、この段差をまたぐかどうかで設計が変わります。またぐのであれば、段差を吸収できるだけの金額にする必要があります。中途半端な水準が最も不利になります。
段差の大きさは、家族の年齢や住んでいる自治体によっても変わります。健康保険の保険料率は保険者によって異なり、介護保険の対象になる年齢かどうかでも負担が変わるためです。概算ではなく、実際の料率で計算してください。
出典厚生年金保険の保険料 (日本年金機構/2026年8月22日確認)
職務の実態が前提です

社会保険の話の前に、そもそもの前提を確認します。
家族を役員にして報酬を払う以上、その家族が実際に職務を行っている必要があります。
国税庁は役員給与について、不相当に高額な部分は損金にならないとしています。判断にあたっては、その役員の職務の内容、法人の収益の状況などが考慮されます。
名前だけの役員に報酬を払う形は、損金として認められない可能性があります。
資産管理を目的とする法人では、業務が外から見えにくいという事情があります。だからこそ記録が重要になります。
残すべきものを整理します。
- どんな業務を担当しているか
- いつ、どれだけ行ったか
- 重要な判断への関与
- 報酬の額をどのように決めたか
会社員の家庭では、家族が担える業務量にも限りがあることが多いはずです。
その範囲に見合った報酬にしてください。実態を超えた金額を設定すれば、そこが否認の入口になります。
サラリーマンとして本業を持ちながら運営する法人では、業務そのものが少ないという前提があります。無理のない水準にしてください。
節税額を優先して実態を軽視すれば、会社設立そのものの意味が問われます。サラリーマンとして本業がある以上、家族が担える業務の量にも限りがあります。
業務の記録は、家族本人に書いてもらうのが自然です。本人が何をしたかを本人が記録する。この形であれば、実態との整合も取りやすくなります。
実態を示せる範囲で報酬を設定すれば、あとから説明を求められても答えられます。会社設立の目的が長く続く運営にあるなら、この積み重ねが効いてきます。
出典No.5202 役員等に対する経済的利益 (国税庁/2026年8月22日確認)
家族に本業がある場合

家族がすでに勤務先で働いている場合の扱いを確認します。
その家族がすでに厚生年金と健康保険に加入していれば、扶養の話ではありません。
法人から報酬を受け取れば、二つの事業所で被保険者になります。
日本年金機構の案内によれば、被保険者が同時に複数の適用事業所に使用されることになったときは、所定の届出を行う必要があります。
保険料は各事業所の報酬月額を合算して決定した標準報酬月額にもとづき按分されます。
つまり、会社員本人が報酬を取る場合と同じ構造になります。
そして、その家族の勤務先にも影響が及びます。保険料の按分にともなって、双方の事業所に関わる手続きが生じるためです。
家族の勤務先の就業規則も確認してください。役員兼務が認められない場合があります。
この場合、所得の分散という効果は限定的になります。すでに一定の所得があるためです。
会社設立をして家族を関与させる場合、その家族の就業状況を先に確認してください。
会社設立をして家族を役員にする場合、その家族の勤務先にも影響が及ぶ点を理解しておいてください。節税の設計が、家族の職場の手続きにつながります。
会社設立をして家族を役員にする前に、その家族が勤務先の就業規則を確認する必要があります。本人の意思と、勤務先の規定。この二つが揃わなければ進められません。
家族の勤務先で役員兼務が認められない場合、その家族を役員にすることはできません。従業員として関与してもらう形であれば可能な場合もありますが、その場合も勤務先の副業に関する規定を確認する必要があります。
出典2-4:被保険者が複数の適用事業所に使用されることになったとき (日本年金機構/2026年8月22日確認)
世帯の手取りで比べる

判断のための計算方法を示します。
世帯全体で、税と保険料を引いたあとの金額を比べます。
比べるのは、次の二つの状態です。
| 項目 | 家族に報酬を出さない場合 | 家族に報酬を出す場合 |
|---|---|---|
| 法人の所得 | 報酬の分だけ多い | 報酬の分だけ少ない |
| 法人税の負担 | 多い | 少ない |
| 法人の社会保険料 | なし | 報酬に応じて発生 |
| 家族の所得税・住民税 | なし(または現状のまま) | 報酬に応じて発生 |
| 家族の社会保険料 | 扶養なら負担なし | 扶養から外れれば発生 |
| 世帯の手取り | — | — |
※ 実際の金額はご自身の状況により変わります。個別の試算は税理士にご依頼ください。
一番下の世帯の手取りで比べてください。これが判断の基準です。
法人税が減ったことだけを見て有利だと判断しないでください。三行目から五行目の負担が増えています。
そして、報酬の水準を複数用意して比べることをおすすめします。扶養の範囲内、範囲を超えた水準、それぞれで計算します。
サラリーマンとして本業の給与がある方は、その給与も含めた世帯の数字で見てください。
この試算は税理士に依頼するのが確実です。会社設立の前に相談してください。
会社設立の判断は、この表を埋めてから行ってください。節税額は法人だけでは測れません。
試算では、報酬をゼロ、扶養の範囲内、範囲を超えた水準の三通りを用意すると比較しやすくなります。三つの数字を並べれば、どこに最適があるかが見えてきます。
法人の所得が年によって変動する場合、有利な水準も年ごとに変わります。会社設立から数年は、毎年見直す前提で進めてください。
試算の結果、報酬をゼロにするのが最も有利という結論になることもあります。その場合は無理に分散させず、法人に利益を残す設計を選んでください。手続きも簡素で済みます。
出典No.2260 所得税の税率 (国税庁/2026年8月22日確認)
設計の手順

ここまでの内容を、手順としてまとめます。

一つめが出発点です。業務の実態がなければ、そもそもこの方法は使えません。
三つめは年金事務所に確認してください。要件は制度として定められており、個別の判断が必要になる場合があります。
六つめで判断します。世帯の手取りが増えるなら、この方法に意味があります。
会社員が判断する場合、本業の給与を含めた計算でなければ意味がありません。
サラリーマンとして限られた時間で判断するなら、この六項目を埋めてから相談に行くほうが効率的です。
会社設立をする前にこの手順を踏めば、節税の効果を正しく見積もれます。サラリーマンの方は、本業の源泉徴収票も用意しておいてください。
会社設立から数年たって家族の状況が変わることもあります。就職、退職、転居。そのたびにこの手順を見直してください。
六項目のうち、一つめと二つめは家族との話し合いが必要です。会社設立の手続きを始める前に、この話を済ませておいてください。
出典複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き (日本年金機構/2026年8月22日確認)
まとめ

家族への報酬と社会保険について、この記事で整理したことをまとめます。
- 家族に報酬を出せば法人の損金になり、所得を分散できます
- ただし報酬の水準によっては扶養から外れます。保険料の負担が新たに生じます
- 法人も保険料を負担します。この分も節税額から差し引いてください
- 職務の実態が前提です。名前だけの役員に払う形は認められない可能性があります
- 家族に勤務先がある場合は、複数事業所の論点になります。扶養の話ではなくなります
- 判断は世帯全体の手取りで。法人税が減ったことだけを見ないでください
家族への報酬は、扶養の境目に段差があります。少し増やしたら手取りが減った、ということが起こりえます。
そして、実態がなければ報酬そのものが認められません。節税額を大きくしようとして無理な設計をしないでください。
サラリーマンとして本業がある方は、世帯全体の数字で判断してください。会社設立の前に税理士に試算を依頼することをおすすめします。
会社設立をして家族に報酬を出す設計は、節税と保険料の綱引きになります。
出典定時決定(算定基礎届) (日本年金機構/2026年8月22日確認)
世帯の手取りで比べてください
家族に報酬を出せば法人の損金になりますが、扶養から外れれば保険料の負担が生じます。
法人の節税額だけを見ると、判断を誤ります。世帯全体で、税と保険料を引いたあとの金額を比べてください。
そして、職務の実態がなければ報酬そのものが認められません。判断に迷う部分は税理士にご相談ください。
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