いつ法人にするか。不動産投資の会社設立は順序で費用が変わる
この記事が扱う判断
不動産投資をしている、あるいはこれから始める会社員に向けて、会社設立をいつ行うかを整理する記事です。
法人化が得かどうかではなく、どの順序で進めるかを扱います。物件を取得する前に法人を作るか、個人で買ってから移すか。ここで費用が大きく変わります。
同じ物件、同じ賃料でも、順序が違えば数百万円の差が出ます。個別の判断は税理士にご相談ください。
順序で何が変わるのか

不動産投資の法人化を考えるとき、得か損かの前に順序の問題があります。
物件を取得する前に会社設立をして、法人名義で買う。この場合、個人から法人への移転は生じません。
個人で取得したあとに法人へ移す。この場合、移転にともなう費用と課税が生じます。
同じ物件、同じ賃料収入でも、この順序の違いで数百万円の差が出ます。
したがって、これから物件を取得する予定があるなら、取得の前に会社設立を検討するのが基本の考え方になります。
ただし、法人名義で取得すると融資の条件が変わる可能性があり、単純に前倒しすればよいとは限りません。
すでに個人で物件を持っている場合は、移すか、そのまま持ち続けるかという別の判断になります。
サラリーマンとして不動産投資を始める段階の方は、一棟目を買う前にこの記事を読んでおいてください。あとから戻すことはできません。
サラリーマンが不動産投資を始めるとき、節税の話は物件の紹介と一緒に出てくることが多くなります。ただし順序の話まで説明されるとは限りません。
会社設立を先にするか後にするかという問いは、税額の比較とは別の軸です。税額の比較で法人が有利と出ても、順序を誤れば手元に残る金額は減ります。この二つを分けて考えてください。
出典商業・法人登記申請手続 (法務局/2026年8月22日確認)
取得の前に会社設立をする場合

まず、物件の取得前に会社設立をする場合です。
法人名義で物件を取得しますので、個人から法人への移転が生じません。登録免許税も不動産取得税も、通常の取得にともなうもの以外は発生しません。
そして、賃料ははじめから法人の収益になります。個人の所得として計上される期間がないため、給与との合算も生じません。
設立の費用は先に出ていきます。合同会社であれば数万円から十数万円、株式会社であれば定款認証の費用が加わります。
また、物件を取得する前から均等割の負担が始まります。取得までに時間がかかれば、その間も年7万円がかかります。
最も確認が必要なのが融資です。設立したばかりの法人には実績がありませんので、金融機関の審査の考え方が個人の場合と異なります。
会社員としての給与を背景に個人で借りるほうが条件がよい場合もあります。逆に、法人での借入れを前提とする金融機関もあります。
この点は、会社設立の前に金融機関に相談してください。設立してから融資が付かないと分かるのでは、順序が逆になります。
サラリーマンが不動産投資を始める場合、この確認が最初の作業になります。
節税の効果は、法人に賃料が入る期間だけ生じます。取得が遅れれば、その分だけ効果も遅れます。
会社設立をしてから物件の取得までに時間が空くと、その間の均等割と決算費用が積み上がります。取得の見通しが立たない段階で設立すると、この負担だけが先行します。設立と取得の時期を近づけてください。
融資の相談をする際は、法人で借りたい旨と、その法人がこれから設立するものであることを最初に伝えてください。金融機関によっては、代表者個人の保証を求める、あるいは個人での借入れを勧めるといった対応になります。条件を聞いてから設立の可否を判断できます。
出典株式会社設立登記申請書(取締役会を設置しない会社の発起設立) (法務局/2026年8月22日確認)
個人で取得してから移す場合

次に、個人で取得したあとに法人へ移す場合です。
移転にともなって、次の費用が生じます。
- 所有権移転の登録免許税
- 不動産取得税(法人が取得する側として負担します)
- 個人側の譲渡所得に対する課税(時価との関係で生じます)
- 司法書士への報酬
- 借入金がある場合は、金融機関との調整に関わる費用
金額は物件の価額によって変わりますが、数百万円になることも珍しくありません。
これらは一度きりの費用ですので、保有し続ける年数で割って年あたりに換算します。
移転コストが300万円で、年あたりの節税額が固定費を引いて40万円なら、回収に約8年かかる計算です。
回収に必要な年数が、保有し続ける期間より長ければ、移す意味は薄くなります。
そして、借入金のある物件を勝手に移すことはできません。金融機関の承諾が必要になることがあります。会社設立の前に相談してください。
サラリーマンとして本業がある方は、この手続きに平日の時間を要する点も見込んでおいてください。

サラリーマンの方は、この費用を節税額と並べて見てください。回収できない金額であれば、移す判断にはなりません。
会社設立をして物件を移す場合、法人側では取得価額をどう決めるかという問題も生じます。時価とかけ離れた価額で移せば、その差額について課税上の問題が生じる可能性があります。税理士の関与が前提です。
出典No.1370 不動産収入を受け取ったとき(不動産所得) (国税庁/2026年8月22日確認)
待つことの損失も計算する

移転コストばかりを見ると、判断を誤ります。待つことにも損失があります。
法人化すれば節税できる状態なのに個人のまま持ち続ければ、その期間の節税額を失っていることになります。
年40万円の節税ができる状態で3年待てば、120万円を失った計算です。

ただし、個人で持ち続ける利点もあります。損失が出た年に給与と通算できること、売却時に長期譲渡の税率が使えることです。
したがって、単純に早いほうがよいとは言えません。減価償却が大きく帳簿上の損失が出やすい時期は、個人で持つほうが有利な場合があります。
償却が進んで損失が出にくくなり、賃料が安定してきた時期が、移すことを検討する一つの区切りになります。
会社員が判断する場合、本業の給与水準の変化も要素になります。昇給して税率帯が上がれば、法人化の効果が大きくなります。
節税額を得られない期間の損失も、同じ表に書き出してください。
会社設立をいつ行うかは、減価償却の進み方とも関係します。償却費が大きい時期は帳簿上の損失が出やすく、個人であれば給与と通算できます。この時期を個人で通過するという考え方も成り立ちます。
節税額と待機の損失を年単位で並べると、どの時点で移すのが有利かが見えてきます。表計算で数年分を書き出してみてください。感覚ではなく数字で判断できます。
出典No.2260 所得税の税率 (国税庁/2026年8月22日確認)
物件を増やす予定がある場合

物件を増やす予定がある場合には、別の設計があります。
すでに持っている物件は個人のまま、これから取得する物件を法人名義にするという方法です。
この場合、移転コストは生じません。新規の取得を法人で行うだけです。
そして、新しい物件の賃料は法人の収益になります。個人の所得は増えませんので、給与との合算も進みません。
既存の物件については、そのまま個人で保有します。移転コストを負担せずに済み、長期譲渡の税率も維持されます。
この設計の利点は、費用をかけずに法人化の効果を得られることです。会社設立の費用と均等割はかかりますが、移転コストは生じません。
一方で、個人と法人の両方を管理することになります。確定申告と法人の決算、両方が必要です。
会社員が本業のかたわらで両方を管理できるか。手間の面での確認が必要になります。
サラリーマンとして物件を増やしていく予定なら、この設計を最初に検討する価値があります。
節税額と管理の手間を並べて、税理士に相談してください。
節税の効果を得ながら移転コストを避けられる点で、この設計はサラリーマンに向いています。
会社設立をして新規取得分だけを法人で持つ場合、物件ごとにどちらの名義かを管理することになります。契約書、賃料の入金口座、経費の支払い。混ざらないよう分けてください。
出典No.5759 法人税の税率 (国税庁/2026年8月22日確認)
会社員が先に確認すること

順序を決める前に、会社員には確認すべきことがあります。
一つめが就業規則です。不動産の賃貸そのものは副業に該当しないと扱われることが多いのですが、法人の代表者になることは別の論点です。役員兼務の可否を確認してください。
公務員の方は、国家公務員法および地方公務員法により営利企業の役員兼業が原則として禁止されています。不動産の賃貸についても一定の規模を超える場合には承認が必要とされることがあります。
二つめが融資です。個人と法人では審査の考え方が異なります。すでに借入れがある物件を法人に移す場合は、金融機関の承諾が必要になることがあります。
三つめが社会保険です。法人は役員一人でも適用事業所になります。役員報酬を受け取れば被保険者になり、本業ですでに加入している方は二つの事業所で被保険者となります。
日本年金機構の案内によれば、この場合は二以上事業所勤務の届出が必要で、保険料は両方の報酬を合算した標準報酬月額により決定され、按分されます。
この三つが通らなければ、順序の議論に意味がありません。会社設立ができる立場かどうかが先です。
サラリーマンとして本業を続けながら不動産投資をする以上、この確認は避けて通れません。
なお、当サイトでは勤務先に知られない方法は扱いません。就業規則を確認し、必要なら勤務先に相談してください。
節税の計算より先に、この三つを確認してください。
会社設立の可否が就業規則で決まる以上、まずそこを読んでください。役員兼務の規定は、副業の規定とは別の条項に置かれていることがあります。
出典複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き (日本年金機構/2026年8月22日確認)
順序の判断表

ここまでの内容を、状況ごとに整理します。
| いまの状況 | 検討する順序 | 主な理由 |
|---|---|---|
| これから一棟目を取得する | 取得の前に会社設立を検討 | 移転コストが生じません |
| 個人で保有・今後も増やす | 新規取得分を法人名義に | 既存物件の移転コストを避けられます |
| 個人で保有・増やす予定はない | 移転コストと回収年数で判断 | 回収に必要な年数を計算します |
| 数年内に売却する予定 | 個人のまま保有を検討 | 長期譲渡の税率が使えます |
※ 融資の条件と就業規則の確認が前提です。個別の判断は税理士にご相談ください。
一行目が、最も費用を抑えられる形です。これから始める方は、取得の前に検討してください。
二行目が、すでに保有している方の現実的な選択肢です。移転コストを避けながら、新しい分だけ法人に入れます。
三行目は、計算が必要な場面です。回収年数を出して、保有し続ける期間と比べてください。
四行目では、法人化しないという判断になりやすくなります。売却時の税率差が効くためです。
いずれの場合も、固定費は年30万円前後かかります。節税額から差し引いて判断してください。
節税額から固定費を引いた残りで、最終的に判断します。サラリーマンの方は、本業の給与水準も計算に入れてください。
会社設立の判断は、この表のどの行に当てはまるかで大きく変わります。ご自身の状況を先に確定させてください。
出典地方税制度|法人住民税 (総務省/2026年8月22日確認)
まとめ

不動産投資の法人化の順序について、この記事で整理したことをまとめます。
- 取得の前に会社設立をすれば、移転コストは生じません。あとから移せば数百万円かかることもあります
- ただし、法人名義での取得は融資の条件が変わる可能性があります。設立の前に金融機関へ相談してください
- すでに個人で持っている物件は、移転コストと回収年数で判断します
- 待つことにも損失があります。法人化すれば得られたはずの節税額を失っています
- 物件を増やす予定があるなら、新規取得分だけ法人名義にする設計があります
- 数年内に売却する予定なら、個人のまま保有するほうが有利な場合があります
不動産投資の法人化は、得か損かの前に、いつやるかという問題です。順序によって、かかる費用がまったく違います。
これから一棟目を取得する方は、買う前に検討してください。個人名義で登記してしまえば、戻すには費用がかかります。
サラリーマンとして本業がある方は、就業規則と融資の確認が先に来ます。その二つが通ってから、順序の判断に進んでください。
会社設立の順序を誤ると、あとから取り返すのに費用がかかります。
出典No.5100 新設法人の届出書類 (国税庁/2026年8月22日確認)
順序を先に決めてください
不動産投資の法人化は、得か損かの前に、いつやるかという問題です。取得の前に会社設立をすれば移転コストは生じません。あとから移せば生じます。
そして、待っている間の節税額も失われます。両方を並べて比べてください。
会社員の場合、就業規則と融資の確認が先に来ます。判断に迷う部分は、保有物件と取得の予定を伝えて税理士にご相談ください。
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