副業の会社設立はいつが適切か。会社員が見るべき四つの目安と、その前提
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副業の収入が育ってきて、そろそろ会社設立を考えるべきかと迷っている会社員の方に向けた記事です。いつが適切なのかという時期の問題を扱います。
検索すると「利益800万円から」「売上1000万円を超えたら」といった目安が出てきます。これらの数字は根拠のあるものですが、独立した個人事業主を前提としていることが多く、本業の給与があるサラリーマンにはそのまま当てはまりません。
この記事では、目安として語られる数字の根拠を確認したうえで、会社員が見るべき指標を整理します。節税の効果は前提によって変わりますので、個別の判断は税理士にご相談ください。
よく見る目安の根拠を確かめる

副業の会社設立を検討する目安として、次の三つの数字がよく挙げられます。まず、それぞれの根拠を確認します。
| よく見る目安 | 何を指しているか | 根拠 |
|---|---|---|
| 利益800万円 | 法人の所得金額 | 法人税に軽減された税率が適用される区分の境目 |
| 課税所得900万円 | 個人の課税所得 | 所得税の税率が23%から33%に上がる境目 |
| 売上1000万円 | 課税売上高 | 消費税の納税義務が生じる基準 |
※ いずれも制度上の区分の境目に由来する数字です。「ここを超えたら会社設立をすべき」という基準ではありません。
この表から分かるのは、三つがそれぞれ別の制度の話をしているということです。800万円は法人税、900万円は所得税、1000万円は消費税。節税の観点も違います。
したがって、一つの数字だけを見て会社設立を判断すると、他の要素を落とすことになります。
さらに、これらの目安には共通の前提があります。独立して事業を行っている個人事業主が法人化する場合を想定していることが多いのです。
会社員の場合、本業の給与所得がすでにあります。副業の所得はその上に積み上がりますので、同じ利益額でも乗る税率が違います。目安の数字をそのまま当てはめると、判断を誤ります。
では、会社員は何を見ればよいのか。次から四つの目安を挙げます。
サラリーマンが会社設立を考えるとき、この目安の数字だけが独り歩きしがちです。前提を確かめずに当てはめると、判断を誤ります。
出典No.5759 法人税の税率 (国税庁/2026年8月21日確認)
目安その一:本業の給与を含めた課税所得

会社員が最初に確認すべきなのは、副業の利益額ではなく、本業を含めた課税所得です。
所得税は所得が増えるほど税率が上がる累進の仕組みです。副業の所得は本業の給与所得と合算されますので、本業の給与が高い方ほど、副業の所得に高い税率が乗っています。
たとえば副業の利益が300万円あるとします。本業の給与収入が500万円の方と1000万円の方とでは、その300万円に適用される税率が違います。法人に移したときの節税額も、当然変わります。
| 本業の給与収入 | 副業所得に乗る税率帯の例 | 会社設立の検討 |
|---|---|---|
| 400〜500万円 | 所得税10〜20%程度 | 維持コストに埋もれやすい段階です |
| 600〜800万円 | 所得税20〜23%程度 | 検討の入口に入ります |
| 900万円以上 | 所得税33%程度 | 税率差が開き、効きやすくなります |
※ 概算です。実際の税率は各種控除を引いたあとの課税所得で決まり、扶養や住宅ローン控除の状況で変わります。個別の判定は税理士にご確認ください。
副業の利益が同じでも、本業の給与によって会社設立の効果が変わる。ここが、独立した個人事業主との最大の違いです。
確認の方法は簡単です。本業の源泉徴収票と、直近の確定申告書を並べてください。課税所得がいくらかが分かれば、どの税率帯にいるかが判定できます。
節税を目的に会社設立をするなら、この確認が出発点になります。ここが分からないまま目安の数字を追いかけても、判断はできません。
サラリーマンの場合、本業の給与という動かせない土台があります。この高さによって、同じ副業利益でも会社設立の効果が変わることを押さえてください。
出典No.2260 所得税の税率 (国税庁/2026年8月21日確認)
目安その二:維持コストを引いた残り

二つめの目安が、維持コストです。会社設立をすると、赤字でも毎年かかる費用が発生します。
法人住民税の均等割は、総務省の資料で標準税率を確認すると、資本金等の額が1千万円以下で従業者数が50人以下の場合、都道府県民税2万円と市町村民税5万円で年7万円です。自治体によっては超過課税により異なる場合があります。
これに税理士費用が加わります。決算と法人税の申告は、会社員が本業のかたわらで独学で行うには負担が大きい部分です。依頼すれば年間で十数万円から、顧問契約を結べば月額の顧問料が加わります。

つまり、会社設立の判断は「節税額が年30万円を超えるか」という問いに置き換えられます。目安として語られる数字の多くは、この差し引きをする前の話をしていることがあります。
なお、これは毎年の固定費です。設立時の費用(合同会社で6万円台から、株式会社で20万円台から)と、たたむときの費用(自分でやっても8万円ほど、依頼すれば20万円超)は別に発生します。
会社員が副業の会社設立を考えるときは、差し引いたあとの数字で比べるという点を守ってください。
サラリーマンが会社設立で節税を図るなら、この固定費を上回る効果が毎年出るかを確かめる必要があります。初年度だけの計算では足りません。
出典地方税制度|法人住民税 (総務省/2026年8月21日確認)
目安その三:社会保険をどうするか決まっているか

三つめが社会保険です。これは金額の目安ではなく、方針が決まっているかという目安です。
法人から役員報酬を受け取ると、その法人でも社会保険の被保険者になります。本業ですでに加入している会社員は、二つの事業所で被保険者となり、二以上事業所勤務の届出が必要になります。
日本年金機構の案内によれば、この届出は事実発生から10日以内に被保険者本人が提出することとされています。保険料は両方の報酬を合算した標準報酬月額により決定され、それぞれの報酬に基づいて按分されます。
報酬を取れば保険料が増え、取らなければ法人に利益が残って個人は受け取れない。どちらを選ぶかで、節税の結論が変わります。
会社設立の時期を考えるとき、この方針が決まっていないなら、まだ早いと考えてよいと思います。役員報酬は事業年度の開始から一定期間内に決めるもので、途中で自由に変えられないためです。
この方針が固まっていれば、会社設立の時期も自然と決まってきます。逆に固まっていないなら、まず税理士に相談して試算を出してもらうところからです。
サラリーマンにとって、この社会保険の重なりは会社設立で最も見落とされやすい負担です。方針を決めてから設立の時期を考えてください。
出典複数の事業所に雇用されるようになったときの手続き (日本年金機構/2026年8月21日確認)
目安その四:就業規則の確認が済んでいるか

四つめが、就業規則の確認です。これも金額ではなく、前提条件としての目安です。
会社設立をして代表者になるということは、法人の役員に就任するということです。就業規則に役員兼務を制限する規定があれば、そこに該当します。副業の規定だけを見て判断しないでください。
厚生労働省は副業・兼業の促進に関するガイドラインを示し、企業に対して認める方向での対応を促しています。ただし法律で義務づけているわけではなく、実際の取り扱いは会社ごとに異なります。届出制や許可制になっていることが一般的です。
許可制であれば、承認が下りるまで会社設立を進められません。この確認が済んでいなければ、いくら数字の条件が整っていても動けません。
公務員の方は、国家公務員法および地方公務員法により営利企業の役員兼業が原則として禁止されています。所属先の規程をご確認ください。

この四つが揃わないうちは、目安の数字を追いかけるより、揃えることに時間を使うほうが実益があります。
サラリーマンとして勤務を続ける以上、就業規則の確認は避けて通れません。数字の条件が整っていても、ここが通らなければ会社設立はできません。
出典副業・兼業と労働条件 (厚生労働省/2026年8月21日確認)
利益の安定性という、五つめの視点

四つの目安に加えて、もう一つ挙げておきたいことがあります。その利益が続く見込みがあるかです。
副業の収入は、本業の忙しさや取引先の事情で変動します。今年たまたま大きな利益が出たという理由で会社設立をすると、翌年以降に固定費だけが残ることがあります。
会社設立の費用が20万円、たたむ費用が20万円だとすると、合わせて40万円です。これを3年で割れば年13万円、10年で割れば年4万円になります。続ける期間が短いほど、年あたりの負担が重くなります。
| 続ける年数 | 入口と出口の費用(年あたり) | 毎年の固定費 | 合計(年あたり) |
|---|---|---|---|
| 3年 | 約13万円 | 約30万円 | 約43万円 |
| 5年 | 約8万円 | 約30万円 | 約38万円 |
| 10年 | 約4万円 | 約30万円 | 約34万円 |
※ 入口20万円・出口20万円・毎年の固定費30万円という前提を置いた概算です。実際の額は形態・自治体・依頼範囲によって変わります。条件が変われば結果も変わります。
この表から言えるのは、短期間でたたむ前提なら会社設立は割に合いにくいということです。年あたりの負担を上回る節税額が毎年出るのか、という問いに変わります。
複数年にわたって安定した利益が見込めるか。それが、会社設立を判断するときの実質的な条件になります。
会社員の場合、本業の状況が変わる可能性もあります。転職や異動があっても続けられる形かどうかも、あわせて考えておいてください。
サラリーマンの副業は、本業の繁忙期に手が回らなくなることがあります。利益の変動を見込んだうえで、会社設立の時期を判断してください。
出典No.1350 事業所得の課税のしくみ(事業所得) (国税庁/2026年8月21日確認)
急がなくてよい場合と、その間にできること

四つの目安のいずれかが揃っていない場合、いまは会社設立を急がなくてよいということになります。その間にできることを挙げます。
まず、青色申告の承認を受けることです。副業の所得が事業所得として認められる規模であれば、複式簿記による記帳を要件に特別控除が使えます。会社設立をせずに、記帳の方法を変えるだけで控除が増えます。
次に、経費の計上漏れを見直すことです。事業に必要な支出を正しく計上できているか。按分できるものを按分しているか。これも固定費がかかりません。
三つめに、小規模企業共済やiDeCoを検討することです。掛金が所得控除の対象になる制度があります。ご自身が加入できる制度かどうかを確認してみてください。
四つめに、記帳を続けて数字を把握することです。会社設立を判断するには、利益がいくらかを正確に知る必要があります。日々の記録が、その土台になります。
- 青色申告の承認を受けて特別控除を使う(事業所得として認められる場合)
- 経費の計上漏れと按分を見直す
- 所得控除の対象になる制度を確認する
- 記帳を続けて、利益の推移を把握する
これらはいずれも固定費がかからず、手間も会社設立より小さく済みます。会社設立より先に検討できることが残っていないかを確認してください。
サラリーマンが節税を考えるとき、会社設立は選択肢の一つにすぎません。固定費のかからない方法から先に試すほうが、確実に効果が出ます。
出典No.1410 給与所得控除 (国税庁/2026年8月21日確認)
まとめ

副業の会社設立の時期について、この記事で整理したことをまとめます。
- よく見る「800万円」「900万円」「1000万円」は、法人税・所得税・消費税という別の制度の区分に由来する数字です
- 目安その一:副業の利益だけでなく、本業を含めた課税所得を確認します
- 目安その二:節税額から年30万円前後の固定費を引いた残りで判断します
- 目安その三:役員報酬を取るかどうかの方針が決まっているかを確認します
- 目安その四:就業規則の確認が済んでいるかを確認します
- 加えて、その利益が複数年にわたって続く見込みがあるかを見てください
会社設立の時期について、一つの正解となる数字はありません。前提の組み合わせで動くためです。目安は出発点として使い、ご自身の数字に置き換えて判断してください。
四つの目安が揃わないうちは、個人のままでできることを先に検討するほうが確実です。固定費がかからず、手間も小さく済みます。
出典No.5100 新設法人の届出書類 (国税庁/2026年8月21日確認)
数字より、続く見込みのほうが大事です
会社設立の時期を決めるとき、目安の数字ばかりを気にしてしまいがちです。しかし実際に効いてくるのは、その利益が来年以降も続くかどうかです。
今年たまたま大きな利益が出たという理由で会社設立をすると、翌年以降に固定費だけが残ることがあります。均等割と税理士費用で年30万円前後。この額を毎年払い続けることになります。
複数年にわたって安定した利益が見込め、就業規則の確認も済んでいる。この二つが揃ってから動いても遅くありません。判断に迷う部分は、ご自身の数字を持って税理士にご相談ください。
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